【声劇台本】もっと高く


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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
蒼空(そら)
結人(ゆいと)
その他

■台本

結人「蒼空、背を図るぞ。ここに立て」
蒼空「うん!」

ゴリゴリと木を削る音。

結人「おお! 蒼空、結構、伸びてるぞ。こりゃ、将来、2メートル以上に慣れそうだな」
蒼空「ホント? でも、僕、結人くんみたいに上手くないから、背が高くてもなぁ……」
結人「ばーか。上手さなんて、練習すればいいんだよ。お前には高さっていう武器があるんだ。絶対、一緒にバレー世界一になるぞ!」
蒼空「う、うん! 僕、頑張る!」
結人「おう! 俺も負けないからな!」

場面転換。

蒼空「う、うう……」
結人「おいおい。引っ越すって言ったって、隣の市だぞ。近くだよ、近く!」
蒼空「だって……」
結人「いいか、蒼空! バレーで世界一になる夢、俺は諦めてないぞ。これからは一緒に練習できないけど、俺は進み続ける。お前はどうだ?」
蒼空「ぼ、僕も……諦めない!」
結人「よし! それじゃ、蒼空! 何があっても絶対に諦めない! 約束だ!」
蒼空「うん!」

場面転換。
体育館。
バレーの練習をしている生徒たち。

コーチ「よし、次、蒼空、行け!」
蒼空「はい!」

走って行って、ジャンプする蒼空。
そして、スパイクをする。
バンとボールがコートに打ち込まれる。

コーチ「低い低い! もっと打点を高く!」
蒼空「は、はい!」

場面転換。
バレーの練習をしている蒼空。

物凄い勢いで、スパイクされたボールが撃ち込まれる。

コーチ「蒼空! 指先さえもボールに触れてないぞ! 全然、ブロックできてないじゃないか!」
蒼空「す、すいません!」
コーチ「もういい、下がれ!」
蒼空「……」

場面転換。
練習後の体育館。
辺りは静まり返っている。

蒼空「……え?」
コーチ「蒼空。お前にバレーは無理だ。身長が低すぎる……」
蒼空「……」
コーチ「趣味でやるというなら、止めはしない。だが、レギュラーはもちろん、補欠にも入れることはできない」
蒼空「……コーチ! 俺、もっと練習します! だから!」
コーチ「蒼空。今年のチームは全国制覇を狙えると思っている。だから、頑張っているという理由で、お前を入れるわけにはいかない。実力が全てなんだ」
蒼空「……」
コーチ「蒼空。お前の運動能力は高い。だから、今からでも、身長が不利になりづらい競技に切り替えた方がいいと思う」
蒼空「……」
コーチ「……お前のバレーへの意気込みはわかっているつもりだ。誰よりも練習して、誰よりもバレーに真摯に向き合っている。だが、この世界は……努力だけじゃどうにもならないこともあるんだ」
蒼空「……」
コーチ「考えておいてくれ……」

コーチが体育館から出ていく。

蒼空「う、うう……」

場面転換。
トボトボと歩いている蒼空。
ポケットからスマホを取り出し、操作する。

蒼空「はあ……」

女の子「あっ! 風船っ!」

蒼空が走って、ジャンプして風船を取る。

蒼空「はい……。風船」
女の子「あ、ありがとう……。お兄ちゃん、すごいね。あんな遠くの風船に届くなんて」
蒼空「……」

蒼空が歩き去っていく。

場面転換。
運動部が練習しているグラウンドを見ている蒼空。

蒼空「……他のスポーツって言われてもな」
結人「よお!」
蒼空「え? ……結人!?」
結人「久しぶり!」
蒼空「ど、どうして?」
結人「あのなぁ。急にメールでバレーやめるなんて来たら、ビビるっつーの」
蒼空「あ、そっか……。ごめん」
結人「……なんかあったみたいだな」

場面転換。
結人と蒼空が並んで歩く。

結人「なるほどな」
蒼空「中学一年の頃から、ピタっと身長が止まってさ。……やれることはやったつもりだけど、ダメだった」
結人「まあ、こればかりは努力じゃどうにもならないからな」
蒼空「……だから、俺……」
結人「なあ、蒼空。俺はさ、諦めてないぜ。バレーで世界一になること」
蒼空「ああ。結人ならできるよ。応援してる」
結人「いや、そうじゃなくて、二人で一緒に世界一になること、だよ」
蒼空「……結人、話聞いてた? 俺、バレー辞めるって」
結人「確かにお前の身長は低い。技術もトップレベルと比べると、見劣りする。けど、お前には高さがある」
蒼空「……何言ってんの? 高さがないから、悩んでるんだけど」
結人「うーん。やっぱ、気づいてないのか」
蒼空「なにが?」

立ち止まる結人。

蒼空「ん? どうしたの、結人。
結人「蒼空、お前、スパイク打つときどうやってる?」
蒼空「どうって……普通だよ」
結人「やってみろ。ここで」
蒼空「やってみろって……こうだよ」

蒼空がジャンプして空中で腕を振る。

結人「んー。蒼空。お前の財布貸せ」
蒼空「なに? 急に? カツアゲ?」
結人「いいから、ほら!」
蒼空「う、うん。はい」
結人「ちょっと、そこにいろ」

結人が歩き出し、数メートルのところで立ち止まる。

結人「ほら、返すぞ、財布!」

結人が財布を投げる。

蒼空「バカ! 投げるなって! それに高い!」

蒼空がジャンプして財布をキャッチする。

蒼空「おい! 何するんだよ!」
結人「それだよ!」
蒼空「は?」
結人「お前、今、すげージャンプしたの気づいてねーの?」
蒼空「え? あっ! で、でもなんで……」
結人「お前さ、跳ぶとき高く跳ぼうと力が入りすぎなんだよ。せっかくのバネが全然生かされてねえ」
蒼空「……」
結人「力を抜いて、膝をつかうんだ」
蒼空「力を抜いて……膝を……」
結人「跳べ!」
蒼空「んっ!」

蒼空がジャンプする。

蒼空「すっげ……」
結人「お前の武器、わかっただろ? お前は確かに背が低いかもしれない。けど、誰よりも空に近づける」
蒼空「……結人、ありがとう」
結人「貸しだかんな」

場面転換。

アナウンサー「さあ、決勝まで進みました、日本。あと一勝で金メダルです!」

会場内が湧く。

結人「さあ、行くぜ、蒼空!」
蒼空「ああ! 一緒に世界一になるぞ、結人!」

終わり。

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