【マンガ原作用シナリオ】影法師の忍び
- 2019.05.13
- 映像系(10分~30分)
- 平原
忍び装束を着た桜田伊吹(6)と冬木真理(8)が並んで走っている。
伊吹が汗を大量に流しながら、真理に向かって無理やり笑みを浮かべる。
伊吹「へへっ! 真理姉ぇ、もっとスピード上げてもいいんだぞ」
真理「あら、そう? それじゃ、遠慮なく」
ギュンと真理がスピードを上げる。
伊吹「げっ! マジで上げれるの!」
あっさりと距離が離れていく。
- 同(夜)
息を切らせて、仰向けになって倒れている伊吹。
それを見下ろす真理。
伊吹「く、くそー」
真理「そんなに悔しがることないじゃない。伊吹の歳なら十分速いし、体力だってあるわ」
伊吹「歳なんて関係ない。今の強さが大事なんだ。敵は子供だからって手を抜いたりしないだろ」
真理「まだ6歳のくせして、生意気なこと言うじゃない」
伊吹「俺は日本一の忍びになるんだから、真理姉ぇだって越えきゃいけないんだからさ」
真理「お生憎様、私だって日本一を目指してるんだから」
伊吹「じゃあ、競争だな。どっちが早く日本一になれるか」
真理「ええ。受けて立つわ」
ニコっと笑った後、伊吹に背を向ける真理。
真理「……ねえ、伊吹。日本一になるためなら、私も殺せる?」
伊吹「は? 何言ってるんだよ?」
真理「日本一の忍びになるための条件が、私を殺すことだとしたら、伊吹は私を殺せる?」
伊吹「くだらねー。俺なら、そんな条件を無視して、最強を証明するから、関係ない」
真理が振り返って、微笑む。
真理「ふふっ、そんな甘ちゃんは日本一にはなれないわよ」
伊吹「けっ! 言ってろ」
- 町並み(朝)
道には車が行き交い、電車が走っている。
- 伊吹の部屋
伊吹(16)がベッドで寝ている。
枕元にあるスマホが8時を示すと同時に、アラームが鳴る。
伊吹「……」
伊吹がスマホを手に取り、スヌーズにして再び、寝始める。
母親の声「伊吹! 二度寝するんじゃないの!」
伊吹「……(目を開き)監視カメラでも付いてるんじゃねーだろうな」
スマホを見る伊吹。
- 通学路
学生服を着た伊吹が歩いている。
その時、上空から声が聞こえる。
真理「はあああああ!」
真理が忍び装束姿で、その手には黒刀を持っている。
真理の一撃を難なく躱す伊吹。
真理「えい! やあ! はっ!」
次々と繰り出す刀の攻撃を、欠伸をしながら避ける伊吹。
伊吹「真理姉ぇ。遅刻すんぞ」
真理「……」
真理がムスッとした顔をして、胸の前で印を結ぶ。
すると、真理の体を覆っていた忍び装束が解け、影に戻っていく。
制服姿に戻る真理。
伊吹「任務のとき以外、シルエットを使うのは禁止だろ」
真理「シルエットじゃなくて、影法師!」
伊吹「はいはい」
伊吹と真理が並んで歩く。
真理「伊吹、あんた、ちょっと最近、たるんでない?」
伊吹「なにが?」
真理「朝練にも来ないし、任務だって断ってばっかりじゃない」
伊吹「バイトが忙しいんだよ」
真理「はあー。そんなんじゃ、日本一の忍びになんか、なれないわよ」
伊吹「いつの話してるんだよ。いいんだよ、俺は。この年号が変わろうとしている現代で、忍びなんてもう流行らないんだよ」
真理「何言ってるの! 今もまだ大人気なのよ! 二世の話になっても、人気は衰えないわ!」
伊吹「それは漫画の話だろ! 俺が言ってるのは現実の話だ」
真理「はー、やだやだ。昔からませてたけど、最近、輪をかけてませちゃってさ。まだツルツルのくせに生意気なのよ」
