■関連シナリオ
<不思議な館のアリス 一夜千夜物語> <不思議な館のアリス 闇の一族>
■概要
人数:1人
時間:10分程度
■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス
■キャスト
亜梨珠(ありす)
■台本
亜梨珠「お待たせー。ごめんね。予約の時間から30分も遅くなっちゃって」
亜梨珠「それじゃ、さっそく始めましょうか。……え? 誰だって? 何言ってるのよ、私はこの館の支配人の亜梨珠よ」
亜梨珠「……ぷっ! あはははは! やだー。いくらなんでも、男が女になったりしないわよ」
亜梨珠「そっか。今まではお兄様に診てもらってたのね。え? うん。そうそう。アリスは私の兄よ」
亜梨珠「兄弟で名前が同じなのは変だって? 何言ってるのよ。お兄様はカタカナで、私は漢字なの。……ややこしいって? いいじゃない、別に。名前なんて記号みたいなものなんだから」
亜梨珠「それより、さっさと始めましょ。お兄様に診てもらってたなら、カルテがあるはずさけど……」
亜梨珠「え? 取材で話を聞きたい? ふーん。変わったお客さんもいるのね。まあ、別にいいけど、ちゃんと診察時間として料金は発生するからね」
亜梨珠「それにしても……不思議な話かぁ。お兄様と違って、私はそんなに変わったお客さんを担当してないかならなぁ。うーん……」
亜梨珠「あ、そうだ。不思議っていうと、ちょっと違うかもしれないけど、伝説のスナイパーの話はどうかしら?」
亜梨珠「そのスナイパーはね、暗殺者としても有名だったの。あ、逆ね。暗殺をしていて、伝説のスナイパーって呼ばれるようになった、っていうのが正しいわ」
亜梨珠「その暗殺者の特徴は、必ず1発で相手を即死させるってところなの。どんな依頼でも必ず成功させるとか、狙った獲物は逃がさないとかじゃなくて、必ず1発で即死させるの。1発しか撃たないし、その1発で確実に仕留めるのよ。すごいでしょ」
亜梨珠「そこまで凄くて有名だから、たくさん依頼が来たらしいわ。で、16人の依頼を受けたらしいわね」
亜梨珠「ん? 思ったより少ないって? まあ、そうね。伝説って割には少ないかも。でも考えてみて。今の時代で、16人の連続殺人犯がいたら前代未聞の大犯罪者よ」
亜梨珠「そう考えると不思議よねー。殺し屋とか戦争って話だったら16人は少ないって感じるんだもんね」
亜梨珠「っと、いけない。話がそれちゃったわね。その暗殺者の殺した人の数が少ないのは、依頼の内容……つまり、殺す相手を見定めてたかららしいわ」
亜梨珠「それは、極悪人じゃないと殺さなかったってわけ。え? うーん。ポリシーっていうか……復讐だったんじゃないかな」
亜梨珠「昔々、あるところに、平凡な家庭に生まれた、ごく普通の男の子がいました。その子はそんな普通の生活を幸せだって思っていました。この生活が長く続きますようにって、ずっと神様にお願いするほどです」
亜梨珠「え? 関係ない話をするなって? もう! せっかちね! もう少し黙って聞いてなさい!」
亜梨珠「で、その男の子の父親は警察官で、絵に書いたような真面目な人間だったらしいわ。男の子もそんな父親に誇りを持っていたの。だけどね、それが災いして、その男の子の両親は殺されてしまうの。理由は、確か、政治家の犯罪を見逃さずに問題にしたことらしいわ」
亜梨珠「もちろん、それは事件ではなく、事故として処理されてしまうの。その時、その男の子は悪い人間がいても、必ずしも法によって裁かれることはないって学んだんでしょうね。しかたないわ。人間は神様なんかじゃないんだもの」
亜梨珠「で、その男の子は猛勉強をして、医者になったわ」
亜梨珠「……その男の子がスナイパーになったんじゃないのかよって思ったでしょ? ふふ。ネタバレしちゃうと、あなたの思った通り、その男の子が例の伝説のスナイパーよ」
