【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 深窓の令嬢

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「ふふ。この台詞も何回目かしらね。随分と言った気もするし、まだ大した回数を言ってないような気もするわ」

亜梨珠「でも、私としては随分と長く、あなたと話してると思うのよね」

亜梨珠「私にとって、あなたは一番のお客様ってところかしら」

亜梨珠「……確かに、お客様って感じではないわね。友人の方が近いかもしれないわ」

亜梨珠「友人としてなら、あなたが一番親しいのは間違いないわね」

亜梨珠「え? 友達がいないのか、って? ……余計なお世話よ」

亜梨珠「さ、今日も、さっさと話しをしてしまいましょう」

亜梨珠「いえ、別に友達がいないのかって言ったことを怒ってるわけではないわよ」

亜梨珠「本当に全然、怒ってないわ。全くね」

亜梨珠「……友人なんて言っても、あなたのこと、何も知らないに等しいし」

亜梨珠「あなただって、私のこと、何も知らないんじゃないかしら?」

亜梨珠「私が亜梨珠(ありす)って名前で、アリスという兄がいる、くらいしか知らないでしょ?」

亜梨珠「……でも、それさえも、本当かわからないわよね?」

亜梨珠「もしかしたら、私は本物の亜梨珠じゃないかもしれないわ」

亜梨珠「ふふ。不思議そうな顔をしてるわね」

亜梨珠「それじゃ、今日はこのお話をしましょうか……」

亜梨珠「それはある小学5年生のお話よ」

亜梨珠「その男の子はいつも元気に学校に通っていたわ。いつも同じ時間に同じ道を通って、学校に行く。そんな毎日」

亜梨珠「そんな男の子の通学路の途中に、あるお金持ちの家があったの」

亜梨珠「その家は別荘に近いらしくって、お金持ちの一家がずっと住んでいるわけではなかったみたいで、いつもはどの窓にもカーテンが閉まっていて中は見えない状態だったらしいわ」

亜梨珠「その男の子は、そのことを気にすることなく、毎日、その家の前を通って学校に通っていたの」

亜梨珠「そんなある日、いつも通り、その家の前を通りかかった時、窓を叩く音が聞こえたの」

亜梨珠「ふと、上を見ると窓から女の子がこっちを見ていて、手を振っていたのよ」

亜梨珠「とっても可愛らしい女の子でね、その男の子も手を振ったらしいわ」

亜梨珠「そしたら、その女の子は笑顔でまた、手を振ったの」

亜梨珠「その日から、その家の前で女の子に手を振るのが、男の子の毎日になったの」

亜梨珠「その女の子を見るのが、男の子にとって、毎日の楽しみになっていったわ」

亜梨珠「そんな日が大体3ヶ月続いたの。その男の子も、そんな毎日がずっと続くと思っていたみたい」

亜梨珠「でも、その日は女の子の姿は見えなかったの。いつも、女の子が手を振っていた窓はカーテンが閉まっていたわ」

亜梨珠「男の子は、女の子が風邪でもひいたのかと思ってきにしなかったんだけど、その次の日、その家の前には人混みが出来ていて、家の中には大勢の警察官が出入りしていたわ」

亜梨珠「男の子は家の前に立っていた野次馬の一人に、何があったのかを聞いたの」

亜梨珠「そしたら、どうやらこの家で一家惨殺が行われたと聞いたの」

亜梨珠「男の子は驚いたわ。いつも見ていた女の子が殺されてしまったことに相当ショックを受けたみたいね」

亜梨珠「でも、その話を近くで聞いていた警察官に呼び止められたの」

亜梨珠「警察官の話では目撃情報がほとんどなく、知っていることがあれば、教えて欲しいって」

亜梨珠「だから、男の子は全部話したわ。この3ヶ月間、ずっとここの家の女の子に、窓越しで手を振っていたことを」

亜梨珠「そして、それが今日の朝には女の子の姿が見えなかったことも」

亜梨珠「そこで警察は男の子の話を聞いて、一人娘は昨日までは生きていた、つまりは殺害されたのは、昨日、男の子が通りかかった後から、朝、男の子が通りかかる前までということになったわけね」

亜梨珠「男の子はそのとき、ショックを受けたけど、やがてはその事件のことを忘れていったわ」

亜梨珠「その事件から7、8年経った頃、その事件があった家が取り壊されることになり、その取り壊されているのを見て、男の子は事件のことを思い出したの」

亜梨珠「そこで、事件のことがどうなったのか気になって、調べてみたそうよ」

亜梨珠「そしたら、その事件は未解決だったの。容疑者はいたようだけど、事件の関係者の証言と死亡推定時刻を合わせて考えた事件があった時刻にはアリバイがあったから逮捕には至らなかったわ」

亜梨珠「その男の子は、その関係者の証言が自分のことだと気づいたの。まさか、自分のあの話が、そんな大事だったなんて、と今更ながら、責任を感じたらしいわ」

亜梨珠「でも、もっと衝撃的なことが、わかったの」

亜梨珠「それは……」

亜梨珠「被害者の顔写真に載っていた、女の子の顔が全然違っていたの」

亜梨珠「その男の子は頭を殴られたかのようにショックを受けたらしいわ」

亜梨珠「……これがどういうことかわかるかしら?」

亜梨珠「つまり、こういうことよ」

亜梨珠「一番最初から、窓から手を振っていたのはその家の女の子じゃなかったってことね」

亜梨珠「ということは、どうなるかしら?」

亜梨珠「その家の、本当の女の子の死亡推定時刻は、本当に合っていたのか、ってことになるわね」

亜梨珠「そう考えると、男の子にとってはさらにショックだったでしょうね」

亜梨珠「……え? 男の子は、その話を警察に話したのか、って?」

亜梨珠「……さあ、どうでしょうね。そこはあなたの想像にお任せするわ」

亜梨珠「でも、これだけは教えてあげるわ。その事件は今も未解決みたいよ」

亜梨珠「どうだったかしら? これでこのお話は終わり」

亜梨珠「そうだと思い込んでいたことが、根底から崩れてしまうというお話」

亜梨珠「ここで、話を戻すと、あなたの目の前の私は、本当に亜梨珠なのか? アリスという兄の妹なのか?」

亜梨珠「あなたはアリスお兄様と私が一緒にいるところは見たことないわよね?」

亜梨珠「もしかしたら、最初から、私は偽物だったということもあり得るって話よ」

亜梨珠「……ふふ。ごめんなさい。ちょっと意地悪してしまったわね」

亜梨珠「友達がいないことを言われたから、つい……」

亜梨珠「本当のことを受け止めないといけないわね」

亜梨珠「ということで、あなたには、本当に友人になってほしいわ」

亜梨珠「……なんて。こんなことを言うと、お兄様に怒られるわね」

亜梨珠「はい、これで、本当に、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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