【声劇台本】乗り越えるべき壁

【声劇台本】乗り越えるべき壁

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■関連シナリオ
〈刹那の勝負〉

■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、コメディ

■キャスト
颯(はやて)
遼(りょう)

■台本

ヒューと冷たい風が吹く。

颯(N)「俺は冬が嫌いだ。寿命の半分を払えば、冬を消してくれるというなら喜んで払うくらい冬が嫌いだ。なぜなら……」

ビューと突風が吹く。

颯(N)「……風が吹いてもスカートがほとんどめくれないからだ。それでなくても冬はスカートを履く人が少なくなる上に、仮に履いていても、上にコートとかを羽織っているから、まずめくれない。しかも今年は外を歩く人がさらに少ない。……冬は心まで寒くなってくる。ホント、早く春が訪れて欲しいものだぜ」

遼「スカートの中が見れないなら、見れる場所で勝負すればいい。ライト?」

颯「……何の話だ?」

遼「ふっ! 隠さなくていいさ。突風が吹き抜ける瞬間をあらかじめ肌で感じ取り、いち早く周りにいる女性の服装を確かめた後、突風が吹く瞬間に視線を集中する。これだけのことをあの一瞬でやるとは。エクセレント! さすが、老師の一番弟子だ」

颯「老師を知ってるのか? 何者だ?」

遼「おっと、すまない。ナイストゥミートゥ。私の名前は遼という。老師の弟子の一人だ」

颯「……老師の弟子、か。ということは俺と同類……ということだな?」

遼「イエス。だから、隠す必要はないよ」

颯「なるほどな。……で、見れる場所で勝負すればいい、とはどういうことだ?」

遼「冬はスカートの女性が少なくなる。それに厚着をしているからスカートがめくれない。刹那の勝負をしかけるには分が悪い」

颯「……」

遼「だが、それは屋外だからだ。ライト?」

颯「屋内なら勝率が上がる、とでも言いたいのか?」

遼「エグザクトリィ! その通りさ!」

颯「くだらん。そんなことはとっくに考えている。例えば学園内。制服という強制的にスカート姿の女子の宝庫、つまり楽園と言ってそん色はないだろう」

遼「ふむ」

颯「だが、屋内だと風が吹かない。つまりスカートという神聖な衣服を履いていても、そもそもめくれるという物理的な要素が欠ける。これは致命的と言ってもいい」

遼「チッチッチ。実にスイートな考えだ。神秘な聖域を垣間見るには、何も風だけが必要というわけではないだろう?」

颯「甘いのはてめえの脳内だ。どうせ、階段下などの段差があるとでも言いたいんだろう? だが、そんなポジションは全て洗い出している。その上で、その場所は全て封鎖されているのを確認している」

