【声劇台本】丑の刻まいり

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ホラー

■キャスト
武臣(たけおみ)

■台本

武臣(N)「世の中はクズばかりだ。ただ、力が強かったり、親が金持ちだったり権力があるだけで、弱者は虐げられる。教師は見て見ぬフリを平然とする。そう、この世に正義なんかない。理不尽が通る、こんな世界に絶望し続ける。……だが、俺は見つけてしまった。いや、辿り着くことができた。理不尽に抵抗する正義を」

ペラペラと本をめくる音。

武臣「あった……。丑の刻まいりだ」

武臣(N)「俺の爺さんはいわゆるオカルトマニアだった。なんでも、爺さんの爺さんもオカルトマニアで、代々、呪いに関する書物を継承していたらしい。爺さんはあくまで見て楽しむだけで、絶対に使わないという約束の上で俺に、書物を渡してくれた。これは親父も知らない。つまりは、爺さんが死んだ今、俺がこの書物を持っていることを誰も知らないのだ」

ペラペラとページをめくる音。

武臣「へー。一般的に出回ってるやり方と結構、違うんだな。でも、その方が、本当っぽくていいな。とにかく試してみよう」

カーン、カーン、カーンと釘を打つ音。

武臣(N)「丑の刻まいりをした1週間後。俺をイジメていたグループ4人が全員事故に遭った。4人で歩いていたら、上から看板が落下してきたらしい」

武臣「……これはやっぱり、本物だ!」

武臣(N)「この丑の刻まいりの凄いところは、一般的に知られている、相手の髪や爪などは必要ない。なんなら、相手の顔や名前がわからなくてもいい。その代わり、必要なのは強大な憎悪だ。特製の藁人形に1週間、その相手への憎しみを込める。そして、妖怪を呼び出すと言われる印を書いた紙を巻き付けた釘で打つ。すると、藁人形に込められた憎悪の強さの分、相手に不幸がおきるというものだ」

カーン、カーン、カーンと釘を打つ音。

武臣(N)「俺がイジメられているのを見て見ぬフリをした教師や、クラスメイトも呪ってやった。その全員が、不幸にあっている。そのおかげで、俺はもちろん、学校内でのイジメがなくなった」

武臣「ふふふ。あははははは! 俺が正義だ! 正義を執行する選ばれた人間なんだ!」

カーン、カーン、カーンと釘を打つ音。

武臣(N)「学校内の粛清が終わった俺は、町の中の掃除を始める。迷惑な爆音を響かせながらバイクを乗り回す男。人を見下してくる、くだらない女。弱者が暴力を振るわれているのを見ても動かない警察官。企業と繋がって、クソみたいな法案を作る政治家。とにかく、ゴミどもを片っ端から粛清していく。それが俺の使命だ」

武臣「ちっ! 預金が0になっちまった!」

武臣(N)「正義を執行するにも、費用がかかる。藁人形や釘、変装用の服など、色々だ」

武臣「……金がないから正義を執行できないなんて冗談じゃないぞ。なんとかしないと……」

武臣(N)「そして、俺は閃いた」

武臣「呪い代行をやればいい」

武臣(N)「呪いたい奴を10万で請け負うサイトを作ればいいんだ。藁人形は依頼者に作らせて送ってもらえば、俺は釘を打つだけでいい。俺自身が直接、裁く奴を選定するわけじゃないけど……どうせ、恨みを買われるような奴だ。構わないだろう」

カーン、カーン、カーンという釘を打つ音。

武臣(N)「俺の作戦は成功だった。依頼は毎日のように来る。もう、金の心配をする必要もない。それどころか、この先、働かなくたっていいくらい稼げる。学校にだって行く必要はないんだ。これで俺は正義の執行に集中できる」

場面転換。

武臣「ふふふ。どこの誰かは知らないが、恨まれるようなことをする奴が悪いんだ。因果応報。不幸になれ! 天誅!」

カーン、カーン、カーンと釘を打つ音。

武臣「うっ! あっ……。な、なんで?」

どさりと倒れる武臣。

武臣「ま、まさか、この藁人形に込められた恨みの相手は……俺? うわあああああ!」

終わり。