【声劇台本】不思議な館のアリス 運勢の先に

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……あれ? どうしました? 顔色が悪いようですが? 何かあったのですか?」

アリス「……そうですか。ここに来る前に事故に遭いそうになったというわけですね」

アリス「なるほど。今日はついてないことばかり起きるのですね。……もしかしたら、今日のあなたの運勢が悪かったのかもしれません」

アリス「あなたは、占いなどは見たりしますか? 好きな人は毎日、占いのサイトを見たりするみたいですよ」

アリス「あなたはどうですか? もし、占いで今日の結果が悪かったとしたらどうしますか?」

アリス「では、本日は占いが好きな2人の方の物語をお話しましょう」

アリス「そのお二方は、会社の同僚という関係で、特に仲がいいというわけではなかったそうです。仕事上でも最低限のことくらいしか話さないくらいの関係ですね」

アリス「ですが、その二人には共通点が多かったのです。同じ年齢で、誕生日も近く、同じ星座。血液型さえも同じだったそうです」

アリス「ああ、もちろん、二人は互いにそのことは知りません。単に同じ年の同僚くらいの認識ですが、そんな人は職場に大勢いたそうですから、特に気にはしなかったようです」

アリス「まあ、それもそうですよね。わざわざ、同僚の誕生日や血液型なんて聞いたりしませんからね」

アリス「とにかく、二人は共通点が多いのですが、お互いに特に意識はしていないということは覚えておいてください」

アリス「二人とも、学生時代から星座占いが好きだったそうです。毎日、同じサイトの占いを見て、一喜一憂していたそうです」

アリス「ですが、その二人には大きな違いがありました」

アリス「それは占いの結果をポジティブに取るか、ネガティブに取るか、ということです」

アリス「わかりやすいように、ポジティブの方をAさん、ネガティブの方はBさんとします」

アリス「仮にその日の占いの結果が大凶だった場合、Aさんは占いの結果が大凶で嫌な思いをしたから、今日はここで運の悪さを吐き出した。だから大丈夫と思います」

アリス「Bさんの方は、結果の大凶のことを受け止め、何をやるのにも最新の注意を払ったそうです」

アリス「ある日の、占いが大凶の日のことです。Aさんはいつも通りの仕事の様子ですが、Bさんは怯えたように仕事をしていたそうです」

アリス「Bさんは仕事中でも何度も確認をして絶対にミスを犯さないようにしていたそうです。そのおかげで、その日はミスは出なかったそうですよ」

アリス「半面、Aさんの方はいつも通りの仕事ぶりで、小さなミスをしては注意されていたようです」

アリス「……ええ。この話だけ聞くと、Bさんの方が良いように聞こえますね」

アリス「ですが、話には続きがあります。その日の午後のことです。ある新規プロジェクトの会議が行われました。その会議にはAさんもBさんも参加しています」

アリス「その会議の中で、プロジェクトの担当者を決めることになり、立候補を募ることになったんです」

アリス「Bさんは占いが大凶だったことを思い出し、立候補はしませんでした。どうせ、選ばれることがない、と。選ばれないならわざわざ立候補して嫌な思いをすることはないと考えたんですね」

アリス「逆にAさんの方は占いの結果の大凶は、大凶を見たことと、仕事でミスをして注意されたことで、運の悪さは使い切ったと考えて立候補しました」

アリス「え? Aさんが選ばれたのか、ですか?」

アリス「いえ。結局、Aさんも選ばれることはありませんでした」

アリス「……ああ、ちょっと待ってください。この話もBさんの方が良かったように見えますが、さらに話は続きます」

アリス「それから、数週間後のことです。その日の二人の占いの結果は大吉でした。Aさんは喜んで、張り切って職場へと向かいます。逆にBさんは良いことがあった後は、悪いことが起こると考えて、大吉でも、注意深く過ごそうとしました」

アリス「その日の仕事では、Bさんはミスのない仕事を上司に褒められました。褒められたことにBさんは、これは大吉のおかげだと喜んだそうです」

アリス「Aさんの方は、大吉だったから良いことがあるはずだと考え、上司をお昼ご飯に誘ったそうです」

アリス「その時、Aさんは上司がお昼を奢ってくれるのではないか、と期待して誘ったそうですよ。ふふ、たくましい考え方ですよね」

アリス「確かにAさんは、お昼は上司に奢ってもらいました。ですが、食事中の雑談の中で、新規プロジェクトに参加しないかと言われたそうです」

アリス「上司は会議で立候補したことを覚えていて、積極性があると思ったそうです」

アリス「もちろん、Aさんは行きたかった新規プロジェクトに行くことができました」

アリス「どうですか? ここまで聞くと、Aさんの方が良いように思いませんか?」

アリス「補足ですが、この後のお二人ですが、Aさんは部長まで上りつめ、Bさんはチームリーダー止まりだったそうです」

アリス「……やはり、占いはポジティブに受け取った方が良いと言いたいのか、ですか?」

アリス「……ふふ。いいえ。違います」

アリス「私が言いたいのは、この二人の結果に占いはあまり関係ないということです」

アリス「思い出してみてください。Bさんが仕事のミスがなく褒められたのも、Aさんが新規プロジェクトに参加できたのも、どちらも行動した結果によるものです。運ではありません」

アリス「同じ年齢、同じ星座、同じ血液型。占いの結果は毎日が同じだったはずです。ですが、仕事での結果では大きな差がついています」

アリス「私は、未来は運ではなく、その人の行動が作るものだと思っています」

アリス「人生を生きる中で、不安になることも多いでしょう。どうしていいのか? 自分が進もうとした道は合っているのか? そんなとき、何かにすがりたくなる気持ちは痛いほどわかります」

アリス「そんなとき、占いというのは、実に頼もしく見えるでしょう」

アリス「ですが、これはあなたの人生です。あなたが進む道なのです」

アリス「占いは例え、外れたとしても責任を取ってくれるわけではありません」

アリス「自分ではない誰かが決めた道を歩いて後悔するくらいなら、例え、間違っていたとしても、自分で決めた道を進んだ方が、後悔はないのではないのでしょうか」

アリス「別に占いを否定するわけではありません。ただ、あなたの未来は、あなたが行動した先の結果であることを忘れないでいただきたいのです」

アリス「これで、今回のお話は終わりです」

アリス「……え? はい。今回のお話にはオチはありません」

アリス「……そうですね。無理やり、オチをつけるとするなら……」

アリス「私の話も合っているかはわからないということです。もしかすると、占い通りに生きた方が、いい人生を歩めるかもしれませんから」

アリス「占いを信じるのか、私の言葉を信じるのか……」

アリス「当たるも八卦当たらぬも八卦ですね」

アリス「それはあなた次第です」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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