伊吹「……最近、風呂に入っているときに、視線を感じることがあるんだが、まさか……」
真理「忍びたる者、どんなときも油断は禁物よ」
伊吹「おい!」
真理がいきなり走り出す。
振り向いて、悪戯っぽく笑う。
真理「悔しかったら、あんたも覗いてみなさいよ」
伊吹「(顔を真っ赤にしながら)……ホント、ガキのままだな。真理姉ぇは」
- 学校・廊下(放課後)
一人廊下を歩く伊吹。
立ち止まり、資料室と書かれた教室のドアを開けて、中に入る。
- 同・資料室
物置のような部屋で、そこに人気はいない。
壁に寄りかかり、腕を組む伊吹。
伊吹「……次の任務は?」
男の声「裏切り者の抹殺だ。最近、能力を使い、同志を暗殺している者がいる」
伊吹「……殺しはしない。捕まえるだけだ」
男の声「駄目だ。指令は抹殺。それができなければ指令は失敗とみなし、お前を正式な忍びに認定するわけにはいかない」
伊吹「……」
男の声「どうするかは、貴様自身で決めろ。だが、一つだけ言っておく。今回の指令を逃せば、貴様はもう二度と忍びになることはないだろう」
シュッという男の気配が消える音。
伊吹「……ちっ!」
- 葬式会場(回想)
伊吹の父の遺影が飾ってある。
その前で泣いている伊吹(10)。
母親「お父さんは立派にお役目を果たしたの。だから、泣くのではなく胸を張りなさい」
伊吹「嫌だ! 父さんには死んでほしくなかった。父さんが、あんな危険な任務を一人で受けなければ、死ぬことなんてなかったんだ!」
母親「……伊吹。それは仕方ないことなのよ」
伊吹が振り向くと、そこには同じく泣いている真理がいる。
伊吹「(真理を見て)俺は強くなる。危険な任務は俺が全部こなしてやる。これ以上、誰も死なせるもんか!」
- 学校・校門(回想終わり)
学校から出てくる伊吹。
そのとき、周りの風景がグニャリと歪んだ瞬間、すぐに元に戻る。
伊吹「結界……」
そして、伊吹に向かって、黒い手裏剣が襲い掛かる。
伊吹「ちっ!」
素早く片手で印を結ぶと、伊吹の影から刀が飛び出す。
それを手に、手裏剣を弾く。
真理「さすがね、伊吹」
そこには忍び装束に身を包んだ真理が立っている。
伊吹「なんの冗談だ? 能力だけじゃなく、結界まで張って。怒られるだけじゃすまないぞ」
真理「大丈夫。しゃべる奴がいなければ、バレないから」
真理が一気に間合いを詰め、刀を振るう。
伊吹「くぅ!」
間一髪、刀で防ぐ伊吹。
伊吹「今の、防がなかったら急所だぞ」
真理「幼馴染として一つ忠告してあげる。早く本気出さないと……死ぬわよ」
真理が印を結ぶと、影から無数の手裏剣が出現する。
伊吹「ま、真理姉ぇ。なんの真似だよ」
真理「まあ、楽に殺せるなら、私は別にいいんだけどね」
一気に手裏剣が伊吹に襲い掛かる。
伊吹「くそっ!」
伊吹が印を結ぶと同時に、手裏剣が迫る。
真理「……」
手裏剣が地面に叩き落され、忍び装束姿の伊吹が見える。
体には弾き飛ばせず、数個の手裏剣が刺さり、腕や足からは血が流れている。
真理「さっすが、伊吹。他の忍びとは、やっぱ違うね。でも、次はどうかな?」
真理が印を結ぶと先ほどの倍の量の手裏剣が出現する。
伊吹「まさか、裏切り者の忍びって……」
真理「あれ? もうバレちゃってるの? さっすが、お庭番衆ってところかしら」
伊吹「なんで、こんなことをする?」
真理「夢のため」
伊吹「夢?」
真理「私は日本一の忍びになる。その為にはこれは必要なことなの」
