【声劇台本】不思議な館のアリス かごの中の鳥

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「今日は私の方でいいのですか? なんでしたら、妹の方と変わりますが」

アリス「ふふふ。そんな顔をしないでください。深い意味はありません。ただ、妹もあなたと話をしたいみたいですので、妹にも会いに行ってあげてくださいね」

アリス「さて、今回も不思議な話を聞きにきたということでよろしいんですよね」

アリス「とはいえ、話のストックも尽きてきてしまいました。……え? そんなことありませんよ。不思議なお客様はほんの一握りです。そうそう変わったお客様はいませんよ」

アリス「私から言わせてもらうと、話を聞きにここに来るあなたも、十分変わったお客様ですが」

アリス「ふふふ。そう怒らないでください。仕事なんですよね?」

アリス「しかし、どうしましょうかね。話のネタが尽きてきたというのも、本当のことなんです」

アリス「……ああ、そうだ。あなたは動物園は好きですか?」

アリス「ふふふ。申し訳ありません。困惑させてしまいましたね」

アリス「ひと昔前から、動物園の動物を開放させようとしている団体があるのは知ってますか?」

アリス「その団体は何のために、そのような活動をしているのでしょう?」

アリス「……ええ。そうですね。動物を見世物にするのではなく、元の自然に返すべきってことですよね」

アリス「確かに、生物として見た場合、それは自然なことだと思います。……ですが、それは本当に動物のためになるのでしょうか」

アリス「つまり、動物たちは本当に、動物園から開放されることを望んでいるのでしょうか」

アリス「……はい。そうですね。確かに見世物となっていることに、ストレスを感じる動物もいるでしょう。もちろん、自由に動ける広い縄張りが欲しい動物もいるでしょう」

アリス「ですが、中には人間に飼われることを望む動物もいるのではないでしょうか」

アリス「見られるということさえ我慢すれば、安全な場所と、苦労せずに食べ物が出てくるのです。野生にいるよりも、ずっと快適と考える動物がいるのではないでしょうか」

アリス「おや? なんで、そんな話をしたんだって顔をしていますね」

アリス「今から話すのは、家に閉じ込められた子供……いわゆる、かごの中の小鳥のような少年のお話になります」

アリス「その少年は、生まれつき体が弱かったそうです。少し生活リズムが狂うだけで高熱を出して寝込むなんてことは頻繁だったらしいです」

アリス「その少年は、自分がそんな弱い体で生まれたということを呪ったそうです。もっと、強い……いや、普通の体で生まれたかったと」

アリス「ですが、そんな少年にも幸運なことがありました。それは、両親はいわゆる富豪だったということです」

アリス「体の弱かった少年は森の奥に建てられた家から出ることは禁止されましたが、その家の中ではなに不自由なく生活していたそうです」

アリス「少年の両親は、高齢で出来た子供だったということで、少年のことを、それこそ猫可愛がりしていたそうですよ」

アリス「欲しい書物はもちろん、マジックや歌、あるときはオペラの一座を家に呼んで少年のためだけに演じさせたりもしたようです」

アリス「凄いですよね。普通の家に生まれていれば、こんな経験はできなかったでしょう」

アリス「美味しいご飯、安心して眠れるベッド。飽きさせることもなく、次々と提供される娯楽……」

アリス「少年はそんなふうに自分を大切にしてくれる両親を持って、幸せだと思っていたそうです」

アリス「自分は何もかもが、望めば簡単に手に入るという幸運を神に感謝していました」

アリス「……ただ、一点。外に出られないということを除いては」

アリス「どんな娯楽を与えられていても、少年の外に対する好奇心を消すことはできなかったそうです。……いえ、逆に、日々、好奇心は強くなっていきました……」

アリス「そこで、少年は両親に頼んで、旅人……吟遊詩人を呼んでもらい、外の世界の話を聞きました」

アリス「また、あるときは画家を呼び、世界の果ての風景を描かせたりもしていたそうです」

アリス「吟遊詩人のお話や画家が描く、外の世界の風景」

アリス「少年の好奇心は、膨れていくばかりです。次第に抑えることが辛くなるくらいに……」

アリス「外に出たいと思う反面、少年は家の中の生活も嫌いではありませんでした。両親のことも愛していましたし、その愛に報いることが、自分にできる唯一の親孝行だと思っていました」

アリス「そんなとき、少年は吟遊詩人にあることを尋ねます」

アリス「今までで、一番素敵な体験の話を聞きたいと」

アリス「すると、吟遊詩人は、こう答えました」

アリス「それは到底、言葉で表すことは叶いません。経験に勝る感動はないのだと」

アリス「その言葉を聞いて、少年は決意します」

アリス「家の外に出ることを」

アリス「もちろん、それは両親を裏切る行為になります。一度出てしまえば、もうこの家に戻ることは叶わない。そこまでの決意を持って、少年は外に出ることを決めたのです」

アリス「そして、その少年は、その日の夜に家を出て、外に出ました」

アリス「生まれて初めて出た外の世界は、少年にとって感動そのものでした」

アリス「空に輝く星や月、風に揺れる木々。吸い込む空気でさえ、少年にとっては震えるほど感動を覚えたそうです」

アリス「そして、自分の足で歩き続けて、森からちょうど抜けようとしたときでした」

アリス「オオカミが少年を襲いました」

アリス「体が弱かった少年がオオカミから逃げられるわけもなく、すぐに追いつかれ、首元を噛まれたそうです」

アリス「薄れゆく意識の中で、少年は両親への謝罪を繰り返しました。裏切ってしまい、申し訳ないと。先立つ不孝を許してほしいと……」

アリス「これで、この話は終わりです」

アリス「さて、どうでしょうか? 果たして、この少年は家にいた方が幸せだったのでしょうか。本来、人間であれば自由に出られる外の世界を経験することもないまま過ごすことが」

アリス「それとも、大切なものを全て失ってでも、自由になったことを経験したことの方が幸せだったのか……」

アリス「……そうですね。少年は自分の意志で出て行ったのですから、動物園の話とはまた違うのかもしれません」

アリス「ですが、必ずしも野生に返すことが動物たちにとって幸せとは限らないのではないでしょうか」

アリス「……ええ。そうですね。確かにこの答えは他人には出せるものではありません」

アリス「幸せかどうかは、本人にしかわからないことですから」

アリス「……そうですね。その少年はどうだったかは、やはり少年にしかわからないと思います」

アリス「……ふふ、気になりますか?」

アリス「では、今度聞いておきましょう」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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