亜梨珠「ううん。別にその男の子は銃の才能があったとか、実は裏で銃の特訓をしてたとかじゃないわよ。逆に銃の腕前は普通より下って話よ。もちろん、持っていた銃が特殊だったってわけでもないわ。ごく普通の銃よ」
亜梨珠「あら? 納得してない顔ね。別におちょくってるわけじゃないわよ」
亜梨珠「まあ、あんまり引っ張るほどの話でもないから言うけど、その男の子は医者になってから、父親のツテで検死官になったのよ」
亜梨珠「……あれ? まだ、スッキリしない顔ね」
亜梨珠「つまり、死因はある程度自分で書き換えれたってわけ」
亜梨珠「あはは! 違うわよ。死体に弾を埋め込んだりなんかしたら、すぐバレるわよ。だって、第一発見者が気づかないわけないわ。銃で撃たれたら、派手な傷が残るはずだもの」
亜梨珠「ごめん、ごめん。怒らないで。つまり、ここで『一発で仕留める』というところが関係してくるの」
亜梨珠「第一発見者は医者でもなんでもないし、死体なんて見たら動揺するわよね? しかも、頭や胸を撃たれた状態であれば、確実に『撃たれて死んだ』と思うはずだわ。銃で撃たれたとなれば派手だし印象も強く残るはず。それは捜査する警察官も同じね。頭や胸を撃たれているのを見れば、銃で撃たれたことが死因だって思うのよ」
亜梨珠「ピンポーン。正解! そう。死因は銃で撃たれたことじゃないの。ポイントは一目で、銃で撃たれて死んだと思わせることよ。そうすれば、まず、死体が検死に回されることはない。もし、検死に回されても自分で、銃に撃たれたことで死んだと書き換えればいいわけだしね」
亜梨珠「実際は毒を使ったみたい。外見にはあまり出なくて、遅効性で、苦しまないような毒を使ったらしいわ。毒で死んだ後に、至近距離でバン! それなら、どんなに銃を撃つのが下手でも当てられるでしょ? それにそうすることで、死亡推定時間も狂わせることができたらしいわね。まあ、今みたいに科学が発達してたら無理だけど。……言ったでしょ。昔々って。最近の話じゃないわよ」
亜梨珠「え? それにしても、なんで1発なのかって? たくさん撃った方が派手だって? そうね。いくら死体相手でも、何度も撃つのは気が引けたんじゃない? まあ、私からしたら殺しておいて、何言ってんだ、って話だけどね」
亜梨珠「そうして、その人は法で裁かれないような人たちを裏で始末していったの。でも、滑稽なことに、1発で仕留めるという伝説のスナイパーって感じで噂が広がったんだけどね」
亜梨珠「きっと、本人は顔を引きつらせて笑ってたでしょうね」
亜梨珠「はい。これでお話はおしまい。不可解なこともネタが分かれば、案外大したことないって話ね」
亜梨珠「……え? 話のオチがないって? あのねえ、こういう不思議な話にオチなんて求めないでよ。怖い話とか都市伝説でもオチとかないことが多いでしょ?」
亜梨珠「うーん。スッキリしないって言われてもなぁ……。じゃあ、その後、その伝説のスナイパーがどうなったかを話してあげるわ」
亜梨珠「1発で仕留めるという伝説は16人目で途切れることになるわ。その相手というのが……」
亜梨珠「自分よ」
亜梨珠「いくら悪人だからといって、人を殺めるという罪に耐えきれなくなったのね。まあ、本来は医者は人を救う職業なのに、自分はその逆をやっているんだもの」
亜梨珠「そして、ある日、銃で自殺を図ろうとしたの。でも、やっぱり、恐怖と銃の扱いが下手ということで、1発目は外してしまうの。そして、2発目で成功させた……」
亜梨珠「世間では、この失敗が原因で暗殺者は引退したと噂されたわ。しばらくの間は、また悪人を裁いて欲しいって願望を込めて、必ずまた復活するって噂もあったけどね」
亜梨珠「まあ、どんな理由があるにしろ、罪は罪。何かしらの罰が下るのよ」
亜梨珠「はい! 本当にこれで話は終わり!」
亜梨珠「こんな話でよければ、また聞かせてあげるわ。またいらっしゃい。それじゃ、またね」
終わり