【声劇台本】三人目
- 2021.04.18
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
セティ
リナ
リサ
その他
■台本
セティ(N)「……私は人形。文字通り、人の形をした人形。意思を持たず、ただ、命令に従うだけの存在。それが、私……」
パーティ会場のざわめき。
それを天井裏から見ているセティ。
セティ「……」
場面転換。
ブライアン「はっはっは。アシュヴィン、と言ったか。伝説のアサシンだか何だか知らんが、この警備の中、私を狙えるわけがない。アシュヴィンなんて大層な名前も、どうせ話に尾ひれがついたものだ。大体……」
バンと電気が落ちる音。
ブライアン「な、なんだ、停電だと? おい、すぐに予備電源に切り替えろ!」
ドスとブライアンが刺される音。
ブライアン「なにっ……」
セティ「……任務、完了」
再び、バン!と電気が付く音。
同時に、女性の叫び声が響く。
場面転換。
セティ「……」
ルーカス「セティ、よくやったな。完璧だ」
セティ「ありがとうございます」
ルーカス「あそこまで素早く大胆に暗殺できる者は、アシュヴィンくらい……いや、アシュヴィンにだって不可能だ。失敗した任務は一度もないと言われるアシュヴィンであってもな」
セティ「……」
ルーカス「セティ。既にお前はオリジナルを超えたのだ。ふふふ。巨額の資金を投入し、アシュヴィンのクローンを作り出すことに成功した。いや、それ以上のものを作り出したのだ。この私が! 今の時代、兵器だけではなく、兵士さえも作り出す時代に移行したのだ。これからは私の時代だ。くくくく」
セティ「……」
ルーカス「いいか、セティ。お前がオリジナルを殺ることで、証明するのだ。最強の兵士を作り出す私こそが、世界を牛耳るべき人間なのだとな」
セティ「……はい」
ルーカス「ふふふ。奴をおびき出す仕掛けは既に打ってある。必ず、奴は近いうちに私を狙ってくる。そのとき、お前がアシュヴィンを始末するのだ」
セティ「はい」
ルーカス「作戦まで、お前は部屋で休んでいろ」
セティ「……あの、ルーカス様」
ルーカス「なんだ?」
セティ「外を……少しだけ散歩してもよいでしょうか?」
ルーカス「……構わん。だが、妙なことは考えセティよ。お前の体には発信機と爆薬が入っていることにな」
セティ「……はい」
場面転換。
昼の公園。子供や家族連れの人たちでにぎわっている。
セティ「……」
リナ「隣、いいかしら?」
セティ「……え?」
リナ「隣空いてセティら、座ってもいい?」
セティ「このベンチは公共のもので、私の所有するものではありません。座ることに、私の許可は必要ないではないですか?」
リナ「ふふふふ。随分、変わった考え方するのね。あなたが先に座っていたんだから、あなたが決めていいんじゃない?」
セティ「……どういうことでしょう? 座っただけで所有権が移ることはあり得ません」
リナ「うーん。そんなに固く考えなくていいんじゃない、って話なんだけど。じゃあ、隣、座らせてもらうわね」
セティ「ですから、私に拒否権はありません」
スッとリナがセティの隣に座る。
リナ「私はリナ。あなたは?」
セティ「……セティ、です」
リナ「よろしくね、セティ」
セティ「よろしく? 私はあなたに何かするべきなんでしょうか?」
リナ「いや……そういうわけじゃないんだけど……挨拶よ、挨拶」
セティ「そうですか。挨拶でしたか。……えっと、おはようございます」
リナ「ねえ、もしかしてセティって、どこかのお嬢様だったりする?」
セティ「違います。なぜですか?」
リナ「なんていうか、世間離れしてるっていうか」
セティ「……なるほど。普通じゃないというわけですね」
リナ「あ、いや、そこまでじゃなくて」
セティ「実は、私、こうして一人で外に出ることが許されるようになったのは、最近のことなんです」
リナ「……どうして? 病気だった、とか?」
セティ「ある特殊な訓練を受けていたからです。その訓練は日夜問わず行われていて、外に出る時間が確保できなかった、というわけです」
リナ「……特殊な訓練?」
セティ「極秘なので、言うことはできません」
リナ「そんな生活していて、両親は何も言わないの?」
セティ「……親はいません。というより、私は人形ですから、親は存在しない、と言った方が正しいですね」
リナ「……人形?」