遼「エグザクトリィ! さすが、老師が絶賛した男だ。まさか、そこまで調べているとは。ふむ、それでこそ、私の相棒に相応しい」

颯「相棒?」

遼「イエス。どうだい? 私と組まないか?」

颯「断る」

遼「へえー。即答だね。バット、話くらいは聞いてくれていいだろ? 話を聞いた上で組むかどうかを決めてもいいだろう?」

颯「……」

遼「計画を話すという時点で、私のデメリットになる。可能性はゼロに近いが、君に密告される危険性だってあるんだ。ライト?」

颯「いいだろう。聞いてやる」

遼「オーケー。では、話そう。……まず、前提として、神秘な聖域を拝見するためには、スカートという障害を突破しなくてはならない」

颯「……」

遼「君はスカートを味方だと思ってないかい?」

颯「違うとでもいうのか? ズボンなんて履かれたら絶望的だ。精々、透けるのを期待するしかない」

遼「チッチッチ。そこからして、君は間違えているよ。神秘な聖域を守っている、という時点でスカートも我々の敵、さ」

颯「……話が見えないな。さっさと核心を言え」

遼「ふふふ。せっかちだな、君は。そんなのでは紳士にはなれないよ」

颯「あいにく、そんなものになる気はない」

遼「ふむ。まあ、いい。簡潔に言おう。スカートさえなければ、風も段差も必要ない。ライト?」

颯「全然、簡潔じゃねえぞ。スカートがない? そんな状況あるわけないだろ」

遼「リアリィ? 本当に、あり得ないかい?」

颯「……ま、まさか!」

遼「エグザクトリィ。そのまさか、だよ。私たちが狙うのは更衣室さ」

颯「確かに、更衣室には春夏秋冬は関係ない。だが、それは……一線を越えることになる」

遼「オフコース。見つかれば、私たちは袋叩きに遭い、ポリスに連れていかれることになるだろうね」

颯「……」

遼「ことが大きすぎて、足がすくんだかい? だが、虎穴に入らずんば虎子を得ず、さ。ハイリスクをくぐらなければ、ハイリターンはあり得ない」

颯「だ、だが……」

遼「君はこれからの人生、ずっと、あるかどうかもわからない刹那の勝負が来るのを待つのかい?」

颯「……」

遼「私と一緒にさらなる高みに登らないかい?」

颯「……」

遼「迷うのは当然だろう。だが、一つ、気休めを言おう。見つからなければいいだけ、さ」

颯「……勝算はあるのか?」

遼「オフコース」

颯「計画を教えろ」

遼「エクセレント! それじゃ、説明しよう。こっちに来てくれ」

場面転換。

遼「あそこは、女性専用のフィットネスさ」

颯「女性専用? 逆に忍び込み辛いだろ」

遼「ああ。対策が厳重にされている。見たまえ」

女性がやってきて、ピッ、ピピピピとボタンを押す音がした後、自動ドアが開く音。

遼「毎回、変わるパスワードを入力することで入ることが可能になっている。つまり、会員じゃない者は、そもそも入ること自体ができないのさ。逆にあそこさえ突破できれば、勝ちは確実。女性専用だからこそ、従業員も会員も油断している」

颯「お前、天才だな」

遼「はっはっは。もっと褒めてくれたまえ」

颯「で、どうやってあそこを突破するんだ?」

遼「パスワードを手に入れる」

颯「どうやって」

遼「そこで君の出番だ」

颯「……なるほど。入力の際に番号を見るというわけか」

遼「常人では無理だが、君ならできる」

颯「いいだろう。その程度なら余裕だ。……で、次に人が来るのを待つのか?」

遼「いや、今日はもう遅いし、平日だ。そもそも人が少ない可能性がある」

颯「ということは、休日の朝から、ってわけか」

遼「イエス。ハイリスクを覚悟での勝負だ。リターンは確実に得られる形で勝負すべきだよ」

颯「わかった。じゃあ、次の休日に勝負だ」

遼「ああ。それまでに準備をしっかりしてくれたまえ」

颯(N)「こうして、俺の一世一代の大勝負の幕が切って落とされた。次の休日まで長かったような短かったような不思議な感覚で過ごした。そして、ついに決行の日になった」

場面転換。

颯「待たせたな」

遼「いや、私も今、来たところさ。……それより、目の下にクマが出来てるよ。眠れなかったのかい?」

颯「不安と緊張でな。だが、心配するな、仕事は完璧にやり遂げる」

遼「ははは。私も同じだ、昨日は一睡もできなかった。だが、私たちは今日、大きな一歩を踏み出す」

颯「ああ」

遼「そろそろ、人が来てもいい時間だ。待とう」

場面転換。

颯「一時間以上経つが、誰も来ないぞ?」

遼「おかしいな。休日が閉館なんてありえないはずだが……」

颯「待て! 扉に何か貼ってあるぞ」

遼「見に行こう」

二人が走ってドアの前に立つ。

遼「……」

颯「……」

颯(N)「張り紙にはこう書かれてあった。感染症の流行のため、しばらくの間、閉館します、と」

遼「……帰ろうか」

颯「ああ」

颯(N)「因果応報。悪いことはするものじゃない。必ず報いが訪れるものだ」

終わり。

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