【声劇台本】君に捧ぐ
- 2020.10.23
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人~5人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、シリアス
■キャスト
オーウェン
オリビア
おじいさん
その他
■台本
オーウェン(N)「俺が生まれたとき、誰にも望まれてなかった」
母「お前なんか産まなきゃよかったよ!」
男1「オーウェン。お前がいると、いつもこうだ。お前なんかと出会わなければよかった」
男2「頼む、オーウェン。この世からいなくなることが、お前にできる最大の、世界に対する貢献になるんだ」
オーウェン(N)「俺が生きてることを、誰も望んでいなかった。会う人間、全てが俺を憎み、そして、死を願った」
男3「いたぞ、オーウェンだ! 捕まえろ!」
男4「いや、やっちまえ! 死んでても金額は変わらないんだ。生け捕るより早い!」
かちゃりと拳銃を構える音。
警察官「動くな、オーウェン! 両手を挙げて、大人しく投降しろ!」
オーウェンが走る音。
警察官「くそっ!」
バン、と拳銃が発砲される。
少しの間。
オーウェン「はあ……はあ……はあ……」
オーウェン(N)「正直言って、このまま死ぬのもいいと思った。いや、今まで俺は死ぬ理由を探していたのかもしれない。……だが」
オリビア「あの……大丈夫ですか?」
オーウェン(N)「この日、俺は初めて、俺が生まれてきたことを……生きることを望まれた。俺にとって、オリビアとの出会いの日が、俺という人生の始まり、つまり俺の誕生日になったのだった」
オーウェンと老人が並んで歩いている。
おじいさん「いやあ、悪いね、兄ちゃん」
オーウェン「いえ、仕事ですから」
おじいさん「老人の荷物持ちなんて、つまらんだろ。兄ちゃんなら、もっと割りのいい仕事、あるんじゃないのかい?」
オーウェン「そんなことないですよ。俺はいわゆる傷持ちですからね。こうして仕事を依頼してもらえるだけで充分です」
おじいさん「うーん。この町には過去を気にする人間なんていないと思うんだがなぁ。人は誰しも生きていれば後ろめたいことを持つものだ。あまり気にしない方がいいぞ」
オーウェン「ありがとうございます。俺はこの町の人が好きなんです。だから、少しでもみんなの役に立ちたいと思って」
おじいさん「それで、何でも屋をやってるわけか。おっと、着いた着いた。ここで大丈夫だよ」
オーウェン「荷物は玄関先まで置いておきますね」
オーウェンの荷物を置く音。
おじいさん「ありがとね。じゃあ、これ報酬」
オーウェン「え? いや、こんなにもらえませんよ!」
おじいさん「いや、もらってくれ。荷物持ちどころか、老人の話し相手になってくれたんだからね。その分も払わせておくれ」
オーウェン「……ありがとうございます」
オーウェンが歩き始めると、オリビアが追いかけてくる。
並んで歩く二人。
オリビア「あ、いたいた。探しましたよ」
オーウェン「オリビア。どうしたんだい?」
オリビア「これ、前に言っていた傷薬。やっと入荷したみたいだから、急いで買ってきたんです」
オーウェン「ありがとう。いくらだい?」
オリビア「ううん。あなたにはいつもお世話になりっぱなしですから。これはお礼としてもらってください」
オーウェン「でも……」
オリビア「いいんです。私には叔父という足長おじさんがいるんですから」
オーウェン「そっか。じゃあ、これはありがたくもらっておくよ」
オリビア「はい!」
オーウェン「それにしても、オリビア」
オリビア「なんですか?」
オーウェン「その……どうして、俺なんかにここまで良くしてくれるんだい?」
オリビア「え? それは……えっと……。あなたが幸運の女神だからです」
オーウェン「(笑って)男なのに?」
オリビア「あ、じゃあ、男神ですかね。あなたに出会ってから、私、いいことばかり起きるような気がするんです」
オーウェン「そうかな。疫病神の間違いかもよ」
オリビア「そんなことないです。あなたに会えるだけで……」
オーウェン「ん?」
オリビア「いえ。叔父という足長おじさんが現れたのも、あなたに出会ってからですよ」
オーウェン「……そうだっけ?」
オリビア「はい。それにしても不思議ですよね。今まで音信不通だった叔父から毎月、仕送りが送られるなんて。そもそも、私たちに叔父がいたなんて、知りもしませんでした」
オーウェン「確か、会社で成功したんだっけ?」
