【ボイスドラマ】一番近くのあなたへ

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莉紗(N)「和兄ぃは、いつも私の傍にいてくれた。辛い時も嬉しい時も、ずっと私の近くで見守っていてくれていた。和兄ぃがいなかったら、私はとっくにこの世界からはいなくなってたと思う。だから、和兄ぃには感謝してもしきれない。もし、和兄ぃに恩返しをするなら、それはきっと、私が強くなることだと思う。一人でも、ちゃんと生きて、前に進んでるよって見て貰うこと。それが、それだけが、私が和兄ぃにできることだから……」

莉紗(N)「和兄ぃは、いつも私の傍にいてくれた。辛い時も嬉しい時も、ずっと私の近くで見守っていてくれていた。和兄ぃがいなかったら、私はとっくにこの世界からはいなくなってたと思う。だから、和兄ぃには感謝してもしきれない。もし、和兄ぃに恩返しをするなら、それはきっと、私が強くなることだと思う。一人でも、ちゃんと生きて、前に進んでるよって見て貰うこと。それが、それだけが、私が和兄ぃにできることだから……」

  パンッと頬を打つ音。

父親「口答えしてねぇで、さっさと酒買ってこい!」

莉紗「でも……」

父親「もう一発、ぶん殴られてぇのか? 俺がブチ切れる前に行った方がお前の為だぞ」

莉紗「わかった……」

父親「ったく、ホント、どん臭ぇところはあいつ、ソックリだな」

莉紗「お母さんの悪口は……」

和也「莉紗、止めろ。行くぞ」

莉紗「う、うん……」

  道を歩く音。

莉紗「……ありがとう、和兄ぃ。止めてくれて」

和也「莉紗は、本当に母さんが好きだな。けど、もう母さんはいないんだ。ちゃんと割り切らないと」

莉紗「うん……わかってる」

和也「まあ、ゆっくりでいいさ。……それにしても、本当に謎だよなぁ」

莉紗「なにが?」

和也「母さんだよ。なんで、あんな糞みたいなやつと結婚したんだ? 控えめに言っても、クズだぜ?」

莉紗「うーん。世界の七不思議の一つだよね」

和也「もしかしたら、母さんが死ぬ前は、まともだったとか、かもな」

莉紗「母さんに聞いておきたかったなぁ」

和也「まあ、聞いてたところで、今のあいつはクズに変わりないけどな」

莉紗「……そうだね」

和也「それより、あと一年だ。高校卒業したと同時に家を出るぞ。それまでは、大人しくしてた方がいい」

莉紗「うん。バイトしてるのもバレてないし、大丈夫だよね」

  莉紗が父親に殴られる。

父親「おいおいおい。こりゃ、どういうことだ?」

莉紗「……返して」

父親「親に黙って、金稼いでるとか、何企んでやがる」

和也「おい! それは、莉紗がコツコツバイトして貯めた金だ!」

父親「おっほー! こりゃすげえな。どうやって稼いだ? 体でも売ったか?」

莉紗「私が働いて稼いだお金だから……返して」

父親「馬鹿野郎! 子供のものは親のもんだ。おい、暗証番号教えるか、ハンコよこせ」

莉紗「……いや」

父親「手間かけさせんなよ。俺がブチ切れる前に、早くしろ」

莉紗「……」

父親「ホント、お前はあいつに似て馬鹿だよな。結果は同じなんだから、怪我する前に、素直に言うこと聞けばいいのによぉ」

莉紗「っ!」

和也「莉紗、どいてろ」

莉紗「和兄ぃ!」

  包丁を拾い上げる音。

父親「ああ? てめえ、父親に向かって包丁向けるなんて、いい度胸だな」

和也「忠告しておくぞ、糞親父。刺される前に、さっさと通帳を返せ」

親父「面白れぇこと言うじゃねーか。お前に、俺が刺せるのかよ? いいぜ、やってみろよ」

和也「悪いな。俺はもう、覚悟できてんだよ」

  ブスリと包丁で腹を刺す音。

親父「うおおおお! て、てめえ、本当に刺しやがったなぁ!」

和也「じゃあな。あの世で、母さんに会ったら……って、会えるわけねえか。母さんは天国で、お前は地獄だからな」

  もう一度、ブスリと包丁で刺す音。

莉紗「……和兄ぃ」

和也「莉紗、すまん……」

莉紗「……私」

和也「お前は何も心配するな。全部、俺に任せておけばいいんだ」

莉紗(N)「その後のことは、よく覚えていない。和兄ぃはすぐに自首して、起訴されて、裁判になった。家庭環境や虐待されていたことを考慮されて、和兄ぃへの判決は懲役5年というものだった」

