【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 家族の絆

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の不思議な館にようこそ。……え? そんな挨拶は、もういらないって? いいじゃない。挨拶は大事よ」

亜梨珠「さてと。今日もお話を聞きに来たんでしょ? いいわ。話してあげる」

亜梨珠「あ、でも、最初に注意しておくわ。今回の話はあまりいい話じゃないの。どちらかというと後味が悪い話ね」

亜梨珠「そういう話が好きじゃないなら、今回は帰った方がいいわよ」

亜梨珠「……そう。聞くってわけね。それなら、聞き終わった後に文句を言うのは無しよ。それじゃ、話すわね」

亜梨珠「あなたは家族の絆についてどう思うかしら?」

亜梨珠「……うん。そうね。家族って言っても、色々な家族がいるから一概に、こうだ、なんてことは言えないわよね」

亜梨珠「ただ、家族と言えば固い絆で結ばれているって答える人が多いんじゃないかしら?」

亜梨珠「でも、不思議なことに血がつながっていない家族という場合は、本当に固い絆で繋がっているとは言えないんじゃないか、って疑っちゃう人が多いんじゃない?」

亜梨珠「血が繋がってる、繋がっていないって、そんなに重要かしら? 血が繋がっている実の子供に虐待したり、実の親を刺す子供だっているのにね」

亜梨珠「っと、いけない。すぐに話が逸れちゃうわね。えっと、今回の話は血の繋がっていない家族……親子のお話」

亜梨珠「ただ、ちょっと視点がややこしくなるわ。これはある精神科の病院に勤めている新人看護師のお客さんから聞いた話なんだけど、そのお客さんの患者さんのお話になるの」

亜梨珠「その患者さんはある事故に遭ってから、精神的にショックを受けて入院してきたみたいね」

亜梨珠「その事故っていうのが、水難事故。簡単に言うと川で溺れたらしいの。あまりにも川で溺れたことが相当、トラウマになったらしく、事故の前後の記憶がないらしいわ」

亜梨珠「事故のことを思い出そうとすると、強い頭痛と動悸が起こって、呼吸困難になるらしいの」

亜梨珠「事故自体は10年以上前なのに、いまだに発作が起きるみたい。一度、発作が起こると生活にも支障が起こるみたいで、重い発作の場合は入院するんだって」

亜梨珠「……え? 全然、家族の話が出てこないって? もう、相変わらずせっかちね。もうすぐ出るってば」

亜梨珠「えっとね、そういう発作があるからか、やっぱり働けなくて、生活費や入院費は親が出しているみたいなの。……で、その親、つまり父親は、その人と血の繋がりはないのよ。つまり、義理の父親ってわけね」

亜梨珠「お客さん……つまり、看護師から見たら、その親子関係は凄く良好だったみたい。それこそ、本当の親子、いやそれ以上に仲がいいみたいだったんだってさ」

亜梨珠「生活費や入院費も出すくらいだからね。まあ、息子とはいえ、なかなかできるものじゃないわ」

亜梨珠「でも、まあ、父親はIT企業の社長みたいだから、お金には困ってないっていうのもあるかもしれないわね」

亜梨珠「息子の方も、父親を慕っているみたいで、毎日、見舞いに来ては面会時間ギリギリまで楽しそうにお話してたらしいわ」

亜梨珠「こういう話を聞くと、やっぱり血の繋がりなんてあんまり関係ないって思うわよね」

亜梨珠「病院の治療の方針としては、トラウマを乗り越えるのではなく、忘れさせようという、なるべく思い出させないようにする方向だったみたい」

亜梨珠「父親の方もあんな辛い記憶を、事件のことを無理に思い出させて、あの子を苦しめたくないって泣きながら懇願したらしいわよ。だから、その看護師さんも話すときは事故を連想させることを言うのは絶対に禁止されてたみたい」

亜梨珠「でもね、ある日、息子の方が看護師さんに記憶を思い出す方法がないかって聞いてきたの」

亜梨珠「その看護師さんはピンと来たらしいわ。この人は事故のことを思い出そうってしてるってことに」

亜梨珠「その看護師さんは知らないって答えて、忘れてることは無理に思い出す必要なないんじゃないかって説得したらしいわ」

亜梨珠「でも、その息子はどうしても思い出したい。きっと、とっても大切なことを忘れているんだ、……あの事件のことを主出さないと、僕はあの父親と本当の意味で家族になれない気がする、と泣きながら言ってきたらしいわ」

