【オリジナルドラマシナリオ】ホロケウの雄叫び⑥

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弥生「今だ!」

  弥生が携帯のボタンを押す。

  すると、大きな音で、銃の乱射音や爆発音、多くの人間の声が再生される。

  熊が威嚇するように何度も吠える。

弥生(N)「熊は混乱したかのように、吠え続ける。そして、逃げようとした」

クテキラ「弥生! 大丈夫?」

耕介「弥生くん!」

  ラメトクが熊に襲い掛かる。

弥生「クテキラさん、ラメトク!」

弥生(N)「私の後を教授とクテキラさん、ラメトクが付いてきていた。ラメトクが、熊の喉に噛みつく。熊はそれを振りほどこうとして暴れ、そして、斜面へと転がり落ちていってしまった」

クテキラ「弥生、行こう。送っていく」

弥生「教授も行きましょう!」

耕介「私はこっちに残る。最後まで、オオカミや村の人たちと共にさせてくれ」

弥生「……どうしてですか?」

耕介「村の人たちには返しきれないほどの恩がある。それに、私は学者だからだ」

弥生「……」

耕介「結局、オオカミと一緒にいたいのかもしれん」

弥生「元の世界に帰ることよりも、ですか?」

耕介「すまない。弥生くん」

弥生「わかりました……」

クテキラ「弥生、早く」

弥生「さよなら、教授」

耕介「元気でな、弥生くん」

弥生(N)「そして、私とクテキラさんは洞窟へと急いだ」

弥生「ねえ、クテキラさん。こっちに来ませんか?」

クテキラ「え?」

弥生「ほら、あっちの世界なら、熊に襲われることもないですし、食べ物だって……」

クテキラ「ありがとう。でも、僕はあの村が好き。それに、弥生、言った。僕らは誇り高いって。その誇りを消せない」

弥生「……そうですよね」

クテキラ「さよなら、弥生」

弥生「クテキラさん。色々、ありがとうございました」

  弥生が洞窟内を足早に歩いていく。

弥生「(生唾を飲み込む)……」

  進み続ける弥生。

  そして、雪の上に出る。

弥生「……雪? 帰って来れた?」

  そのとき、男性(32)の声が聞こえてくる。

男性「いたぞ! 女性だ!」

弥生「……」

弥生(N)「私は男性の姿を見た瞬間、疲労の為か、倒れてしまったのだった。そして、それから一か月が経った」

  雪の上を歩く、弥生と椎名。

椎名「弥生ちゃん。本当に大丈夫? やっぱり、もう少し入院してた方がいいんじゃないの?」

弥生「平気です。怪我もありませんでしたし」

弥生(N)「私が行方不明になってすぐに椎名さんが捜索隊を要請してくれていたらしい。こっちに戻ってきたときに、私を見つけてくれたのは、捜索隊の人だった」

  椎名と弥生が歩き始める。

椎名「でも、研究はもう少し休んでからの方がいいんじゃないかな?」

弥生「椎名さん。私、オオカミの研究は止めようと思います」

椎名「……どうしたの、急に」

弥生「椎名さんの言った通り、前を向こうって思ったんです」

椎名「そっか。うん。そうした方がいいよ。オオカミは絶滅したんだ」

弥生「……」

  そのとき、弥生の後ろで、木々が揺れる。

弥生(N)「振り向くと、そこにはオオカミが二頭……アシリとチュプの姿が見えた」

弥生「(呟くように)こっちに来ちゃったんだ」

椎名「ん? なんか、言った?」

弥生「いえ。なんでも。……そうですね。オオカミは絶滅してるみたいです」

椎名「……」

弥生「そうだ、椎名さん。民俗学を研究しているゼミ、知りませんか?」

椎名「弥生ちゃん、もしかして……」

弥生「はい。山桐ゼミから出ます」

椎名「なんか、数日の間に随分と大人っぽくなったね。……それで、民俗学でどんな研究をするの?」

弥生「そうですね。……アイヌ民族の誇りについて、ですかね」

終わり

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