【声劇台本】大蛇の生贄

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、シリアス

■キャスト
紅九郎(べにくろう)
平太(へいた)
平蔵(へいぞう)

■台本

紅九郎が山道を歩くいている。

紅九郎「……完全に迷ったな。にしても、ヤバいな。目が回ってきた……」

フラフラと歩く紅九郎が罠に引っかかる。

紅九郎「うおっ! 罠か?」

平太が森の中から出てくる。

平太「やった! 獣がかかった! って、あれ? 人間だ……」

紅九郎「め、飯……」

紅九郎が気絶する。

場面転換。

ご飯をかっこむ紅九郎。

紅九郎「ぷはー、生き返った!」

平太「ねえ、こんな山奥で何してたの? ここにはめったに人なんて通らないところなのに」

紅九郎「武者修行さ。各地を回って剣の修行をしてるんだ」

平太「ホント? じゃあ、おっさん強いの?」

紅九郎「……俺はまだ20だ」

平太「おっさんじゃん!」

紅九郎「……」

平太「俺は平太。おっさんは?」

紅九郎「……紅九郎」

平太「おっさんに頼みがあるんだかけど」

紅九郎「名前を教えたんだから名前で呼べ」

平太「じゃあ、べーさん」

紅九郎「……まあ、いいか。で、頼みってなんだ?」

平太「大蛇の化物を倒してほしいんだ」

紅九郎「化物?」

場面転換。

平太と紅九郎が並んで歩いている。

紅九郎「つまり、年に三回、その大蛇の化物に生贄を要求されてるってわけか」

平太「うん……。今回、選ばれたのは俺のじいちゃんなんだ。……なんとか助けてやれないかな?」

紅九郎「え? じいさんなのか? 普通、そういうのは若い女だろ」

平太「そうなの? なんで?」

紅九郎「いや、なんでって言われてもな……。そういうことが多いってだけだけど」

平太「ふーん。でも、この村だと結構、色々な人が選ばれるんだ」

紅九郎「……誰が、その生贄を選ぶんだ? 村の中で話し合うとかか?」

平太「ううん。化物が選んでくるんだ」

紅九郎「選んでくる? 蛇の化物がか?」

平太「うん、そうだよ」

紅九郎「その蛇ってしゃべれるのか?」

平太「え? うーん。選ぶってことはしゃべるんじゃないのかなぁ?」

紅九郎「じゃないかなぁ、って、どういうことだよ。村にやってきて直接指名してくるのか?」

平太「違うよ。村長に伝えてくるんだ」

紅九郎「……なあ、平太。ホントにいるのか?」

平太「なにが?」

紅九郎「大蛇だよ。村長の作り話じゃないのか?」

平太「それはないと思うよ」

紅九郎「なんでだ?」

平太「目撃者がいるんだ。それもたくさん」

紅九郎「……ちなみに、その大蛇って、どのくらいの大きさなんだ? 村人たちで倒そうって話にはならなかったのか? 今回の平太みたいにさ」

平太「なったみたいだよ。前にも通りかかったお侍さんに化物退治を頼んだみたい」

紅九郎「……で?」

平太「もちろん、帰って来なかったよ」

紅九郎「……ふむ。なあ、平太。その大蛇を見たって人と、今まで生贄に選ばれた人たちをわかるだけ教えてくれ」

平太「うん、いいけど……。えっとね……」

場面転換。

平太「……くらいかな」

紅九郎「うーん。そっか……」

平太「どうかした?」

紅九郎「思ったよりも、バラバラだなよな」

平太「うん。そうだね」

紅九郎「ってことは、グルってことはなさそうか」

平太「そりゃそうだよ。だって、そんなことする意味ないでしょ?」

紅九郎「そりゃそうか……」

平太が扉を開ける。

平太「じいちゃん、ただいま」

平蔵「ごほ! ごほ! ……おお、平太、お帰り。……おや、そちらは?」

紅九郎「紅九郎です。平太には行き倒れたところを助けてもらいました」

平蔵「そうですか。平太、偉いぞ」

平太「へへへ」

平蔵「紅九郎さん。床についたままで、申し訳ありません」

紅九郎「いえ、お気遣いなく」

平蔵「何もない村ですが、どうぞゆっくりしていってください」

紅九郎「ええ」

平太「そうだ、じいっちゃん。ようやく、薬が手に入りそうだよ」

平蔵「平太。私のことはもういいと言っているだろう。どうせ、生贄になるんだ。薬代が勿体ない」

平太「そんなことないよ! べーさんに蛇退治を依頼したんだ! だから、じいちゃんは助かるんだよ」

平蔵「……紅九郎さん。孫が勝手なことを言ってすみません。依頼のことはお忘れください」

平太「なんでだよ、じいちゃん!」

平蔵「あんな大蛇は、人間には勝てない。若い命を犠牲することはない」

紅九郎「……一つ聞かせてもらいたいんですが、平太の両親は他界されているようですね」

平蔵「ええ。流行り病でね。二人一緒に逝ってしまったよ」

紅九郎「つまり、平太の身うちはもう、あなたしかいない……。残される平太のことを心配じゃないんですか?」

平蔵「生贄に選ばれた家には、報酬が出る。それに、この村は全員が家族みたいなものだ。村の人たちがちゃんと平太の面倒を見てくれる」

紅九郎「……そうですか」

場面転換。

平太「なあ、べーさん。明日、じいちゃんが生贄として山に行っちまう! 俺、やっぱりじいちゃんとまだ別れたくないよ」

紅九郎「……平太。お前には助けてもらった恩がある。やれるだけやってみる……が、あまり期待しないで待っててくれ」

平太「べーさん、お願い! 蛇をやっつけてくれ」

紅九郎「ああ……」

場面転換。

山の中。崖の上。

風が吹き込んでいる。

平蔵「……」

紅九郎「やっぱり、嘘だったか」

平蔵「紅九郎さん……。気づいてましたか」

紅九郎「人を食べるほどの大蛇が、生贄を自分で選ぶなんて、信じろというのが無理というものです」

平蔵「……」

紅九郎「わからなかったのは、なぜ、誰が何のためにこんな嘘をついたか、です」

平蔵「……」

紅九郎「最初は村長あたりが、私利私欲のためかと思ったんですが、目撃したという村人と選ばれる生贄に、全く法則性がありませんでした」

平蔵「……」

紅九郎「となると、考えられるのは村全体で嘘を付いている……ってことですね」

平蔵「……ええ」

紅九郎「では、なんのために、そんな嘘を付くのか。それがわからなかったのですが……あなたを見て、何となくわかりました」

平蔵「……」

紅九郎「それは……口減らしですね」

平蔵「……はい。この村は山奥にあることと、流行り病で働き盛りの若者が多く亡くなった。この村には働けない者を食わせていけるほどの余裕はない」

紅九郎「それで、働けなくなった者は生贄としてささげられるというわけですね」

平蔵「私のように死に対して納得できる者だけではないですからね」

紅九郎「納得しなかった者がどうなったかは、聞きません」

平蔵「ありがとうございます。……で、どうしますか? 平太に言いますか?」

紅九郎「村全体で決めたことに、外者が口を出すつもりはありません……。きっと、紅九郎は山で大蛇に食われたんでしょう。それで、村人たちはさらに大蛇のことを信じるでしょう」

平蔵「ありがとうございます」

紅九郎「……それでは」

平蔵「ええ。それでは……」

紅九郎が歩き出す。

その後ろで、平蔵が崖から飛び降りる音がする。

終わり。

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