【フリー台本】母親との再会

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■概要
人数:2人
時間:5分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
博人(ひろと)
雫(しずく)

■台本

博人「お母さんはね、雲の上に行ってしまったんだ。だからね、もう、家には帰ってこられない。でもね、悲しむことはないんだ。お母さんはちゃんと雲の上から雫を見ていてくれるんだから」

博人(N)「妻が事故で亡くなった。5歳の娘に理解させるには、まだまだ時間がかかるだろう。俺が娘に伝えた時も、少し驚いた顔をしたが、分かったと言って、頷いただけだった。時々、寂しがるが、泣き叫んだりはしていない」

ザーッと激しい雨が降る音。

雫「お父さん! 見て見て! 雨だよ!」

博人「うわ、ホントだ。すごい勢いだなー」

雫「えへへ。もっと降ればいいね」

博人「え? 雫は雨が好きなのか?」

雫「ううん。雨は好きじゃないよ。濡れちゃうし」

博人「そうだよな……。聞き違いか」

場面転換。

小降りになった雨音。

雫「……」

博人「おーい、雫。ご飯できたぞ」

雫「うん……」

博人「どうかしたのか?」

雫「雨が止んじゃいそうだなって」

博人「いいことじゃないのか?」

雫「明日、晴れるかなぁ?」

博人「どうだろうな。多分、晴れるんじゃないないのか」

雫「えへへへ。やったあ。それじゃ、ご飯食べるー」

博人「おう」

雫「あ、そうだ。お父さん。ドレス、どこ?」

博人「ドレス? ああ、あの赤いのか。うーん。どこにしまったかなぁ。でも、あれ、もう、雫には小さいかもしれないぞ」

雫「いいの。あれ、お母さんが買ってくれたやつだから」

博人「……でも、明日って、なにかあったっけ?」

雫「晴れるかもしれないから」

博人「……?」

場面転換。

博人「おお、雫。晴れたぞ」

雫「ホント?」

雫が走って来る。

雫「うわー。雲がなくなってるー」

博人「今日、どっか遊びに行くか?」

雫「ううん。家にいる」

博人「そっか……」

場面展開。

サーっと雨が降る音。

雫「頑張れー! 頑張れー!」

博人「……何を応援しているんだ?」

雫「雨」

博人「雨?」

雫「もっといっぱい降れー! って」

博人「なんで、もっと降って欲しいんだ? 雨、好きじゃないんだろ?」

雫「うん。だから、いっぱい、いーっぱい降って欲しいの。この前は足りなかったから」

博人「足りなかったのか?」

雫「うん。だって、お母さん、帰って来なかったから」

博人「……え? なんの話だ?」

雫「だって、お母さんは雲の上にいるんだよね?」

博人「あ、ああ……」

雫「だから、雨が降って雲が無くなれば、お母さん、帰ってくるよね?」

博人「……」

博人(N)「涙が流れた。雫は――健気に、まだ母親が帰ってくると信じていたのだ」

博人「雫……。お母さんはね、雲が無くなっても帰っては来れないんだ。……もう、二度と、お母さんには会えないんだ」

雫「……え? 嫌だよ」

博人「ごめん。ごめんな」

雫「お母さん、お母さん……うわーん!」

博人(N)「俺は娘を抱きしめ、ただ、謝ることしかできなかった」

場面転換。

雫「うわー、お父さん、見てー! いい天気」

博人「ホントだ。すごいな。雲一つない、晴天だ」

雫「おかーさーん! 雫、今日も元気だよー!」

博人「……雫」

雫「えへへ。お母さんとは、もう会えないかもしれないけど、雲がないなら、雫やお父さんのこと、見てくれてるよね?」

博人「……そうだな。きっと……いや、絶対、見ててくれているよ」

博人(N)「これからも、雫としっかりと生きていこう。だから、晴れ間から俺達を見守っててほしい」

終わり。

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