伊吹「どういうことだ?」
真理「影法師にはね、段階があるの。ある条件を満たせば、さらに能力が向上するの。こんな感じに」
真理がさらに印を結ぶと、手裏剣に黒い炎が纏う。
伊吹「くっ!」
真理「伊吹を殺せば、私はもっと高みに行ける」
狂気に満ちた目をする真理。
伊吹「真理、目を覚ませ」
真理「覚めてるよ。寝るのは伊吹、あんた」
一気に手裏剣が伊吹に迫る。
伊吹「うおおおおお!」
伊吹の咆哮をすると、伊吹が黒い光に包まれる。
すると、手裏剣が光に弾かれて落ちる。
真理「……覚醒した?」
伊吹「これは……?」
真理「まだよ!」
真理が刀を振るう。
その刀は伊吹に無数の傷をつけていく。
真理「私を殺さないと、死ぬわよ、伊吹!」
伊吹「ちっ!」
なんとか、刀で防ぎ続ける伊吹。
真理「ねえ、覚えてる、伊吹。小さい頃、話したこと。日本一になるためなら、私のこと殺せるかって?」
伊吹「覚えてる。俺はあのとき……」
真理「私はできるの。日本一になるためなら、私は伊吹を殺せるよ」
真理が伊吹に向かって刀を振り下ろす。
伊吹が真理の刀を弾く。
そして、真理の腹に一撃を入れる伊吹。
真理「うっ……」
倒れる真理。
伊吹「はあ……はあ……はあ……」
そこに黒子のような恰好をした男が現れる。
黒子の男「お見事。さ、止めを」
伊吹「……」
黒子の男「先ほども言ったが抹殺までが指令だ」
伊吹「……」
黒子の男「こいつはお前を殺そうとしたんだぞ。何を躊躇することがある?」
伊吹「……」
黒子の男「こいつを殺すか、忍びの道を諦めるか、決めろ」
伊吹「……俺は日本一の忍びになる」
黒子の男「よし、やれ」
伊吹「でも、真理も殺さない」
黒子の男「命令を無視する気か?」
伊吹「くだらねー。俺なら、そんな条件を無視して、最強を証明するから、関係ない」
黒子の男「そんな道理が通るとでも思ってるのか?」
伊吹「言っただろ。関係ない。俺は俺のやり方で、最強を証明する」
黒子の男「……そうか」
真理「合格―!」
真理が起き上がり、伊吹に抱き着く。
伊吹「なっ! 真理姉ぇ!」
真理「おめでとう! これで、伊吹も忍びだね」
伊吹「どういうことだ?」
黒子の男「今回の任務は、あなたの適性を見る試験でした。命を狙われたり、任務だからって人を殺すような人間は忍びにはできません」
伊吹「……普通、逆じゃないのか?」
黒子の男「いやいや、今は平せ……いや、年号が変わる時代に、そんな忍びは流行りませんよ。ちゃんと現代の法律を守っていくのがモットーです」
伊吹「忍びって、そんな軽いものなのかよ」
真理「ダメだなぁ、伊吹は。昔から忍びは義によって生きる。それは変わらないんだよ」
伊吹「そんな話か……?」
真理「まあ、気にしない、気にしない」
伊吹「それより、真理姉ぇ。覚醒ってなんなんだ?」
真理「ああ、あれね。あれは、大切な人に殺されそうになったときに目覚めるんだ」
伊吹「あ? それも逆じゃないのか? 普通は大切な人を殺したときに目覚めるとかじゃないのか?」
真理「それは漫画の話でしょ」
伊吹「……」
真理「ま、なにはともあれ、これで伊吹も忍びだね。おめでとう!」
伊吹「……ああ」
伊吹(N)「こうして、変な試験が終わって、俺は正式な忍びになることができた。これから、激動の日常が始まることになるのだが、それはまた、別の機会で」
終わり
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