【声劇台本】絶対に許せない

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■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
遼平(りょうへい)
美弥(みや)
弁護士
その他

■台本

バン! バン! と体を棒で殴る音。

幼少時。

遼平「痛い! 止めて! 止めて! お母さん……」

場面転換。

遼平(21)がガバッと起き上がる。

遼平「はあ……はあ……はあ……」

遼平(N)「10年以上経った今でも、鮮明に夢を見る。母親に虐待されているときのこと。そんなときは、決まって頭痛に悩まされる」

キーンという甲高い音(頭痛の音)。

遼平「やっぱり……」

携帯の呼び出し音。

遼平が電話を取る。

遼平「もしもし。ああ、美弥か。……ごめん。今日は休むわ。講義のノートお願い。あ、できれば代返も……。うん、うん。そう。いつもの頭痛。ああ、ごめん。よろしく」

ピッと電話を切る。

遼平「はあ……。最近はあんまり見なかったんだけどな。あの頃の夢……」

遼平(N)「頭痛が起こったときは、急に眠くなる。抗えない眠気。これが来たら、その日は目が覚めることはない……」

場面転換。

インターフォンの音。

遼平「……ん?」

起き上がって歩き、玄関のドアを開ける。

美弥「やっほ! 具合の方はどう?」

遼平「……美弥。あれ? お前、大学は?」

美弥「はあ? なに寝ぼけてるの? もう8時だよ」

遼平「8時? ……夜の?」

美弥「うん。ほら、外、見てみなよ」

遼平「あー、ホントだ」

美弥「てか、カーテン閉めっぱなしだから、そういう時間間隔狂うんだよ」

遼平「いちいち、開けたり閉めたりするのめんどくさくね?」

美弥「もう、相変わらず面倒くさがりね。ねえ、入れてくれない?」

遼平「あ、悪ぃ」

遼平と美弥が部屋の中に入る。

美弥「ねえ、遼平。今日の昼だけど、パチンコに行った?」

遼平「パチンコ? 俺が?」

美弥「だよね。友達がパチンコ屋に入ってく遼平を見たって言ってたから」

遼平「いや、ずっと寝てたよ、今日は」

美弥「そう……だよね」

遼平(N)「その日を境に、俺の周りで妙なことが起き始めた」

場面転換。

キーンと高い音。

哲也「なあ、遼平、ここで飯食ってかね?」

遼平「うわ、高いな。ちょっと待って」

財布の中身を見る遼平。

遼平「あれ?」

哲也「どうした?」

遼平「金が……ない」

場面転換。

キーンと高い音。

布団の中。寝返りを打つ遼平。

遼平「う、うん……え? うわっ!」

女性「ん、おはよー」

遼平「なんだ、お前! 誰だ!?」

女性「ひっどーい! 昨日、ナンパしてきたの、そっちでしょー」

遼平「……ナンパ? そんなわけ……」

場面転換。

キーンと高い音。

遼平の部屋。

美弥「うう……。ひっくひっく」

遼平「……ん? え?」

ガバッと起き上がる遼平。

遼平「美弥、その顔、どうした?」

美弥「……」

遼平「……俺が……殴ったのか?」

美弥「今日は帰るね……」

立ち上がって、部屋を出ていく美弥。

キーンと高い音。

遼平「いたっ!」

遼平(N)「頭痛の後にくる眠気。その後に必ず何かが起こる。寝ている間に俺が何かをしていることは明白だった」

場面転換。

ガチャガチャと手錠を掛ける音。

遼平「手錠をして……カギを……」

カギを遠くに投げる遼平。

遼平「よし、これで大丈夫だ」

キーンと高い音。

遼平「うっ……」

場面転換。

遼平「はっ!」

ガチャガチャと手錠の音。

遼平「よかった。今回は何も起こらなかった……痛っ!」

遼平(N)「腕に無数の引っ掻き傷がついていた。そして、床には俺の血で、許さない、と書かれている。……間違いない。俺の中に何かがいる。……怖くなった俺は頭痛が起こったとき、必ず手錠を付けるようにした。そのたびに傷は増えるが、これで大丈夫なはずだ。……だが、それは間違いだと最悪の形で知ることになる」

場面転換。

遼平「美弥! 美弥! うわーーー!」

遼平(N)「目の前には刺殺された美弥が横たわっている。携帯には、美弥からの着信が入っていた。……後から、警察から聞いた話によると、美弥は俺と電話で話したあと、ナイフを買ってから、俺の部屋に来たらしい」

場面転換。

遼平「……無罪? そんな馬鹿な! 俺、罪を認めてるんですよ!」

弁護士「解離性同一症。つまり、君は多重人格だと診断された。それに、美弥さんが何の疑いもなく、ナイフを買って君の家に来ていたこと、抵抗した形跡もないことから君に対して信頼していたことも伺える」

遼平「待ってください! それじゃ、こいつは……美弥を……手にかけたのに……裁かれないってこと……ですか?」

弁護士「落ち着きなさい。確かに、犯行を行ったのは君とは違う人格だ。だけど、君自身でもある。体は一つなんだからね」

遼平「……」

遼平(N)「無罪になったと言っても、精神が病んでいるということで、精神科の病院に入院することなった。何が起こるかわからないことから、常に俺は誰かに見張られている。……これじゃ、自分で自分の命を絶つことができない。許せない。……俺は美弥を奪った、こいつを絶対に許せない」

場面転換。

遼平「俺が美弥の件で、罪に問われることはもうないんですよね?」

弁護士「ああ。無罪が確定しているからね」

遼平「それじゃ……」

場面転換。

アナウンサー「裁判所前です。数か月前、無罪となった被告ですが、改めて裁判を起こしました。それは、自分に対しての人権侵害、自分に対しての傷害など、実に七つの犯罪に関して訴えを起こしました。この、自分の別人格を訴えたという前代未聞の裁判に世間の注目は集まっています。原告は、被告に対して無期懲役を求刑しており……」

終わり。

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