【声劇台本】プライド

〈前の10枚シナリオへ〉 〈次の10枚シナリオへ〉

〈声劇用の台本一覧へ〉

■概要
人数:5人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
霧島 春樹(きりしま はるき)
仙田 誠(せんだ まこと)
その他

■台本

ストレッチャーで春樹(7)が運ばれる。

春樹「痛い! 痛いよ!」

母親「先生! 春樹は! 春樹の腕はどうなるんでしょうか?」

医師1「安心してください。必ず手術は成功させます」

23年後。

春樹(N)「俺は子供の頃、事故に巻き込まれた。特に右腕の傷は酷く、普通の医師であれば切断するしかない状態だったそうだ。だが、偶然、救命センターに神の手と噂されていた医師がいた。その医師によって、俺の右腕は切断することなく、完璧に治してくれた。そんな医師に憧れて、医療の道に進むのは当然のことだった」

医師2「霧島先生、いかがしましょう?」

春樹「考えるまでもないだろ」

医師2「ですが、高坂さんの方が先に……」

春樹「順番なんて関係ない。どれだけの金額を出せるか、だ」

医師2「……高坂さんは3ヶ月以上、待ってます」

春樹「何度言わせるんだ。仙田さんの祖父は議員だぞ。出せる金額も違うし、政界との繋がりができるかもしれない。どちらを優先するかなんて、決まっている」

医師2「高坂さんは今回の手術を受けられなかった場合は、おそらく……」

春樹「運がなかったと諦めてもらうしかない」

医師2「命がかかってるんですよ! そんな簡単に!」

春樹「仙田さんも、同じ手術だぞ。命がかかっているのはどちらも同じだ」

医師2「お金で命の価値が決まるなんて」

春樹「そうじゃない」

医師2「え?」

春樹「今回の話は、命の価値の話じゃない。俺の技術に対しての報酬の話だよ」

医師2「……」

春樹「これはプライドの話しだ。俺の技術は世界でもトップクラス。その技術を駆使した手術だ。報酬もそれなりのものになるのは当然だと思わないか?」

医師2「……」

場面転換。

病院内の廊下を歩く春樹。

そこに誠が走ってくる。

誠「先生! どうしてですか! どうして息子の手術をしてくれないんですか!?」

春樹「申し訳ありませんが、急患が入りましてね。そちらを優先させていただきます」

誠「……お願いします! お金なら借金してでも払いますから」

春樹「一千万……」

誠「え?」

春樹「あちらは、私の手術に一千万を出すと言ってます。……公務員のあなたに出せる金額とは思えませんが?」

誠「……うう」

春樹「それでは、失礼します」

春樹が歩き出す。

誠「くそっ!」

壁を叩く誠。

場面転換。

ドアが開き、春樹が手術室から出てくる。

医師2「……お疲れ様でした」

春樹「完璧だと思うが、一応、一週間は注意深く経過を見ててくれ」

医師2「わかりました」

春樹「パリへの飛行機は何時だ?」

医師2「19時です」

春樹「……本屋に寄る時間ができそうだな。俺はもう上がるから、後は頼んだぞ」

医師2「はい……」

場面転換。

本屋の店内。

春樹「……えっと、病理学の棚は」

突然、地震が起こると同時に警報が鳴り響く。

春樹「地震……? 結構デカいな」

ドンと天井が落ちる音。

春樹「ぐあああ! くそ! 足が!」

物凄い勢いの炎が巻き起こる音。

春樹「火災!? くそ、足が抜けない! 誰か、助けてくれ!」

炎がドンドンと迫ってくる。

春樹「ごほっ! ごほっ! 助けてくれ! 誰か!」

そこに誠がやってくる。

誠「大丈夫ですか! 今助けます!」

春樹「ああ、すまん……って、あんたは」

誠「……霧島先生」

春樹「あんた、消防士だったのか」

誠「……」

春樹「はは。俺もついてないな」

春樹「……息子は死にました。手術を受けられずに」

春樹「俺を恨んでるんだろ?」

誠「……」

春樹「ふふ。恨みを晴らすのには、ちょうどいいシチュエーションだな。あんたはこのまま俺を見捨てればいい。そして、見つけられなかったと言えば、あんたは罪に問われることなく、俺に復讐できる」

誠「……そうですね」

春樹「因果応報ってやつだな」

誠「……」

春樹「負け惜しみというわけじゃないが、俺はあんたの息子を見捨てたことを後悔もしてないし、悪いとも思ってない」

誠「……」

春樹「俺の技術は世界トップクラスだ。それに見合った報酬貰う。手術代は俺のプライドだ」

誠「……そうですか」

春樹「さあ、行けよ」

誠「ええ」

誠が走り出す。そして、コンクリートの残骸を持ち上げる。

誠「うおおおお!」

春樹「あ、あんた、何を?」

誠「早く、足を抜いて!」

春樹「あ、ああ」

残骸に挟まれた足を抜く春樹。

誠「歩けますか?」

春樹「いや、厳しいな」

誠「肩に捕まって」

春樹「どういうつもりだ?」

誠「早く!」

誠の肩に捕まって歩く春樹。

春樹「……どうして、俺を助けた?」

誠「正直、あなたのことは憎いです」

春樹「なら、なぜ?」

誠「息子は私……消防士に憧れてました」

春樹「……」

誠「病気が治ったら、絶対に消防士になると言ってました」

春樹「……」

誠「消防士は火を消すだけが仕事じゃありません。火災に巻き込まれて人を助けることも仕事です」

春樹「……」

誠「それが、例えどんな人だろうと。それが私のプライドです」

春樹「プライド……か。くだらないな」

誠「プライドなんて、そんなものですよ」

春樹「……そうだな」

場面転換。

病院内。

医師2「霧島先生、まさか、あの場所に移動するとはな。一番、あり得ない部署だって言ってたのに……」

場面転換。

電話が鳴り、春樹が取る。

春樹「はい。救命救急センター」

誠「仙田です。大規模な火災が発生して、今、現場に向かっています。これから多くの怪我人が、そちらに運ばれると思います」

春樹「なんとしてでも、全員助けろ。そしたら、俺が必ず治してやる!」

誠「よろしくお願いします」

電話を切る春樹。

春樹「スタッフを呼び出せ! プライドにかけて、運ばれてくる怪我人は全員助けるぞ!」

終わり。

〈前の10枚シナリオへ〉 〈次の10枚シナリオへ〉