【声劇台本】伝説の影武者
- 2021.05.25
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、時代劇、シリアス
■キャスト
龍之介(りゅうのすけ)
龍平(りゅうへい)
辰之進(たつのしん)
その他
■台本
辰之進「父上! 父上が、あの龍平と知り合いというのは本当ですか?」
龍之介「……そうか。辰之進があいつの名前を知っているのか。随分と有名になったものだ」
辰之進「今では知らぬ者を探す方が難しいですよ」
龍之介「そうか……。そうだな」
辰之進「それで、父上と龍平はどのような知り合いだったのですか?」
龍之介「あいつは……私の影武者だったんだ」
場面転換。
龍之介、龍平、共に5歳頃。
龍平「龍之介様。今日から龍之介様の身の回りの世話をさせていただく、龍平と申します! よろしくお願いいたします」
龍之介「うわー。僕にソックリだ! まるで鏡を見ているみたいだよ」
龍平「……実は私は、龍之介様の影武者となるため、ここに来ました」
龍之介「僕の影武者?」
龍平「はい。龍之介様は将来、家督を継ぎ、当主になられるお方。万が一のことがないよう、私がつき従い、お守りさせていただきます」
龍之介「うん。よろしく!」
場面転換。
木刀で素振りをしている、龍平と龍之介。
龍平「53、54、55」
龍之介「56、……57……うう! ダメだ、もう限界!」
座り込んでしまう龍之介。
龍平「58、59、60……」
龍之介「龍平はすごいなぁ。僕なんか、全然だめだ。素振りの100回もできない」
龍平「戦うのは私の役目。龍之介さまは、そもそも訓練しなくてもいいんですよ」
龍之介「ほら! また、敬語使って! 二人の時は普通に話してって言ったでしょ」
龍平が素振りを止める。
龍平「申し訳……じゃなかった。ごめんごめん。どうしても慣れなくってさ」
龍之介「龍平は、僕の影武者でもあるけど、僕の友達でもあるんだからさ」
龍平「時期当主様と友達か……。恐れ多いよ」
龍之介「何言ってるんだよ。龍平は僕のかげ武者ってことは、僕の代わりでもあるってことでしょ? ってことは、龍平も時期当主みたいなもんじゃないの」
龍平「いや、さすがにそうはならないよ」
そのとき、遠くから声が聞こえてくる。
父親「龍之介! そろそろ、勉学の時間だぞ」
龍之介「げ! 勉学か……、やだなぁ」
龍平「なんなら、また俺が代わりにやろうか?」
龍之介「え? いいの?」
龍平「うん。俺、結構、勉学好きだからさ。代わりに授業受けれて楽しいよ」
龍之介「ふーん。勉学が好きって、龍平は変わってるなぁ。じゃあ、お願いね」
龍平「うん。完璧に龍之介を演じてくるよ」
場面転換。
10年後。
龍平「俺がここにきてから、10年か。早いよなぁ」
龍之介「はあ……。この先のことを考えると気が重いなぁ」
龍平「何を言ってるだよ。当主がそんなんだと、家臣が不安がるぞ。例え、自信がなくたって、堂々とするのが上の役目だ」
龍之介「そうは言うけどさ、どうしていいかわからないんだよ。当主としての正しい判断とか、できないって、きっと」
龍平「大丈夫だよ。そのときは、俺に相談してくれればいい。助言くらいならできるからさ」
龍之介「う、うう……うおーーーー!」
龍平「うわ、どうしたんだよ、急に」
龍之介「お前が、いつもそうやって僕を甘やかすから、僕はすっかりダメな人間になってましったよ……」
龍平「いや、ダメな人間て……。そんなことないって」
龍之介「考えてみれば、兵法とか、政とかの学問の授業を全部、龍平に変わってもらってたのが、致命的だな」
龍平「いや、致命的って……」
龍之介「…龍平。お前、知ってるのか? 僕の名前が隣国にまで噂になってるんだぞ。稀代の天才だってな」
龍平「へー、そいつはすごい! よかったな、龍之介」
龍之介「ぜんっぜん! よくない!」
龍平「え? どうしてだ?」
龍之介「だって、その評価は僕にじゃなくて、龍平のものなんだから」
龍平「え? どういうことだ?」
