【フリー台本】写真

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■概要
人数:2人
時間:10分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
陽菜(ひな)
陸斗(りくと)

■台本

陽菜(N)「昔から、写真が好きだった。別に写真家になるみたいな、本格的な写真じゃなくて、家族や友達と撮る日常的な写真のことだ。だから、なにかあると、私はすぐに写真を撮るのだった」

場面転換。
カシャッと、カメラのシャッター音が響く。

陸斗「陽菜はホントに、写真好きだな」
陽菜「えへへ。まあね。後で、写真のデータ送るね」
陸斗「いや、別にいいよ。俺は」
陽菜「なによ。陸斗は私と一緒に写った写真は持ちたくないってこと?」
陸斗「そうじゃねーけどさ。なんつーか、照れ臭いじゃん」
陽菜「そう? でもさ、写真に撮るってことは、そのポーズを実際にしたってことでしょ? 恥ずかしがるなら、写真を撮るときに恥ずかしがるものじゃない?」
陸斗「んー。なんていうか、撮った写真を見るって言うのが恥ずかしいって感じかな」
陽菜「そうかなぁ? でも写真って見直すために撮るものでしょ」
陸斗「そうなんだけどさー」
陽菜「まあ、いいや。無理に見ろとは言わないよ。私は眺めてニヤニヤしようっと」
陸斗「ニヤニヤはしないでくれ。……それより、陽菜は、どうして、そんなに写真が好きなんだ?」
陽菜「幸せな時間を取っておけるから……かな」
陸斗「なるほどな。けどさ、写真に残さなくても、記憶っていうか思い出には残るじゃん」
陽菜「記憶とか思い出って、私から見た風景が残るじゃない? その景色には私がいないっていうか」
陸斗「あー、まあ、そりゃそうだな」
陽菜「なんていうかなー。幸せな瞬間っていうか、そこにいた私を含めた空間を残しておけるから好きなんだ」
陸斗「なんとなくはわかるよ」
陽菜「私ね、一番幸せな写真を写真立てに入れるようにしてるんだ。いつでも、一番幸せな時間を見られるようにね」
陸斗「へー」
陽菜「だから、帰ったら、今撮った写真に入れ替えなくっちゃ」
陸斗「……ちょっと照れるな」

場面転換。
がちゃりとドアが開く音。

陸斗「おーい、陽菜。荷物、まとめ終わったかー?」
陽菜「うん、大体」
陸斗「その写真立ては荷物に入れないのか?」
陽菜「これは自分の手で持って行きたいの。新しい私たちの家に、ね」
陸斗「ふーん。……って、あれ? また写真入れ替えたのか?」
陽菜「うん。言ったでしょ。この写真立ての写真には一番幸せな写真を入れるって」
陸斗「それ、この前撮ったやつじゃねーかよ」
陽菜「そうよ。だって、撮った写真の中で、これが一番幸せなんだから……って、そうだ。ねえ、陸斗、ちょっと隣に来て」
陸斗「な、なんだよ?」

カシャっとシャッター音が響く。

陽菜「ふふ。さっそく、この写真に入れ替えないと」
陸斗「ったく……。けど、来週、新婚旅行だから、そのときに撮った写真が入ることになるんじゃないか?」
陽菜「そうだね。でも、今、一番幸せな写真はこれだから、これにするの」
陸斗「はいはい」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。

陸斗「陽菜―、明日の莉緒(りお)の入園式なんだけど……って、何してんだ?」
陽菜「ん? 昨日撮った写真に入れ替えてるの」
陸斗「ああ、3人で撮ったやつか。けど、どうせ、また明日の入園式の写真に入れ替えるんだろ?」
陽菜「うん、そうなると思うけど、今、一番幸せな写真はこれだから」
陸斗「そっか」

場面転換。
ガチャリとドアが開く音。

陸斗「ただいまー。買い物行ってきたぞー」
陽菜「お帰りなさい。……って、また、そんなに買って来たの?」
陸斗「あーいや、どうも癖が抜けなくてな」
陽菜「わかる。私も、つい、莉緒の分も買っちゃうもん」
陸斗「早いよなー。あの莉緒が結婚なんてさー」
陽菜「そうね。ホント、あっという間。……あ、そうだ、あなた、ちょっとこっち来て」
陸斗「どうした?」

カシャっというシャッターの音。

陽菜「ふふ。写真立ての写真、これに入れ替えなきゃ」
陸斗「おいおい。この前撮った、莉緒と三人で撮ったやつから替えるのか?」
陽菜「うん。言ったでしょ。あの写真立てには一番幸せな写真を入れるって」
陸斗「……俺と二人だけになったのに、か?」
陽菜「うん。確かに、莉緒と一緒にいたときも幸せだったよ。でもね、莉緒はとても素敵な人のお嫁さんになって、また、あなたと二人で暮らすことになったのも、私にとっては幸せなんだよ」
陸斗「……そうだな」

場面転換。

陸斗「ゴホゴホっ!」
陽菜「大丈夫、あなた」
陸斗「……陽菜。やっぱり、俺、病院に入院するよ。お前に、これ以上、迷惑はかけられない」
陽菜「迷惑なんて思ってないわよ」
陸斗「けど……」
陽菜「あなた、ちょっとそのままでいて」
陸斗「なんだ?」

カシャっというシャッター音。

陸斗「お、おい」
陽菜「ふふ。あとで、写真立ての写真、入れ替えなくっちゃ」
陸斗「……無理しなくていいんだぞ」
陽菜「私ね、あなたと一緒にいることが、一番の幸せなの」
陸斗「陽菜……。俺と一緒になってくれて、ありがとう」
陽菜「バカね。私の台詞よ」

陽菜(N)「それから一ヶ月後。陸斗はあの世に旅立った。私が陸斗の所へ行くのはもう少し先になると思うけれど……写真立ての写真は、あのとき撮った写真から替わることはもうないだろう」

終わり。

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