  重い扉が開く音。

  数歩踏み出す、足音。

和也「うーん。5年ぶりのシャバだぜ。やっぱり外は、空気がうまいな」

莉紗「和兄ぃ!」

和也「おお! 莉紗、来てくれたんだな」

莉紗「当たり前でしょ!」

和也「……5年も待たせて、悪かったな」

莉紗「ううん。私の方こそ、全部、和兄ぃに任せちゃって、ごめんね」

和也「何言ってるんだよ。あれは、俺がしたことだ。俺が罰を受けるのは当然だよ」

莉紗「……和兄ぃ」

和也「さてと、落ち込んでばかりもいられないぞ。ここから新しい生活が始まるんだ。気合い入れろよ、莉紗」

莉紗「うん」

莉紗(N)「和兄ぃの言う通り、私たちは普通に生活するだけでも、苦労した。なかなか、就職も決まらなかったけど、それでも精一杯、頑張り続けるしか、私たちには道がなかった」

莉紗「……え? 正社員に、ですか?」

亮介「ああ。君の働きぶりは、本社にまで噂になってるよ。この前出してくれた、作業の効率化を図るフローの資料、本社で正式に採用されることになったんだ」

莉紗「……申し訳ありません。でも、私、実は」

亮介「知ってるよ、君の事件のことは」

莉紗「え?」

亮介「本社にも伝えた上で、君を正社員にしたいと思ってる。どう? 受けてくれないかな?」

莉紗「……ありがとう、ございます」

莉紗(N)「そこからは、驚くくらいにトントン拍子に、私の人生は幸せに向かっていった」

亮介「……僕と、結婚してくれないか?」

莉紗「え?」

亮介「もちろん、君を正社員に誘ったことと、僕が君に結婚を申し込んだのは別の話だよ。……あ、いや、ごめん。ちょっとは下心あった。でも、別にそれを気にしなくてもいいんだ。嫌だったら、断ってくれていい」

莉紗「……嬉しいです」

  道を歩く音。

莉紗「って、わけで、告白されちゃった」

和也「ああ、莉紗が前から言ってた店長か」

莉紗「すっごくいい人だよ」

和也「店長ってことは、金持ちなんだよな? 玉の輿ってやつか?」

莉紗「もう、和兄ぃ!」

和也「はは、冗談冗談。いい話だと思うぜ。そろそろ、莉紗は幸せになってもいいはずだ」

莉紗「ありがとう、和兄ぃ」

和也「あーあ、もう俺だけの莉紗じゃなくなっちゃうんだなー」

莉紗「何言ってるの、和兄ぃのこと、私は……」

和也「なあ、莉紗。……幸せになれよ」

莉紗「……うん」

  部屋の中をウロウロとする足音。

莉紗「亮介さん、落ち着いてよ。ね?」

亮介「いや、そうは言ってもさー、緊張するよ」

莉紗「そんなに緊張してたら、せっかくの式が台無しになっちゃうよ」

亮介「わかってるんだけどさー。うう……社長の前でするプレゼンの時より、緊張するー」

莉紗「大丈夫。亮介さんなら」

亮介「うん。そうだな。……よし!」

莉紗「……あのね、亮介さん。式の前に一つ言わせて」

亮介「ん? なに?」

莉紗「こんな、私をお嫁さんにしてくれて、ありがとう」

亮介「……あのさ、僕も一つだけ、お願いがあるんだ」

莉紗「……なに?」

亮介「お兄さんに会わせてくれないかな?」

莉紗「……え?」

亮介「君をずっと支えてきてくれたお兄さんにちゃんと挨拶をしたいんだ」

莉紗「……わかった」

亮介「……」

和也「……どうも、初めまして、になるのかな」

亮介「あ、どうも。亮介です」

和也「うん。いい、面構えだ。これなら、莉紗を任せられるな」

亮介「……僕、絶対に莉紗さんを幸せにします!」

和也「ああ。頼んだぜ。……これで、ようやく俺もお役御免だな。安心して消えることができる」

亮介「……今まで、莉紗さんをありがとうございました」

和也「俺のことはあんたから言っておいてくれ。今、別れの挨拶なんかしたら、あいつ泣くだろうし。せっかくの結婚式を台無しにしたくないからな」

亮介「……はい」

和也「今後は莉紗のこと、頼むぜ。あと、莉紗に伝えておいてくれ。俺は消えたとしても、ずっとお前を愛してるって」

亮介「……わかりました」

莉紗(N)「あの日から和兄ぃの人格が現れたことはない。和兄ぃの人格は私に別れも告げずに、私の中から消えてしまった。ずっと近くで私を守ってくれていた和兄ぃ。私、絶対に幸せになるよ。……本当に、今までありがとう」

終わり

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