龍之介「今って、大体、表に出るときって龍平に任せてるだろ?」
龍平「ああ、そうだな」
龍之介「つまり、周りは龍之介だと思って見ているけど、実際は龍平なんだからさ」
龍平「そうかな?」
龍之介「あー、くそ。こんなことなら、ちゃんと学問とか怠けずに、ちゃんと授業に出てればよかった! ……うう。これじゃ、どっちが影武者かわからないよ」
龍平「いや、考えすぎだって」
場面転換。
山の奥。龍之介と龍平が歩いている。
龍之介「はあ、はあ、はあ……」
龍平「もう少しだ、頑張れ! この山を越え冴えすれば、城が見えてくる。城にさえ戻れれば、立て直しが可能だ」
龍之介「……なあ、龍平。お前は先に行ってくれ。僕は足でまといだ」
龍平「何を言ってるんだ! 龍之介。お前が当主なんだぞ!」
龍之介「わかってる! わかってるけど、このままだと共倒れだ!」
龍平「俺はお前の為に死ぬ。俺はお前の影武者なんだ。それに今回の戦は、完全に俺の采配の間違いが招いたことだ。完全に相手の策にはまって、龍之介を危険にさらしてしまっている……。影武者としても、友達としても、失格だよ、俺は」
そのとき、遠くから声が聞こえてくる。
兵士「いたぞ! こっちだ!」
龍平「くそ、囲まれたか。龍之介、俺が囮になるから、その隙に、逃げてくれ」
龍之介「龍平。一つ提案がある」
龍平「なんだ?」
龍之介「逆にしよう」
龍平「逆? どういうことだ?」
龍之介「今日から、お前は龍之介として生きろ。国にはお前の力が必要だ」
龍平「何を言ってるんだ! そんなこと、できるわけないだろ!」
龍之介「大丈夫だって。今までだって、同じようなもんだったろ?」
龍平「……」
龍之介「僕が囮になる。その隙に、お前は城へ向かってくれ。一人なら、兵士たちを振り切れるだろ?」
龍平「けど、どうやって囮になるつもりだ?」
龍之介「なに、簡単さ。俺は龍之介だと言えばいい。なにせ、狙われているのは当主である僕だからね」
龍平「だけど……」
龍之介「時間がない! いくぞ!」
龍之介が走る。
龍之介「こっちだ! こっち逃げたぞ!」
叫びながら走り、やがて兵士に取り囲まれる龍之介」
兵士1「ようやく追い詰めたぞ!」
龍之介「……」
兵士2「で? お前はどっちだ?」
龍之介「……どっち? 僕は……俺は龍之介の方だ!」
兵士1「くそ! じゃあ、影武者はあっちの方か! 追え! あっちを確実に仕留めろ!」
龍之介「え?」
兵士たちが走り去っていく。
龍之介「え? え? え? どういうこと?」
場面転換。
辰之進「父上、どういうことだったのですか?」
龍之介「答えは簡単さ。敵国は知ってたんだよ。優秀なのは龍之介ではなく、影武者の龍平の方だって。稀代の天才って言われるくらいだったからな」
辰之進「それで、父上が敵国の兵に無理されたというわけですね」
龍之介「あれはかなり悔しかったよ。完全にこっちなんか眼中になかった」
辰之進「それで、父上。その後はどうなったのですか?」
龍之介「父さんは城まで辿り着くことができて、九死に一生を得たんだ」
辰之進「龍平の方はどうなったんですか?
龍之介「笑えるよ。足でまといがいなくなったから、龍平は一人で敵兵の包囲網を破って他国へと入っていったそうだ。今思えば、父さんが囮になるって言ったのを受け入れたのは、そうなるって予測してたんだろうな」
辰之進「あの、父上。龍平はどうして、戻って来ないのでしょうか? 父上の影武者だったんですよね?」
龍之介「それはきっと、父さんを巻き込まないためだな」
辰之進「巻き込む?」
龍之介「今や、龍平はかなり名を上げている。龍平を狙う者が多い。となれば、顔がそっくりな父さんは、龍平と間違われて殺されてしまう可能性がある」
辰之進「なるほど……」
龍之介「ふふ。最終的には影武者が本人を超えてしまい、立場が逆になってしまったという話だな。これで、龍平との……伝説の影武者のお話は終わりになる」
終わり。
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