オリビア「よくはわかりませんが、そう、手紙には書いてありました。でも、いくらお金があるといっても会ったこともない姪にお金を送ってくれるなんて、変わってますよね。まあ、そのおかげで私たち家族が食べていけるんですけど」
オーウェン「もらえるものはもらっておきなよ」
オリビア「ええ。感謝して、使わせてもらってます」
オーウェン「それはよかった」
オリビア「え?」
オーウェン「あ、じゃあ、俺はこの辺で。それじゃ、また」
オリビア「はい! それではまた!」
オーウェンが足早に走っていく。
銀行の扉を開ける音。
受付のところまで歩く。
受付「あ、いらっしゃいませ」
オーウェン「振り込みを」
受付「いつものですね」
オーウェン「ああ」
受付「あて先はオリビア様。名義は叔父からということでよろしいですか?」
オーウェン「ああ」
オーウェン(N)「それなりに信用を得た俺はそれなりに稼げるようになった。最初はオリビアに直接、お金を渡そうとしたが断られてしまった。まあ、そりゃそうだろう。意味もなくお金を渡されたら、誰だって怖いものだ。だからこうして少し回りくどいが、仕送りという形でオリビアにお金を送っている。俺からのささやかなお礼だ。俺に生きる意味をくれた、君へのささやかなお礼」
勢いよく扉が開く。
オーウェン「いらっしゃいませ。ご用は……」
男「大変だ! オリビアちゃんの弟が!」
オーウェン「え?」
病院内をオーウェンが走る。
オーウェン「オリビア!」
オリビア「うう……」
オーウェン「大丈夫なのか?」
オリビア「心臓の病気らしいです。……このままじゃ、弟が、死んじゃうって……」
オーウェン「何か、方法はないのか?」
オリビア「すぐに手術すれば治るらしいんですが……」
オーウェン「お金か」
オリビア「……」
オーウェン「俺が必ずなんとかする」
オーウェン(N)「その後、医者から聞いた金額は俺の予想を遥かに超えていた。俺の有り金をはたいても足しにもならない。かといって、借金を頼めるようなところもあるわけもない」
オーウェン「どうする……。銀行を襲うか? いや、成功するかわからないし、なにより、そんな金を彼女に渡すわけにはいかない……。いや、待てよ。もしかしたら……」
オーウェンが電話の受話器を取り、番号を押し始める。
オーウェン「もしもし……」
男が走って来て、オリビアの家のドアを開く。
男「オリビアちゃん! 逃げろ! あの男、とんでもない犯罪者だったんだ!」
オリビア「え?」
男「今、こっちに向かってる……ぐあ!」
男が倒れる。
オーウェン「オリビア……」
オリビア「あの……これは?」
オーウェン「悪いな。こいつの言ったことは本当のことだ。俺は犯罪者だ。それも、結構な重い犯罪を犯してきた」
オリビア「……」
オーウェン「君に助けられたあの日。俺は富豪の家を襲撃して、失敗して、警察に追われて、逃げていたんだ」
オリビア「……」
オーウェン「今まで騙してて悪かったな」
オリビア「そんなの関係ありません。過去にあなたが何をしてきたとしても……私は今のあなたのことが好きです」
オーウェン「ありがとう。俺も君のことを愛してる。……だから、俺と一緒に逃げてくれないか?」
オリビア「え?」
オーウェン「俺のことが警察にバレた。だから、俺と一緒にこの町を出よう」
オリビア「でも、私……」
そのとき、複数のパトカーがやってくる。
オーウェン「もう来たか。オリビア、行こう!」
オリビア「嬉しいです。でも、私は弟を置いては……」
警察が部屋に入ってくる。
警察官1「オーウェン、大人しく投降しろ! 外は大勢の警察官で囲んでる! 逃げれると思うなよ!」
オーウェン「……わかった。投降する」
オリビア「あ、あの……」
オーウェン「オリビア。最後の俺からのお願いだ。弟と一緒に幸せになってほしい。そして、俺のことは忘れてくれ。……それじゃ、さよなら!」
警察官2「よし、来い、オーウェン」
オーウェンが警察に連れていかれる。
オリビア「……」
警察官1「いやあ、それにしてもお手柄でしたね。あの大悪党の情報を貰ったおかげでようやく逮捕できましたよ。後日、報奨金が支払われますので、お待ちください」
オリビア「……え? 報奨金?」
警察官1「ええ。あなたが通報してくれたんですよね? あの悪党がこの家に来るって」
オリビア「う、うう……」
オーウェン(N)「これが俺にできる最後の恩返しだ。俺に生きる意味をくれた君への。俺にとって、君は俺の人生のすべてだった。俺の人生は君、そのものだ。だからこれでいい。俺の人生のすべてを君に捧ぐ」
終わり
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