【声劇台本】我が名は
- 2020.05.08
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、シリアス
■キャスト
おつう
武蔵
その他
■台本
おつう(N)「それは遥か長い旅路だった。無限とも思えるような時の流れの中で、刹那を生きてきた。すべては、そう、愛しきあの人をこの手で殺すために」
ザっというおつうの足音。
おつう「やっと見つけました」
武蔵「……」
おつう「さあ、あのときの約束を」
武蔵「ぐるるる……。ぐおおおおおお!」
おつう「やっぱり、墜ちていたのですね」
おつう(N)「剣を極めんとする者が必ず通る剣道、覇剣。覇剣を操れば身体能力の向上、精神の開放など、纏いし者に多大な恩恵を与えてくれる。……だが、一度でも道をそれ、外道へと墜ちる覇剣は魔剣へと変わる。魔剣へ魅入られた者は理性を失い、人を斬ることしか考えられなくなる」
おつう「たけ……いや、武蔵! しっかりしろ! お前が到達したいと願った道は、そこなのか?」
武蔵「うぐぐぐ……」
おつう「気をしっかりと持ってください! 魔剣に魅入られた者など、世間は剣豪とは認めませぬ! あなたが目指した天下無双は、そんなものじゃないはずです!」
武蔵「……天下無双」
おつう「そうです! 幼少より二人で目指した頂、道から逸れれば、到達など夢のまた夢です」
武蔵「天下無双……天下無双天下無双、天下天下天下テンテンテンテンテン」
おつう「武蔵様!」
武蔵「うおおおおお! 我が名は宮本武蔵! 剣の覇道を突き進む者だ!」
おつう「違う! 武蔵様、あなたは……」
武蔵「いざ、尋常にぃ! 勝負ぅ!」
武蔵が斬りかかり、剣で受けるおつう。
鍔迫り合い。
おつう「私はおつうです! わからないのですか!?」
武蔵「おつう……」
靄がかかるようなフオンという音。
回想。
たけぞう「おつう、俺は剣の道を極めるぜ」
回想終わり。
おつう「……え? 今のは、あなたの……記憶?」
武蔵「俺は俺は俺は俺は……」
靄がかかるようなフオンという音。
回想。
木剣で切り結ぶおつうと武蔵。
おつう「はああ!」
たけぞう「あめえっ!」
ガンとたけぞうの木剣がおつうの頭にヒットする。
おつう「痛っ!」
たけぞう「へへっ! これで1298勝0敗だ」
おつう「くっそ! もう一度、勝負!」
たけぞう「ああ、いつでも来な」
場面転換。
たけぞう「おつう。俺、戦に行こうかと思う」
おつう「戦……ですか?」
たけぞう「ああ、近々、大きな戦があるらしい。俺はそこで手柄を上げ、俺の名を天下に轟かせるつもりだ」
おつう「なら、私も行きます!」
たけぞう「あほう! 女が戦に出られるか」
おつう「……卑怯です。あなただけ、天下無双への道を進めるなんて」
たけぞう「そう拗ねるな。じゃあ、こうしよう。俺は必ず天下無双になって、戻ってくる。その俺に勝てば、お前は天下無双ってことになるじゃないか」
おつう「……なんか、漁夫の利みたいで気にいりませんけど、それで手を打ちます」
たけぞう「言っとくが、俺は今の数千倍強くなる。生半可な稽古じゃ俺に勝てねえぞ」
おつう「いいえ、あなたが戻る時には、完膚なきまでに叩きのめしてみせます!」
たけぞう「ははははは! 楽しみにしてるぞ」
おつう「……だから、必ず天下無双になって生きて帰ってきてください」
たけぞう「ああ! もちろん! 約束だ!」
場面転換。
戦場。
大勢の怒号が周りから聞こえてくる。
その中で、剣を振るっているたけぞう。
たけぞう「くそ、斬っても斬っても……。ここは地獄か」
侍「うおおおおお!」
たけぞう「ちっ!」
たけぞうが侍を斬る。
侍「ぐあっ!」
たけぞう「俺は死なねぇぞ! 約束したからな。おつう、待ってろよ」
場面転換。
吉岡道場。
武蔵「我が名は宮本武蔵」
清十郎「吉岡清十郎だ」
武蔵「いざ、尋常に勝負!」
清十郎「生きて帰れると思うなよ」
武蔵と清十郎が切り結ぶ。
そして、武蔵が清十郎を斬る。
清十郎「ぐあっ!」
清十郎が倒れる。
武蔵「はあ……はあ……はあ……」
清十郎「む、無念」
武蔵「……あの、吉岡に勝ったぞ。……おつう、これで俺の名もお前に届くか?」
場面転換。
森の中を走る武蔵。
大勢の吉岡道場の者が武蔵を追う。
男「武蔵を探せ! 何としてでも仕留めるのだ! そして、吉岡道場の復興を遂げよ!」
武蔵「約、百人ってところか。おもしれぇ。やってやる」
男「ぐあああ!」
数人の男たちが倒れる。
武蔵「……こ、これは。体が軽い。相手の動きがゆっくりに見える。……これが剣気か」
場面転換。
男「くそ……我が吉岡道場が、貴様一人に……」
武蔵「はあ……はあ……はあ。やったぞ。百人の達人を斬った。剣気も自由に操れるようになった。これで天下無双か……? いや、違うな。まだだ。おつう、待ってろよ。俺は最強になって戻るからな」
場面転換。
武蔵が斬られ、膝をつく。
武蔵「ぐっ」
ヒュンヒュンと分銅が回る音。
梅軒「武蔵よ。これが鎖鎌だ。剣相手に慣れ過ぎた貴様では見切れん」
武蔵「こんなところで、死ねるか」
梅軒「終わりだ」
武蔵「くそくそくそくそ! おつう! ……うおおおおおお!」
梅軒「な、なんだ!」
ドンと解放される音。
梅軒「闇の霧?」
武蔵「我は宮本武蔵……。天下無双を目指す者」
梅軒「なんだ、貴様。物の怪の類か? いいだろう。この俺が始末してくれる!」
武蔵「愚か者めが!」
梅軒「ぐああっ!」
武蔵があっさりと梅軒を切り伏せる。
武蔵「うおおおおお!」
回想終わり。
おつう「なるほど……。生きたいという強い意志がお前を外道へと堕としたのだな」
武蔵「ううう……。我の道を塞ぐものは何人たりとも許さん」
武蔵が剣を振るう。
おつう「……武蔵様。約束でしたね。天下無双になったあなたを私が斬る」
武蔵「我こそが天下無双だ!」
おつう「はああああ!」
おつうが武蔵を斬る。
武蔵「ぐあっ!」
おつう「さようなら、たけぞう」
場面転換。
男「それでは、これより巌流島決戦を行う。両者前へ」
小次郎「我が名は佐々木小次郎」
おつう「我が名は……宮本武蔵」
男「それでは! いざ尋常に、勝負!」
小次郎「おおおおおお!」
おつう「はああああああ!」
おつう(N)「あなたは魔剣に魅入られて、墜ちてしまったけれど、あなたの名は私が守っていきます。この天下無双の、宮本武蔵の名を」
終わり
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