【声劇台本】無限大の可能性

【声劇台本】無限大の可能性

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
宮下 紬(みやした つむぎ)
東吾(とうご)
教師

■台本

紬(N)「未来には無限大の可能性が広がっている。中学の頃、担任がよく言っていた言葉。だけど、私はこの言葉が嫌いだった。平凡な人間には平凡な人生しか待っていない。可能性が広がっている人間なんて、ほんの一握りの選ばれた人間だけなのだ」

教師「坂下ぁ。お前、もう少しやる気出したらどうだ?」

紬「出してますけど」

教師「キャンパスを真っ黒に塗り潰すだけがか?」

紬「これは宇宙を表してるんです」

教師「宇宙……ね。それなら、惑星を描くとか、せめて星を描いたりするとか、したらどうなんだ?」

紬「純粋な宇宙空間を表現したかったので」

教師「はあ……。坂下。今回の作品は文化祭で張り出されることになるんだぞ?」

紬「ええ。知ってますけど」

教師「ま、お前が良いっていうならいいけどな」

紬(N)「美術部に入ったことだって、別に進んで入ったわけじゃない。高校の校則で絶対にどこかの部活に入らなきゃならないのと、昔から絵を描くことは結構好きだったからだ。……でも、その絵だって、美術部に入ってから嫌いになった。才能の差を見せつけられて、惨めになっただけだ。唯一好きだった絵でさえ、私の前に可能性は広がっていなかった……」

場面転換。

文化祭で賑わっている校内。

場面転換。

美術部の教室内は静かな状態。

紬「はあ……」

紬(N)「文化祭。一年に一度のお祭りということで、学園内は賑わっている。美術部も部員が描いた絵を張り出していて、その受付という名の留守番を引き受けたのも、私は文化祭に全く興味がないからだ。……それにしても、本当に人が来ない。たった一人を除いて。この人さえいなければ、お昼寝できるのに……」

東吾「……」

紬「ねえ、さっきからそれ、ずーっとその絵、見てるけど、面白い? そんな真っ黒に塗り潰した絵が」

東吾「うん。凄い絵だなって思って」

紬「はあ? どこが?」」

東吾「タイトルが宇宙ってことは、この絵って宇宙を表してるんだよね?」

紬「まあ……そうだけど」

東吾「いやー、宇宙の絵を描くなんて、珍しいなって思って」

紬「悪かったわね」

東吾「え? これ、君が描いたの?」

紬「そうだけど」

東吾「ねえ、どうして宇宙の絵を描こうと思ったの?」

紬「……」

紬(N)「面倒くさい。そのときは正直、そう思った。別に何となくと言えば済む話だっただろう。でも、そうしなかったのは、この人の目が真剣だったから。何となくというのは、なんていうか失礼だと思った。……考えてみたら、私が描いたものなのに、それを見ている人に気を遣う必要なんて全くなかったのだけれど……」

紬「この宇宙は無限大の可能性を表現してるの」

東吾「可能性?」

紬「うん。未来は無限大の可能性が広がってるの。例え、今が暗闇で目の前が真っ暗だったとしても、可能性は常に広がり続けている。それを表現するのに、宇宙にしたってわけ」

