不思議な館のアリス 天才の苦悩
- 2023.07.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:1人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
アリス
■台本
アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」
アリス「随分と久しぶりですね。妹の方には合われていたようですが」
アリス「ふふふふ。いえいえ。別に責めているわけではありません。少々、妬けただけですよ」
アリス「え? それじゃ、責めているのと変わらない、ですか?」
アリス「そうですね。では、そういうことにしておいてください」
アリス「ふふ。まあ、あの日は私もここにいなかったのが悪いのですがね」
アリス「さてと。どうしましょうか? 今日は久しぶりなので、お話ではなく雑談でもしましょうか?」
アリス「……え? 妹も同じことを言った、ですか?」
アリス「そうですか。そう言われると少しはなずかしいですね」
アリス「それにしても、私たち兄妹(きょうだい)が、ここまで個人と親交を深めるのは初めてですよ」
アリス「なんと言いますか、あなたと話していると心地よくなると言いますが、なんでも話してしまいそうになります」
アリス「もしかすると、あなたは聞くことの天才かもしれませんね」
アリス「……そうですか。どうせ天才なら、もっと違うことの天才がよかったと?」
アリス「そうですか……。ただ、天才と言うのも手放しで喜べるものではありませんよ?」
アリス「……では、今日は天才についてのお話をすることにしましょう」
アリス「前にもある天才についてお話ししましたが、今回はまた違う天才の男についてです」
アリス「その男は幼少期から何をするにも、上達が恐ろしいほど早かったようです」
アリス「10歳になる頃になると、3ヶ月も修練すれば、その道のプロと同等の技術を持つにいたるようになっていました」
アリス「周りはそれを持て囃しました。ですが、当の本人はそれがとても不満だったのです」
アリス「……いえ。別に褒められることが苦痛というわけではありませんよ」
アリス「なんでもすぐにできてしまうので、つまらないのだそうです」
アリス「最初の1ヶ月は、できないことができるようになることがとても楽しいのだそうです」
アリス「ですが、3ヶ月もするとコツを掴んでしまい、すぐにできるようになってしまうようですね」
アリス「男は様々なスポーツに手を出しました。そして、そのほぼすべてのスポーツ界でトップに降臨してしまったのです」
アリス「この稀代の天才に、世間は嫉妬することさえも馬鹿馬鹿しくなったそうですよ」
アリス「あの男は人間じゃない、くらいに思われていたようです」
アリス「そして、嫉妬されなくなった男に対して、次に待っていたのは人々の期待でした」
アリス「その業界の発展や技術の向上。現に、男が手を出したスポーツは、100年以上、技術が進んだと言われたそうです」
アリス「ただ、それも進むと、次は男の技術を教えようと思っても、理解できる人間がいなくなりました」
アリス「男の技術が高度過ぎて、男以外は習得不能というわけですね」
アリス「教わる方は、もう少しかみ砕いて教えて欲しいと懇願したようですが、男にとってはどう教えていいか、わからなかったのです」
アリス「男にとって、どうしてこれができないのか、というのがわからないことに悩む日々が続きました」
アリス「男の言葉にこんなものがあります。『どうやって息を吸っているのか? それをかみ砕いて技術として説明できる人間はいるだろうか? 俺にとってはそのくらい、単純で自然にできるものなのだ』」
アリス「天才もここまできてしまうと、苦笑してしまいますよね」
アリス「これが天才にしかわからない苦悩というものなのでしょう」
アリス「……その男は、今は何をしているのか、ですか?」
アリス「それが、実はようやく、人より才能のないものを見つけたようです」
アリス「……それは折り紙です」
アリス「ふふ。意外そうな顔ですね」
アリス「そうです。私たちからすれば、決まった通りに折ればいいだけなのですが、その男には、それがどうしてもできないようです」
アリス「もう10年以上毎日折り紙をしているそうですが、未だに鶴が折れないそうですよ」
アリス「男は色々な人間に、コツを教わっているようですが、やはりどうにも上手くいかないみたいですね」
アリス「この前は幼稚園児と一緒に、折り紙に熱中したそうです」
アリス「男にとっては、この、できないというのが面白いようです」
アリス「どうですか? あなたも、天才をうらやむのではなく、できないことを楽しんでみては?」
アリス「これで、今回のお話は終わりです」
アリス「ふふ。それではまたのお越しをお待ちしております」
終わり。
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