亜梨珠「その息子の必死さと思いつめた感じに押されて、看護師さんは病院側に黙って、息子の記憶を思い出すのを手伝っていたらしいの」

亜梨珠「ただ、思い出そうとすると発作が起きてしまうから、息子から色々と情報を聞いて、看護師さんが調べる、という方法を取ったらしいわ」

亜梨珠「川で溺れたときの年、場所を聞いて、色々調べたみたい」

亜梨珠「そしたら、その事故の記事を見つけたの。そこには、8歳の子供がキャンプ中に川に落下。父親が命の危険を顧みず、川に飛び込み、救った。しかも、その父親と子供は血が繋がらない親子だった、ってことで美談として記事が残っていたらしいわ」

亜梨珠「看護師さんは、きっと、父親が助けてくれたことを思い出したかったのかと思って、そのことを息子に話したの」

亜梨珠「そしたらね、違うって言われたらしいわ。助けられた後、父親に何か言われた気がするって。その言葉をどうしても思い出したいって言うの」

亜梨珠「そこで、看護師さんは息子が溺れたっていう川があるところまに向かって、聞き込みをしたみたいよ」

亜梨珠「……え? どうして、そこまでするのかって? そうね、私も気になって聞いてみたの。そしたら、なんか、気になったって言ってたわ。使命感よりも好奇心だって。なんか、妙に納得するわよね」

亜梨珠「何日か、聞き込みをしていると、そのときのことを見ていた人を見つけたの」

亜梨珠「その人は事件のことを鮮明に覚えてたらしいわ。あれから10年以上経ってるから、別にもう話していいかって言って、話してくれたみたいね」

亜梨珠「その看護師さんは目撃者から話を聞いた後、今度は別のことを調べ始めたの」

亜梨珠「それは、父親のこと」

亜梨珠「血の繋がらない、仲がいい、自分の危険を顧みず、息子を助けた父親のことよ」

亜梨珠「調べてみて、わかったこととして、まず、あの父親は会社の事業が軌道に乗るまでは借金まみれで、事件があった頃は会社が潰れる寸前だったこと」

亜梨珠「その次に、その事件があった数か月後に、奇跡的に会社が持ち直したこと。そこからは大企業にまで発展して、今にいたるってこと」

亜梨珠「……最後に、父親が息子の母親と再婚する前に、一人息子を失っていることがわかったわ」

亜梨珠「結局、看護師さんは調べたけどわからなかったと息子に言ったの。息子は残念そうだったけど、仕方ないって笑っていたらしいわ」

亜梨珠「そして、息子が退院する日、父親が迎えに来て、一緒に帰ったらしいわ。仲良さそうにね」

亜梨珠「……え? 目撃者から何を聞いたのかって?」

亜梨珠「わかってるわ。言うわよ」

亜梨珠「あのね、その目撃者は息子が川に落ちるところから、人が叫んだところ、父親が川に飛び込んで、息子を助けた後までずっと見ていたの」

亜梨珠「でね、何を見たかと言うと、まず、川に落ちたのは父親が押したから。父親が川に飛び込んだのは、人が川に落ちたのを見た人が悲鳴を上げてから。……そして、助けた後、父親が言ったことも聞いていた」

亜梨珠「その言葉は……なんで死んでくれないんだ、だったって」

亜梨珠「つまりこういうことよ。おそらく、息子には多額の保険金が掛けられていた。借金を返すために、息子には事故で死んでもらうしかなかった。だけど、失敗した。……きっともう一度、行動しようとしたんだと思うけど、実行する前に奇跡的に会社が持ち直した」

亜梨珠「そうなれば、もう息子には死んでもらわなくて良くなった。でも、今度は罪悪感と息子が事件のことを思い出さないかを見張る必要が出て来たってわけね」

亜梨珠「まあ、これはあくまで、私の予測なんだけどね」

亜梨珠「さて、これで話は終わり……って、なに、不満そうな顔をしてるのよ。だから、最初にあまりいい話じゃないっていったじゃない。苦情は受け付けないわ」

亜梨珠「……で、あなたはこの話を聞いて、家族の絆をどう思うかしら? 血の繋がりは関係あると思う?」

亜梨珠「家族には色々な形があるわ。どう思うかも、人それぞれ。今回は、そんな話」

亜梨珠「お話は終わり。……よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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