不思議な館のアリス 一夜千夜物語

不思議な館のアリス 一夜千夜物語

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■概要
人数:1人
時間:5分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■台本

アリス「こんばんは。不思議な館のアリスにようこそ。……おや、その顔。あなたもアリスと聞いて、僕のことを女性だと思いましたか? ふふ。そういう方は多いです。ですが、名前なんて別にいいじゃないですか。名前なんて個人を区別させるための記号ですよ。それより、本日はどうされましたか? ……え? 変わった客の話が聞きたい、ですか? ふふ。そういうあなたも十分、変わり者だと思いますが。……でも、そうですね。では、一夜千夜の物語をお聞かせしましょう。ふふ。千夜一夜の間違いじゃないか、ですか? いいえ。一夜千夜で合ってますよ。では、変わったお客様のお話を」

アリス「そのお客様の悩みは、3年より前の記憶が全くないとのことです。言葉や物の名前、常識などはわかるそうです。ですが、自分の名前や生い立ちが全く思い出せないだそうです。なにより不思議なのが、自分に関わる人間が見つからないのだそうです。……ふふ。もちろん、そのお客様はここに来るより先に、警察に行ったようですよ。警察で色々と調べてもらったのですが、戸籍は存在したみたいです。ですが、関係する人間の記載がなかった……つまり、そのお客様だけがポツンと戸籍に残っているという状態だったようです。まるで、そのお役様がこの世に突如現れたかのように……」

アリス「……ええ。これだけでも十分不思議な話ですが、もっと不思議なことが、このお客様に起こったそうです。それは、ある朝、目を覚ましたとき、妙に疲れていたそうです」

アリス「……ええ。そういう朝は誰にでもあることです。眠りが浅くて、疲れが取れないなんてことは、本当によくあることです。ですが、そのお客様は起きた時、動悸が激しく大量の汗をかき、胸に鋭い痛みを覚えたそうです。胸の痛みはすぐに消えたようですが、動悸はなかなか治まらなかったと言っていました。そのとき、私は何か恐ろしい夢でも見たのではないかと尋ねたのですが、どうもそうではないようでした。それは、そのお客様がここに来た理由でもあります。……それは、目覚めた際に記憶がなかったそうです」

アリス「……いえ、正確に言うと、思い出すのに数日かかったとのことです。つい昨日のことはもちろん、自分の名前、なぜ、自分がここにいるのかがわからず、混乱したみたいですね。気持ちはわかります。それから数日過ごす中で、徐々に思い出していったそうです。こういう事例では、一気に思い出すことが多いようですが、そのお客様は、本当にゆっくりと思い出していったと言っていました」

アリス「……ここである、奇妙なことに気づいたそうです。それは……利き腕が変わっていたらしいのです」

アリス「実に不思議な話です。昨日まで左利きだったのが、起きて次の日には右利きになっていたのです。なかなか起こりえる事象ではありませんからね。本人はかなり動揺したそうです。ですが、気にせず忘れるようにしたみたいです。なにより、最初は記憶が全てなくなっていて、関係する人も見つからず、天涯孤独な状態でしたから。それに比べれば大したことはないと思い込もうとしたそうですよ」

アリス「……ですが、それから一か月後、再び同じようなことが起こってしまったとのことでした。今度は利き手が変わることはなかったようですが、今度は味覚……つまりは嗜好が変わってしまったそうです」

アリス「大好きだった豚肉は見るだけで、吐き気を覚え、嫌いだったはずのトマトを好むようになったとのことです。またこのようなことが起こることが怖かったらしく、藁にも縋る思いで、ここに相談に来たという経緯でした」

アリス「話を聞き、私は寝ているときに原因があるのではないかと思い、あるお香をお渡ししました。そのお香は寝ているときにリラックスすることとは別に、見た夢を忘れない効果があるのです。そして、そのお客様がそのお香を焚いて寝てみたそうです。すると驚きのことが起こったそうです」

アリス「それは、3年の間、違う人生を歩んでいたとのことです。……どういうことかわかりませんか? つまり、寝ている間、違う人間として3年間過ごした……別人として3年間過ごしていたというのです」

アリス「ブッダの話で有名な一説があります。ブッダが瞑想していた間、蝶としての一生を体験したというものです。それを3年という間を体験したということですね」

アリス「そのお客様は一つの夜の間に、3年……つまり千夜を経験したということです。経験するのは現在とは全くの別人、人種すら変わっていたそうです。その経験が影響して、利き手や好みが変わってしまったのでしょう」

アリス「どうでしたか? 一夜のうちに千夜を経験した人の物語、一夜千夜物語は、楽しんでいただけましたか?」

アリス「え? そのお客様が今、どうしているか、ですか? それが不思議なことに、ある日、フッと消えてしまったようです。まるで、最初からいなかったかのように。そしかしたら、そのお客様は違う世界のお客様の千夜の中の一人だったのかもしれませんね」

アリス「今夜の話はこれで終わりです。それではまたお会いできることを楽しみにしております」

終わり

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