【声劇台本】王の散策
- 2021.08.10
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス
■キャスト
オウマ
セリル
他
■台本
爆音が鳴り響く。
王「なっ! 何事だ!?」
兵士「報告します! 魔物が1体、こちらに向かって進行中です」
王「魔物だと? さっさと始末しろ。白竜騎士団を向かわせて構わん」
兵士「それが……」
王「どうした?」
兵士「白竜騎士団は既に全滅です」
王「なんだと!? そんなバカな! たった1体の魔物に、このガルギド王国の最大武力が破れた、だと!」
宰相「王。すぐに避難の準備を。王の血を絶やすことは避けねばなりません」
王「ふむ。そうだな。なんとか時間を稼げ」
宰相「避難と言って、民を城に集めろ。魔物が民を襲っている間に、王の移動の準備を進めろ」
兵士「そ、それが……」
王「何をしている! 早くしろ!」
兵士「魔物は既に城内に侵入しております」
王「なんだと!?」
そのとき、さらなる轟音が鳴り響き、城が崩れ始める。
王「そ、そんな! 城が! 我が城が崩れていく……」
宰相「王! 早く、避難を……」
ガラガラと瓦礫が降り注ぐ。
王「うあああああああああ!」
場面転換。
ナレーション「一週間ほど前」
セリルが杖で地面を叩きながら山道を歩いている。
道が崩れ始める音。
セリル「え? う、うわあああ!」
道が崩れ、セリルが落ち始める。
オウマ「よっと!」
オウマがセリルの手を掴む。
セリル「あれ?」
オウマ「危なかったな」
場面転換。
セリル「ありがとうございました」
オウマ「気にするな。偶然、通りかかっただけだからな」
セリル「あなたは命の恩人です。何かお礼が出来ればいいのですが……」
ガサガサとカバンを漁るセリル。
オウマ「いや、いいって。それより、俺はオウマ。お前は?」
セリル「セリルといいます」
オウマ「セリルは目が見えないんだろ? そんなお前が、どうしてこんな足場の悪い山道を一人で歩いているんだ? どう考えても自殺行為だろ」
セリル「それが……僕が住んでいた村が侵略されてしまい……。隣の国へ向かおうと思いまして」
オウマ「……そっか。親はその侵略で?」
セリル「いえ、両親は僕が小さい頃に事故で亡くなりました」
オウマ「いや、今もセリルは十分小さいぞ」
セリル「は、はは……。そう言われてしまうと……」
オウマ「隣の国に行きたいんだったな? よし、じゃあ、俺が送ってってやるよ」
セリル「そ、そんな! 悪いですよ。命を救っていただいただけで、返しきれないほどの恩をいただきました」
オウマ「そんなに堅苦しく考えるなよ。俺も一人で旅をするのも飽きてきたからさ、話し相手が欲しかったんだよ」
セリル「で、では、お言葉に甘えまして……」
オウマ「よし、じゃあ、決まりだな。行こうぜ」
セリル「はい」
場面転換。
木のまな板の上で、食材を切るセリル。
オウマ「へー。器用だな」
セリル「小さい頃からずっとやってたので」
たき火のパチパチという炎の音。
オウマ「火もスムーズに起こせるし、テントを立てる早さも舌を巻いたぞ」
セリル「はは……なんか、照れますね」
そのとき、魔物の低い唸り声が聞こえてくる。
オウマ「なんだ?」
セリル「この声は……ダークウルフですね」
オウマ「声だけでわかるのか? 俺でも無理なのに、すげーな」
セリル「ははは……。目が見えない分、耳が良いみたいで」
草を搔き分けて、ダークウルフが現れる。
オウマ「セリル。下がってろ。俺が対処する」
セリル「待ってください!」
セリルがダークウルフに向かって歩く。
オウマ「おい、危ないぞ!」
セリル「大丈夫です。この声は警戒はしてますが、敵意はそこまで強くありません。それに……」
ダークウルフに触れるセリル」
セリル「やっぱり。怪我してるみたいです」
場面転換。
セリル「これでよし、と」
オウマ「大したもんだ、応急処置も完璧だな。……けど、その……いいのか?」
セリル「なにがですか?」
オウマ「魔物は憎むべき存在だろ?」
セリル「え? どうしてですか?」
オウマ「いや、どうしてって……。その、お前の村は魔物に……」
セリル「ああ、違いますよ。僕の村は魔物じゃなくて、兵士……人によって滅ぼされました。近くの町を侵略するための拠点にするという理由で」
オウマ「そ、そうなのか? いや、けど、そうだったとしても、人間からしたら魔物は敵だろ?」
セリル「敵? そうでしょうか? 別に僕は魔物に何かされたわけじゃありませんよ」
オウマ「……お前が何かされたわけじゃないにしても……人間と魔物はずっと戦ってきた。人間と魔物は分かり合えないものだろ」
セリル「えっと……。そういう話ですと、人間も、人間同士で戦ってきましたよ。現に僕の村もそれに巻き込まれましたから」
オウマ「うっ! それはそうだけど」
セリル「それに、人間と魔物が分かり合えないとは思えません。だって……」
ダークウルフがクーンと鳴いて、セリルの手を舐める。
セリル「ほら、少なくても僕とこのダークウルフは分かり合えましたよ」
オウマ「そっか……そうだな」
場面転換。
セリル「送っていただいて、ありがとうございました」
オウマ「数日だったけど、楽しかったぜ」
セリル「はい。僕もです」
オウマ「なあ、セリル。お前の村に侵略したっていうのはどこの兵士だ?」
セリル「え? えっと……ガルギド王国って言ってました」
オウマ「ふーん……」
セリル「それがなにか?」
オウマ「いや、なんでもない。じゃあ、セリル、元気でな」
セリル「はい! オウマさんも」
場面転換。
バンとドアを開けて、オウマが入ってくる。
そして、ドカッと玉座に座る。
配下「王! 一人で城から出るのはお止めくださいと、何度も……」
オウマ「一人で行かないと散歩にならないだろ」
配下「……まったく。王に何かあったらどうするのですか?」
オウマ「俺に? 何かあるなんてこと、あるか?」
配下「……はあ。そう言われると、返す言葉がないのですが。……それはそうと、国を一つ滅ぼしたようですね」
オウマ「ああ。ちょっと目障りだったからな」
配下「では、本格的に人間に対して、侵略開始というわけですね? 長年の争いに終止符を打ちましょう。さっそく、準備を……」
オウマ「いや、必要ない」
配下「は? しかし……」
オウマ「それどころか、分かり合える日も近いかもな」
配下「は、はあ……」
場面転換。
スズメが鳴く声。
オウマ「んー! いい朝だ。さてと、今度はどこに行こうかな」
終わり。
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