【声劇台本】働かないアリ

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■概要
人数:4人以上
時間:20分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
海藤 紬(かいとう つむぎ)
才賀 一斗(さいが かずと)
その他

■台本

カタカタカタとキーボードを打つ音。

勢いよくエンターキーを押す。

紬「ふう……。才賀先輩、データー組み終わりました。チェックを……あれ? あの……才賀先輩、見ませんでした?」

女性「タバコ休憩じゃない?」

紬「……またですか? 先輩、タバコ吸わないのに……」

女性「まあ、タバコが目的じゃないからね」

紬「ああ、もう!」

バンと机を叩いて、立ち上がる紬。

場面転換。

一斗「はははは。そりゃモッチーが悪いよ」

紬「才賀先輩!」

一斗「ん? 海藤さん、どうしたの?」

紬「どうしたの、じゃないですよ。先輩から頼まれた機能、組み終わったんで、チェックをお願いしたいんですけど」

一斗「ああ。そっか。早いね。さすが。じゃあ、テストは沼っち……沼田さんにお願いしといて」

紬「いや、あのタスク、元々、先輩の仕事ですよね? 先輩がチェックすべきなんじゃないんですか?」

一斗「いやあ。そう言ってもさー、俺、よく仕様わかってないんだよねー。それなら、その辺、把握している沼っちがテストした方が効率的だと思うよ」

紬「……」

場面転換。

カタカタカタとキーボードを打つ音。

後ろから一斗がやってくる。

一斗「あれ? 海藤さん? まだ残業してたの?」

紬「……はい」

キーボードを打ち続ける紬。

一斗「うーん。やる気があるのはわかるけどさー。頑張り過ぎは体、壊すよ?」

乱暴にエンターキーを叩く紬。

紬「誰のせいだと思ってるんですか!」

一斗「……え? 俺のせい? あ、もしかして、あのタスクのこと? チェックのために俺を待ってた、とか?」

紬「あの件は沼田さんにチェックしてもらって、納品しました」

一斗「あ、そうなんだ。じゃあ、今は何やってるの?」

紬「……自分の分のタスクです」

一斗「ええ? じゃあ、自分の分のタスクよりも、俺のタスクの方を先にやってくれたってこと?」

紬「……先輩のタスクの方が納期、近いですから」

一斗「ごめんごめん。そのタスク、俺の方に送っておいて」

紬「……先輩、これからやるんですか?」

一斗「いや、明日やるよ」

紬「……じゃあ、いいです」

一斗「え? なんで? 別に納期、今日じゃないんでしょ?」

紬「そうですけど、チェックも考えると、今日中に目途を付けておきたいんです」

一斗「んー。無理することないと思うけどな。あ、そうだ。明日、俺が部長に頼んで、納期をリスケしてもらうよ」

紬「いいです」

一斗「え? なんで?」

紬「私が……仕事、できないみたいじゃないですか」

一斗「んなこと、誰も思わないって。海藤さん、いつも頑張ってるでしょ」

紬「先輩と比べれば、誰だって頑張ってるように見えます」

一斗「ははは。手厳しいな」

紬「もう放っておいてください。お疲れさまでした」

一斗「……な、なんか手伝うけど?」

紬「お、つ、か、れ、さ、ま、で、し、た!」

一斗「……お、お先に失礼します」

場面転換。

カタカタカタとキーボードを打つ音。

ピタリと手が止まる。

紬「はあ……」

女性「海藤さん、大丈夫? 少し休憩したら? 昨日も遅くまで残業してたんでしょ?」

紬「平気です……。終電で帰れましたから」

女性「……」

部長「海藤、才賀のタスク状況はどうなってる?」

紬「あの、部長。ちょっといいですか?」

部長「ん? ああ」

場面転換。

紬「才賀先輩、チームから外してくれませんか?」

部長「……そろそろ言われると思ってたよ。けど、才賀はチームに必要な奴だ」

