【声劇台本】親愛なる息子へ

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
喜多川 美奈子(きたがわ みなこ)
凌空(りく)
その他

■台本

美奈子「うう……」

助産婦「喜多川さん、頑張ってください!」

美奈子「うう……ああーー!」

赤ちゃんの泣き声が響く。

美奈子「はあ……はあ……はあ……」

助産婦「喜多川さん。おめでとうございます。元気な男の子ですよ」

美奈子「……凌空。生まれてきてありがとう」

助産婦「あ、そうだ。喜多川さん、もう一つ、おめでとうですね」

美奈子「え?」

助産婦「お誕生日、おめでとうございます」

美奈子「あ……そっか。今日は私の誕生日でもあるんだ」

助産婦「お母さんと同じ誕生日なんて、結構、珍しいんですよ」

美奈子「そうなんですか……」

美奈子(N)「私と一緒の誕生日。私はこの子と一緒に年を重ねていく。私一人でも、しっかり育てて見せる……」

場面転換。

時計の針がチッチッチと動く音。

美奈子「……」

ガチャリとドアが開く音がする。

美奈子「帰ってきた」

立ち上がり、小走りして玄関まで行く美奈子。

美奈子「ちょっと、凌空! 何時だと思ってるの!」

凌空「ん? 9時」

美奈子「遅くなるなら、連絡くらいしてって言ってるでしょ!」

凌空「……どうやって?」

美奈子「え? そりゃ、電話とか……」

凌空「わざわざ、借りろって言うの?」

美奈子「……ねえ、凌空。やっぱり、もう高校生なんだから、携帯持ったら?」

凌空「いらないよ」

美奈子「どうして? 携帯あれば、こういうとき、すぐに連絡取れるでしょ?」

凌空「あのさ、母さんはスマホ、いくらするのか知ってるの?」

美奈子「え? えっと……確か安いので2000円もしないって、テレビで見たけど」

凌空「それは基本料金。スマホの本体は下手したら10万とかするんだよ」

美奈子「ええ! そんなに!?」

凌空「あのさ、少しは自分のことに使ったら? カバンボロボロで、この前、財布落としてたでしょ」

美奈子「か、母さんのことはいいのよ」

凌空「……」

美奈子「……あのさ、お金のことなら心配しなくていいんだからね」

凌空「はあ……。あのさ。今でもカツカツなのに、これ以上、金かかるのなんて無理でしょ」

美奈子「そ、そんなことないわよ。もう一つ、仕事増やせばいいだけだし」

凌空「また倒れて、余計に医療費掛ける気?」

美奈子「うっ……」

凌空「とにかく、いらないから」

美奈子「ねえ、凌空。あのね。……凌空には貧乏だからって、引け目を感じて欲しくないの。普通の子と一緒の生活してほしいのよ」

凌空「……はあ。そんなこと言ったって、うちが貧乏なのは事実だろ? いいよ、諦めてるから」

美奈子「諦めるって……」

凌空「子供は親を選べない。貧乏の家に生まれたんだから、普通の生活なんてできないってわかってるよ」

美奈子「凌空……」

凌空「じゃあ、俺、疲れたから寝るから」

美奈子「え? 晩御飯は?」

凌空「食ってきた」

歩いて部屋へと入っていく凌空。

美奈子「……」

場面転換。

スーパー。

店長に駆け寄る美奈子。

美奈子「あ、あの、店長」

店長「なんですか?」

美奈子「その……もう少しシフト、増やしてもらうことってできないですか?」

店長「ええ? 喜多川さん、今でも週6じゃないですか。ダメですよ。これ以上、働かせたら、私が本部に怒られてしまいますよ」

美奈子「えっと、それじゃ、一日の時間を増やすことってできませんか?」

店長「……なにかあったんですか?」

美奈子「実はもうすぐ、息子の誕生日でして……。スマホを買ってあげたくて」

店長「ええ? 喜多川さんのお子さんって、高校生ですよね? まだ、持ってなかったんですか?」

美奈子「や、やっぱり、普通は持ってますよね……」

店長「ああ、ごめんなさい。なんでもかんでも普通って考えるのは悪い癖ですよね。えっと、息子さんが欲しいって言って来てるの?」

美奈子「いえ。本人はいらないって言ってるんですけど、私が持たせてあげたくて」

店長「なるほどねぇ。でもね、喜多川さん。あなたが思う幸せが、本人にとっての幸せとは限らないのよ」

美奈子「……」

店長「……知り合いに、内職の募集をしてるところがあるの。そこに相談してみますね」

美奈子「本当ですか! ありがとうございます!」

店長「ただ、無理しないでくださいよ。あなたに倒れられたら、うちが困るんですから」

美奈子「……はい」

場面転換。

パソコンを慣れない手つきで操作する美奈子。

美奈子「えっと……3、6、7、0……っと。うーん。データー入力って簡単だって言ってたけど、結構、大変なのね」

ガチャリとドアが開く音がする。

美奈子「え? ああ、もうこんな時間!」

凌空「……ただいま」

美奈子「あ、お帰りなさい。……ごめんね、凌空。ごはん支度まだだから、もう少し待ってくれる?」

凌空「……じゃあいらない。もう疲れたから寝る」

美奈子「え? ちょ、ちょっと凌空!」

部屋に入っていく凌空。

美奈子「もう、凌空ったら……。凌空がいらないなら、私も簡単なもので済ませようっと。またデーター入力の続き、しなくっちゃ」

場面転換。

スーパー内。

店長「喜多川さん、今、配送が来たから、バックヤードに運んでくれますか?」

美奈子「はーい……。あれ?」

意識がもうろうとするようなグニャリという音と、ドサっと倒れる音。

店長「喜多川さん? 喜多川さん!」

場面転換。

病院内。

美奈子「……」

凌空「店長さんに聞いたよ。仕事増やしてたんだってね」

美奈子「ごめんなさい」

凌空「だから、無理するなってあれだけ言ったのに」

美奈子「う、うう……。だって。どうしても、凌空に……スマホ、買ってあげたくて」

凌空「……」

美奈子「ごめんね。私なんかの子供に生まれちゃって。もっとお金持ちのところに生まれれば、こんなことにならなかったのにね」

凌空「……子供は親を選べないんだから、そんなこと言っても、意味ないでしょ」

美奈子「うう……ごめんね、ごめんね」

凌空「あのさぁ。母さん、勘違いしてない?」

美奈子「え?」

凌空「俺さ、母さんの子供に生まれて、良かったって話なんだけど」

美奈子「……」

凌空「もし、仮に選べたとしても、母さんを選んでたと思うよ」

美奈子「……凌空」

凌空「あと……。これ、誕生日プレゼント」

美奈子「え? カバン?」

凌空「母さん、自分じゃ買わないでしょ」

美奈子「カバン買うお金なんて……あ、最近、帰ってくるの遅かったのって……」

凌空「バイトしてた。飲食店だから、飯も出るし一石二鳥だったよ」

美奈子「もう! 勝手なことして! 私のことなんていいんだから、少しは自分のことに使いなさい」

凌空「そのセリフ、そっくりそのまま、お返しするよ」

美奈子「あ……」

凌空「あのさ、母さん。俺はこれからも、母さんと一緒に年を取っていきたいんだ。だからさ……無理とかして……万が一のことがあったりして……俺を一人にしないでくれよ」

美奈子「……凌空」

美奈子(N)「今までは凌空を育てることに必死で、凌空のことを見てなかった。これからはちゃんと凌空と一緒に、年を重ねていこう。……お誕生日、おめでとう」

終わり。

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