セティ「私は偽物なんです。作られた存在。体も、技術も全て。心だけが未完成です」
リナ「どうして?」
セティ「心は必要ないと言われたので」
リナ「……そう」
セティ「それでは、私はそろそろ行きます」
リナ「もう少しお話したかったけど、残念ね。楽しかったわ。ありがとう」
セティ「……お礼を言われるようなことはしてません」
リナ「あはは……。考えが固いなぁ。それじゃ、セティ。またね」
セティ「……もう、会うことはありません。さよなら」
場面転換。
施設内。
うっすらと聞こえる、人が走る音。
ルーカス「来たぞ。アシュヴィンだ。くくく。センサーに引っかかってることも知らずに。あんなざまで、伝説のアサシンとは笑わせる。セティ。始末してこい」
セティ「はい」
場面転換。
ごく小さく人が走る音。
そこに鋭い、ナイフが空を割く音。
リナ「くっ!」
セティ「……」
リナ「凄いわね。まったく殺気を感じなかったわ」
セティ「……」
リナ「やっぱり、あなただったのね」
セティ「……」
リナが覆面を取る。
リナ「ぷはっ! やっほー、セティ。またあったわね」
セティ「……あなたは昼間の。あなたが……アシュヴィン?」
リナ「まあね。で、相談なんだけど、退いてくれない? 私、セティとは戦いたくないの」
セティ「なぜ、そんな提案を、私が受けると思うんですか?」
リナ「セティ。あなたはどうして戦うの?」
セティ「命令だからです」
リナ「あなた自身はどう思ってるの?」
セティ「私は人形です。人形に意思は必要ありません」
リナ「人形か……。ねえ、セティ。あなたはっ」
シュッとナイフが空を切る音。
リナ「っと、危ない危ない」
セティ「話は終わりです」
リナ「そう? 残念ね。昼間の続きをしたかったんだけど……」
セティ「……」
何度もナイフが空を切る音。
リナ「くっ!」
セティ「……」
リナとセティのナイフが斬り結ぶ音。
そして、キンとナイフが弾かれる音。
リナ「くっ……。ナイフの扱いはセティの方が上みたいね」
セティ「アシュヴィン。あなたのデータは全て洗い出しました。ありとあらゆるデータは、私の方が上です」
リナ「なるほど。私よりも強いってわけね」
セティ「はい」
リナ「確かに、セティ。あなたの方が強いわ。だけどね、勝敗はまた別よ」
セティ「強がりですね。私の勝ちです」
リナ「ふふ。どうして、アシュヴィンって呼ばれているか、教えてあげるわ」
セティ「……」
トンっと、後ろから首筋を打たれる音。
セティ「なっ……」
セティが倒れる。
リナ「遅いわよ、リサ。で? 任務は?」
リサ「完了したわよ。ルーカスってマッドサイエンティストは消したわ」
セティ「……双子?」
リナ「そういうこと。ごめんね。騙しちゃって。アシュヴィンは私とリサの二人のコードネームなの」
セティ「……じゃあ、センサーに引っかかったのも」
リナ「わざと。私に注意を引き付けてる間に、リサが任務を遂行する」
セティ「……私の負けです。止めを刺してください」
リナ「なんで?」
セティ「……私は人形です。持ち主がいなくなれば、必要がなくなります」
リナ「セティ。あなたは人形なんかじゃないわ。人間よ」
セティ「……違います。私は作られた存在の人形なんです。不要になった人形……」
リナ「例え作られたんだとしても、あなたが人間であることは変わらない。それに不要なんかじゃないわ。……私が必要としてる」
セティ「……ですが、私はどうしていいのか……これからどう生きていいのかわかりません」
リナ「それなら、それを見つけるために生きればいいじゃない」
セティ「見つけるために……生きる?」
リナ「そ。あんまり難しく考えなくていいのよ。とりあえず、私たちと生きてみよう」
セティ「……私は意思の持たない人形です。だから、自分で判断ができません……」
リナ「そっか。じゃあ、セティは私が所有する人形ってことでいいの?」
セティ「はい」
リナ「それじゃ、持ち主として命令するわ」
セティ「はい」
リナ「これからは人形じゃなく、人間として生きなさい! 私たちと一緒に」
セティ「わかりました」
セティ(N)「この日、私は人形ではなくなった。まだ、人間として、どう生きていいのかわからなけれど、それでも、生きるための理由というのを探しながら進んでいこうと思う」
終わり。
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