紬「どうしてですか! あの人、全然仕事してません! それで、私に全部、押し付けて……。私、もう耐えられません」

部長「……才賀がお前に押し付けたのか?」

紬「いえ……。ですが、放っておいたら納期過ぎてしまいますから」

部長「なるほど。海藤はもう、チームのタスクを把握できてるのか。すごいな」

紬「話を逸らさないでください!」

部長「……働きアリの中には、働かないアリがいるって知ってるか?」

紬「……いえ、知りません」

部長「不思議なことに。その働かないアリを抜くと、今度は今まで働いていたアリの中から、働かなくなるアリが出てくるんだ」

紬「才賀先輩は働かないアリだっていいたんですか? ですが、私達はアリじゃありません!」

部長「……そういうことじゃないんだが、もう少しだけ様子を見てくれ」

紬「……」

場面転換。

誰もいない、夜のオフィス。

カタカタカタとキーボードを打つ音。

そこに電話がかかって来る。

紬「はい。……はい。そのタスクの担当は私です。……え? ちょ、ちょっと待ってください。確認します。はい、はい」

ガチャっと電話を切る。

マウスのクリック音とキーボードを叩く音。

紬「……あ、嘘。え? どうして?」

キーボードを叩く音。

紬「あれ? 仕様と合ってるはずなのに」

一斗「ここの要件定義、間違えてない?」

紬「きゃあっ!」

一斗「ごめん、驚かせちゃったか」

紬「才賀先輩、上がったんじゃ……」

一斗「いや、今まで二課の人と喋ってた」

紬「……」

一斗「このタスク、納期は?」

紬「明日の朝……です」

一斗「どうするつもり?」

紬「徹夜で直します」

一斗「いや、無理っしょ」

スマホを取り出して、電話を掛ける一斗。

紬「あ、部長には……」

一斗「あ、モッチー? ごめんごめん。ちょっとミスってさ。手伝ってくんない?」

紬「え?」

一斗「ありがと! 今から、海藤さんからデータ送ってもらうから。ん? ああ、うん。海藤さんにも手伝ってもらってる。すまんね、今度奢る」

ピッと電話を切る。

紬「あの……」

電話を掛ける一斗。

一斗「あ、倉田さん? 納期勘違いしてたタスクあってさー。助けてー」

場面転換。

一斗「よし、人員は確保した。海藤さんは送られてくるプログラムのテストをやって」

紬「……才賀先輩は?」

一斗「見守ってる!」

紬「はあ(ため息)……」

場面転換。

紬「……納品できました」

一斗「よかったよかった」

紬「あの、ありがとうございました」

一斗「ん? 俺は別に何もしてないよ」

紬「でも、才賀先輩のおかげで、間に合いました」

一斗「……俺はさ、無能なんだよ」

紬「はい」

一斗「そこ、はいって言っちゃう?」

紬「あっ! す、すいません」

一斗「はは。まあ、ホントのことだからいいんだけどさ。でさ、俺は無能だから、誰かに助けて貰わないと仕事が回らないんだ」

紬「……」

一斗「だから、俺は人脈を作るしかないんだ」

紬「それで、いつも色々な人と話してるんですね」

一斗「まあ、半分は楽しいからだけどね」

紬「……人脈、ですか。私、全然、築けてませんでした。いえ、考えもしなかったです。……ダメですね、私」

一斗「いや。海藤さんには海藤さんの仕事のやり方がある。一生懸命、仕事を進められることは凄いと思うし、格好いいよ」

紬「……」

一斗「海藤さんは、今の自分のまま自信もって進めばいい」

紬「はい」

一斗「まあ、唯一の欠点は一人で頑張り過ぎることだね。困ったことがあったら、相談してもらえれば、俺が助けてくれる人を探すからさ」

紬「ふふ。他力本願なんですね」

一斗「仕方ないでしょ。俺、無能なんだから」

紬「そうですね」

一斗「うわ、酷い」

紬「ホントのことじゃないですか」

一斗「そうなんだけどさー」

紬「ふふふ」

一斗「ははははは」

終わり。

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