紬(N)「もちろん、嘘だ。というより、全くの逆。皮肉と描くのが楽ということで宇宙にしただけだったのに」

東吾「凄い! いやー、感動したよ! うんうん。そうだよね。宇宙は無限大の可能性があるんだ」

紬「う、うん……そうだね……」

東吾「ねえ、文化祭が終わってもさ、この絵、見に来ていいかな?」

紬「え?」

場面転換。

美術室。

東吾「なあ、紬以外、部員いないの?」

紬「元々、美術部は3人しかいなくて、他2人はほぼ幽霊部員よ。……っていうか、名前で呼ばないで、馴れ馴れしい」

東吾「あ、ごめん。紬の名字ってなんだっけ?」

紬「はあー。もういいわ。それよりあんた、毎日見に来てるけど、飽きないの?」

紬(N)「文化祭以来、毎日、ずっと美術室にやってきては、私が描いた宇宙の絵を見ている。最初に勢いで許可してしまったから、今更、来るなとは言いづらい」

東吾「ぜーんぜん! この宇宙は見れば見るほど深みが増していくんだよ。なんていいうかな、こう……強い想いっていうのかな、そういうのを感じるんだよ」

紬「……感性も感覚もポンコツみたいね」

東吾「え?」

紬「ううん。なんでもない。それよりあんた、放課後すぐに来てるけど、部活は? サボり?」

東吾「いや、今も部活活動の真っ最中」

紬「は?」

東吾「俺、宇宙同好会に入ってるんだ。ま、俺しか部員いないんだけど」

紬「宇宙同好会? なにそれ?」

東吾「正式名称は宇宙飛行士を目指すぞ同好会だ」

紬「……名前もヤバいけど、あんた、宇宙飛行士目指してるの?」

東吾「うん」

紬「いやいや、無理でしょ。受かる確率0.04パーセントよ?」

東吾「え? 合格するか落ちるか、だから50パーセントじゃないの?」

紬「……0パーセントね」

東吾「なあ、紬って成績良いほう?」

紬「……トップクラスってわけじゃないけどそこそこだけど」

東吾「じゃあさ、俺に勉強教えてくれない?」

紬「は?」

場面転換。

勢いよく、ドアが開く。

東吾「やったぞ! 初めて、赤点にならなかった! 紬のおかげだ! ありがとう!」

紬「そ、そう……よかったわね」

東吾「よーし! これで宇宙飛行士に一歩前進だ!」

紬「限りなく小さな一歩だけどね」

東吾「紬は教えるの上手いよ。先生に向いてるかも」

紬「はは。ありがと。嫌な気分になったわ」

東吾「そういえばさー、どうして紬は絵を描かないんだ?」

紬「絵が嫌いだから」

東吾「なんで? あんなにすげー絵を描けるのに」

紬「凄いって……。あんなの黒で塗りつぶしただけじゃない」

東吾「絵が好きだから、美術部に入ったんじゃないの?」

紬「最初はそうだったけどね。でも、美術部に入ってから、自分の才能の無さに絶望したってわけ」

東吾「紬の前に絶望なんてない。無限大の希望が広がってる」

紬「……あんたねえ」

東吾「俺、他にも紬の絵を見てみたいな」

紬「才能のない私の絵なんか見ても、面白くないって」

東吾「俺、紬の宇宙の絵を見たとき、凄いって思ったんだ。俺の不安を吹き飛ばしてくれた。だから、紬には才能があると思う。っていうか、才能なんて今からつければいい」

紬「簡単に言うけどさ……」

東吾「とにかく、俺は紬の絵が見たい。……それじゃ、ダメか?」

紬「……気が向いたらね」

東吾「やったー!」

紬(N)「本当に変な奴。宇宙飛行士なんてほぼ不可能なのに本気で頑張ってる。そんな妙な熱さに当てられたのか、それとも、単なる気まぐれか……。久しぶりに、少しだけやる気というのが出てきた」

場面転換。

机に突っ伏して寝ている東吾。

東吾「すー、すー」

紬がキャンパスに筆を走らせている。

場面転換。

教師が走って来る。

教師「宮下! お前の描いた絵、コンクールで入賞したぞ」

紬「え?」

教師「やればできるじゃないか。にしても、宮下は人物画の方が得意だったんだな」

紬「……別に、そういうわけじゃないですけど」

教師「けど、なんであの絵のタイトルが宇宙なんだ?」

紬「あれが私にとっての宇宙なんです」

教師「はあ……?」

紬(N)「あいつの目の前には絶望的に真っ暗な未来が広がっている。だけど、あいつは平気な顔をして、無限に広がっていく希望に向かって突き進んでいく。そんな姿を見ていると、うじうじと悩んでいる自分が馬鹿らしくなってきた。……こうなったら、あいつがどこまで行けるのか見てみたくなった。だから、私はあいつの隣でこれからも色々な宇宙を描いていこう」

終わり。

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