【声劇台本】天才の証明
- 2021.05.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
廉治(れんじ)
高城 尚樹(たかしろ なおき)
瀬良(せら)
その他
■台本
ボクシング会場。
カンカンカンとゴングが鳴り響く。
ワーッと観客が盛り上がる。
アナウンサー「レフェリー止めた! 新たな日本王者、誕生! その名は高城尚樹! 前評判では、不利との声が多かった高城、なんと瀬良を、一ラウンドKOです!」
廉治(N)「高城尚樹。俺にとってのヒーローだ。高城の兄貴は強くて、天才で、傲慢だった。そんな兄貴の背中を見ているだけで、俺は楽しかった。……いや、兄貴の背中に俺の人生を乗せていたのかもしれない」
場面転換。
ボクシングジム。
ジムメイトが練習している。
そんな中、廉治が会長にミットを受けて貰っている。
会長「ほらほら! 廉治、顎が上がってる! そんなんじゃ、カウンターの餌食だぞ」
廉治「はい!」
ミットを打ち続ける廉治。
ビーっと3分を告げる音が響く。
会長「よし、廉治、休憩だ」
廉治「はあ……はあ……はあ……」
会長「廉治、今年のA級はいけそうだな」
廉治「頑張ります……」
ガラッとジムのドアが開く。
尚樹「うーす……」
会長「おう、来たか、尚樹。すぐにミット打ちだ! 着替えろ」
尚樹「(欠伸)はいはい……」
更衣室に入っていく尚樹。
廉治「……会長。兄貴……高城さん、勝てますよね?」
会長「どうだかな。俺の見立てじゃ、五分五分だ」
廉治「……」
会長「相手の瀬良も、3年越しのリベンジマッチだからな。かなり気合が入ってる」
廉治「前回は1ラウンドKOですよ。あれから兄貴も経験積んだし、今回も余裕ですよ、きっと」
会長「こればっかりはやってみないとわからん」
廉治「兄貴なら勝ってくれますよ」
会長「……なあ、廉治。勝負はときに、負けた方が成長することもある。負けることが必要ということもあるんだ」
廉治「会長は、兄貴が負けて欲しいってことですか!」
会長「いや、そうは言っておらん」
ガチャリと更衣室から出てくる尚樹。
バンバンっとグローブを打ち合わせる。
尚樹「廉治。すまんな。リング借りるぜ」
廉治「あ、はい」
廉治がリングから降りる。
会長「来い! 試合まで時間がないぞ!」
尚樹「はいはい」
バンバンとミット打ちが始まる。
練習生1「今回、高城さん、ダメそうだよな」
練習生2「一回勝ってる相手だから舐めてるんだよ。この時間に来て、30分くらい練習して帰るんだぜ? 信じられるかよ」
練習生1「高城さん、天狗になってるよな。天才だ、なんだっておだてられててさ」
練習生2「会長も今回は、さすがに負けて欲しいって思ってるんじゃないか? 30分の練習でも、何もいわねえもん」
練習生1「大体の奴は同じように思ってるよな」
廉治「おい! てめえら! なにふざけたこと言ってやがる!」
練習生1「あ、いえ……その、すいません」
練習生2「けど、周りの予想は五分五分です。しかもあんな練習量じゃ……」
廉治「前回は不利だって言われたのに、1ラウンドKOだったんだぞ」
練習生1「でも、あれは対戦相手がケガしてたから……」
廉治「あんなの負け惜しみだ! 1ラウンドKOで、バツが悪かったから、怪我したなんて嘘言いやがったんだよ!」
練習生2「……試合の2日前に階段で押されて落ちたって話です……」
廉治「だーかーら! そんなの、あっちの言い訳だって! 仮にそれがホントのことだったとしても、だ! 試合に万全の状態で臨めなかったのは、あっちのミスだろ!」
練習生2「は、はい……。すいません」
尚樹「おいおい、廉治。あんまり、練習生をイジメんなよ」
廉治「すんません……って、兄貴、ミット打ちは?」
尚樹「あー、今日は気分が乗らねえ。今日は帰るわ。……会長! アレは?」
会長「事務所に置いてある」
尚樹「サンキュー。じゃあ、借りていくな」
廉治「あの……兄貴。今回も、勝てますよね?」
尚樹「たりめーだ! 天才だぞ、俺」
廉治「そ、そうですよね! 兄貴、天才ですからね」
尚樹「今回は秒殺してやるよ、秒殺」
廉治「期待してるっす!」
尚樹「じゃな。お疲れー」
尚樹がドアを開けて、事務所に入っていく。
練習生1「ダメだな。完全に舐めてる」
練習生2「秒殺されるんじゃねーか?」
廉治「ああ!?」
練習生1・2「……」
場面転換。
道を歩く廉治。
廉治「ちっ! どいつもこいつも。兄貴が負けるわけないんだ! 兄貴は天才なんだ! ……こうなったら、また……」
場面転換。
瀬良がロードワークをしている。
瀬良「はっ! はっ! はっ!」
廉治「おらあ!」
ブンと廉治のバットが空を切る。
廉治「なっ!」
瀬良「あぶねえ。やっぱりな。また、来ると思って警戒してて正解だったぜ。さてと、今度はそのグラサンとマスクの下を見せてもらうぞ」
廉治「くそ!」
走り出す廉治。
瀬良「あ、待ちやがれ!」
場面転換。
廉治が歩いている。
廉治「はあ……はあ……はあ……。なんとか撒けたみたいだな。……くそ、明日、もう一回……」
尚樹「はっ、はっ、はっ!」
尚樹が走っているのを見つける。
廉治「あれ、兄貴? ロードワーク?」
場面転換。
尚樹が広場でシャドーをしている。
尚樹「しっ! しっ! しっ!」
廉治「……シャドー? どうして?」
会長「見られちまったか」
廉治「あ、会長……」
会長「尚樹は練習してないわけじゃない。というより、誰よりも隠れて練習してる」
廉治「どうして、隠れて練習を?」
会長「お前の為だろうな」
廉治「俺の……?」
会長「お前の前では天才でいたいのさ。お前が尚樹のこと天才だと信じているからな」
廉治「……あ、兄貴は天才です」
会長「確かに、いいものは持ってる。けど、あいつは努力によって、あそこまで上り詰めたんだ。まあ、それを表に出さないから、勘違いされることが多いけどな」
廉治「……」
会長「なあ、廉治。あいつを信じてやれ」
廉治「え?」
会長「尚樹は天才じゃないかもしれない。だが、努力で勝利をもぎ取ってくるはずだ」
廉治「……」
会長「相手がケガをしてなくてもな」
廉治「……会長」
会長「絶対に勝ってくれるさ」
廉治「はい……」
場面転換。
ボクシングの試合場。
アナウンサー「さあ、始まりました。日本タイトルマッチ。三年前、瀬良を倒して日本チャンプとなった高城。今度はチャンピオンとして、瀬良を迎えうちます」
場面転換。
廉治が交番のドアを開ける。
廉治「あの、3年前の瀬良選手への傷害事件と3日前の傷害未遂の自首をしたいんですけど……」
場面転換。
ボクシングの試合場。
ゴングが鳴り響く。
観客がワーッと沸き上がる。
終わり。
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