【声劇台本】Noマン

【声劇台本】Noマン

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■概要
人数:4人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、社会

■キャスト
恭兵
草壁
その他 兼ね役含む

■台本

幸次郎「いいかい、恭平。商売というのは、お客様は何が欲しいのか、何をしてほしいのかを見つけて、それを届けるということなんだ。お前も、商売人になるなら、絶対に忘れてはいけないよ」

恭平(N)「それが祖父から教わったことであり、俺が祖父の会社の跡を継ぐ決意をした言葉だった」

草壁「初めまして。社長からの命で、今日から2代目の教育補佐をさせていただく、草壁です。よろしくお願いいたします」

恭平「は、はい! よろしくお願いいたします」

草壁「2代目は社長から随分と期待されています。そのご期待に応えられるよう、頑張ってください」

恭平「は、はい! 精一杯、頑張らせていただきます。……あの、草壁さんは祖父からかなり信頼を置かれているようですけど、どういった関係だったんですか?」

草壁「施設出の私は中学を卒業後、すぐにこの会社に入社させていただきました。この会社がまだ、10人も満たない頃で、社長には色々と商売の基本を教えていただきました」

恭平「なるほど……。だから、草壁さんの了承を得られれば、社長のOKも出るというくらいの信頼があるんですね」

草壁「恐縮です。ただ、私は……社長の言葉を忘れずに、社長の理念を貫いているだけなんですけれどね」

恭平(N)「俺が祖父の跡を継ぐために会社に入社してから3年後に祖父は急死してしまった。その祖父の遺言で、5年の間は草壁さんが社長代理ということで、会社を運営してきた。……そして、今年は遺言の期限が終わる5年目になる」

役員「先代の遺言の期限は今年までです。これからは2代目の恭平さんが社長の椅子に座るべきです」

草壁「……2代目の意思はいかがですか?」

恭平「……私はこの8年間、社長代理である草壁氏の元で商売の基礎たるものを学んできました。今後は祖父である先代の意志を継ぎつつも、新しい時代に沿った経営で、この会社を発展させていきたいです」

盛大な拍手が巻き起こる。

恭平(N)「こうして、俺は祖父の跡を継ぎ、この会社の社長に就任したのだった」

場面転換。

恭平「一週間前の災害により、この地域の学校が軒並み潰れています。そこで、学校を建てるという祖父の夢を叶えたいと思います。いかがでしょうか?」

役員1「いいですね!」

役員2「我が社のアピールにもなります! ぜひ、やりましょう!」

恭平「……草壁さんはどう思いますか?」

草壁「……私は反対です」

恭平「え?」

役員1「あの、いくら草壁さんでも、社長の提案を拒否するなんて……」

草壁「私は意見を聞かれたので言ったまでです」

役員2「しかしですね」

恭平「いや、いいんです。……確かに、今の会社の経営状況を考えると時期尚早かもしれません。今回は見送りましょう」

役員1「……」

場面転換。

社員1「なあ、知ってるか? またうちの会社の株価、下がったみたいだぞ」

社員2「やっぱ、2代目はダメだよな。守りに入ってるって言うか、大胆な経営ができてないよな」

恭平「……」

役員「……君たち、どこの部署かな?」

社員1「あ、いえ……その、申し訳ありません!」

恭平「……」

役員「社長。下の人間の言うことです。気になさらずに。……あとで、あの者たちのことは調べて、それ相応の処分をいたします」

恭平「……ああ」

場面転換。

恭平「仙田頃重工を買い取ろうと思う」

役員1「なるほど。今、不景気のあおりを受けて、経営難だと聞きます」

役員2「今ならかなり安く買い叩けますね」

草壁「買い取られた後、どうするつもりですか? 経営難ということは、利益がないということですが?」

恭平「我が社が欲しいのは技術だ。施設と技術の吸収を行った後は、大規模なリストラを行う」

役員1「素晴らしい! 少ない金額で技術と施設を得ながらも、無駄な経費を削るんですね」

役員2「さすが社長です!」

草壁「私は反対です」

恭平「……今回は社長権限で、この案を押し通すことにする」

場面転換。

役員1「社長。異常気象で今年の農作物の物価が上昇しています。今の値段で売り続けると赤字になってしまいます」

役員2「他社も行っていることですし、今のタイミングであれば値上げも止む無しかと……」

恭平「いや。他者が値上げしているからこそ、そのままの値段を維持すれば、集客できるはずだ」

役員1「しかし、赤字に……」

恭平「器を作り直そう。見た目は変わらないようにしつつも、実際の容量を減らす……ということはできないか?」

役員2「可能です。以前買い取った仙田頃重工の技術が役に立ちましたね」

草壁「私は反対です」

恭平「……いや、今回のプロジェクトが上手くいけば、他者を出し抜ける。すぐに器のサンプル品を作ってくれ」

役員1「わかりました」

場面転換。

恭平「真坂部議員に献金をしようと思う」

役員1「真坂部……ということは」

恭平「ああ。国からの大口の注文をもらえるというわけだ」

役員2「社長! やりましたね!」

草壁「私は反対です」

恭平「……君の意見は聞いてないよ。というより、君はもう、この会議から出ていってくれないか」

草壁「……わかりました」

草壁が立ち上がり、出ていく。

役員1「何かと社長の意見に反対するなんて、なんなんでしょうかね」

役員2「まさしく、老害ですね」

恭平「草壁を社長補佐から解任してくれ」

役人1「承知しました」

場面転換。

役員1「社長! 献金のことがリークされました! 会社に大勢のマスコミが……」

恭平「なんだと! ……すぐに会見を開こう。偽情報だと言って、誤魔化そう。時間を稼げば噂なんて、風化する」

役員1「は、はい!」

草壁「私は反対です」

役員1「また、あなたは……」

草壁「反対です!」

恭平「……」

草壁「考え直してください」

恭平「……わかった」

恭平(N)「会見では献金のことも正直に話した。そして、その後すぐにSNSで、底上げしていたことも広まり、我が社は経済的に致命的なダメージを受けた」

恭平「……草壁さん。私は社長の座を退こうと思います。私の跡をあなたにお願いしたい」

草壁「私は反対です」

恭平「ふふ。あなたはこんなときまで反対するんですね。やっぱり、私のことを恨んでいるんですか?」

草壁「あなたが今、やるべきことは、逃げることではなく、この会社に向き合い、立て直すことです」

恭平「私にはその資格も力もない」

草壁「商売というのは、お客様は何が欲しいのか、何をしてほしいのかを見つけて、それを届けるということ。……先代の言葉です」

恭平「あ……」

草壁「2代目。一からやり直しましょう。今度こそ、先代の想いを継いでください」

恭平「……よろしくお願いします」

恭平(N)「倒産寸前だった会社も、一から信用を繋いでいくことで、6年後には何とか持ち直すことができた」

恭平「一か月前の災害により、この地域の学校が軒並み潰れています。そこで、学校を建てる支援を我が社で行おうと思います」

草壁「……これは」

恭平「これは10年前のプロジェクトを元に計画を立て直しました。今回は、発注先の会社を見直しています」

草壁「……10年前にこの計画に組み込まれていた会社は中抜きして下請けに出す会社でした」

恭平「はい。あのときは安さだけを見てました。今回は多少は金額が高いですが、信用できる会社です」

草壁「社長……賛成です」

恭平(N)「この日を最後に草壁さんは退職していった。草壁さんの最後の言葉は、後は任せても大丈夫ですね、だった。私はもう二度と忘れない。祖父と草壁さんの言葉を」

終わり。

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