【声劇台本】ラストキー

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、ファンタジー、シリアス

■キャスト
カイル
ギル
ジャン
その他

■台本

子供1「カイル先生、さようならー」

カイル「ああ。気を付けて帰るんだよ」

子供たちが帰っていく。

カイル「さてと。戸締りをして、儂も帰るとするか」

廊下を歩くカイル。

そして、ピタリと足を止める。

カイル「どうしたんだ、ジャン。もう、みんな帰ったぞ」

ジャン「あ、先生……。今日の罠抜けの課題、僕だけできなかったから、その練習をしてたんです」

カイル「ん? あれは先生の方のミスだ。あのトラップはジャンにはまだ難しいさ」

ジャン「でも、他のみんなは出来てたし。……それに、僕、不器用だから人より多く練習しないと……」

カイル「ははは。そうか、そうか。ジャンはいつか、大物になるかもな」

ジャン「ううん。そんなことないよ。僕は学校の中で一番不器用だもん。卒業だって危なって言われてるんだ。……やっぱり、才能がない僕がシーフになろうなんて思ったのが間違いだったんだ」

カイル「なあ、じゃん。ギルという名のシーフを知っているかい?」

ジャン「ギル? もちろん! 世界で一番有名な伝説のシーフだもん。どんな宝箱だって開けられるし、トラップだって見破れない物はないって言われてるもんね」

カイル「そんなギルも、ジャンと同じ、不器用で悩んでいたんだ」

ジャン「ええ? うそー? そんなわけないよ」

カイル「では、少しだけ昔話をしてあげよう」

場面転換。

モンスター「グオオオオオオ!」

男「おい! ギル! なにやってんだ、早く開けろって!」

ギル「ごめん。この錠の形状、見たことない奴で……」

男「泣き言はいいから、さっさとしろ!」

モンスター「グオオオオ!」

男「くそ! カイル! もう、宝箱は諦めて撤退しようぜ! もう、持ちこたえられねえ」

カイル「いや、ここは絶対死守する。ギル、お前は開錠に集中しろ」

ギル「う、うん……」

場面転換。

男「……おい、カイル。ギルのことなんだけどよぉ、あいつ、パーティから外そうぜ。あんなのにシーフを任せてたら、全滅するぜ」

カイル「いや、あいつは外さないよ」

男「なんでだよ! あんな不器用なシーフ、見たことねえよ! あいつにこだわる理由を言え!」

カイル「あいつはいつか、トップクラスのシーフになる」

男「……呆れたな。そこまで見る目がないとはな。まあ、いい。じゃあ、俺が抜けさせてもらう。今まで世話になったな」

カイル「……ああ」

場面転換。

カイル「ううー、寒、寒、夜は冷えるな」

夜、帰るが外を歩いている。

が、ピタリと立ち止まる。

カイル「……ギル、なにやってるんだ?」

ギル「ああ、カイル。今日の宝箱の錠をできるだけ再現してるんだ」

カイル「なんでそんなことをしてるんだ?」

ギル「またあの形状の錠が出て来た時に、早く開けられるように、練習するためだよ」

カイル「けど、今日は開けられただろ? 今日と同じ手順を辿ればいいんじゃないか?」

ギル「ううん。今日は時間かかっちゃったからね。もっと早いやり方がないかも探ってるんだ。僕は不器用で要領も悪いから、きっと、もっと早く開ける方法があるはずなんだ」

カイル「なあ、ギル。これから先、今日のような錠があるとは限らないだろ? あるかわからない物のために練習するのか?」

ギル「ないかもしれないし、あるかもしれない。あったときのための練習だよ。なかったときは、それだけの話さ」

カイル「……別に外でやる必要はないんじゃないか? 今日は冷える。こんな寒い中じゃ、手も思い通りに動かないだろ」

ギル「だからだよ。もしかしたら、次はこの寒さの中で開錠作業をすることになるかもしれないからね」

カイル「おいおい。そんなことまで想定するのか? キリがないだろ」

ギル「でも、思いつくことはやっておきたいんだ。何回も言うけど、僕は不器用で要領が悪い。できるだけ、色々な条件下での練習はしておきたいんだ」

カイル「ギル……」

ギル「カイルが、こんな僕を信じて、ずっとパーティーに入れてくれてるのが嬉しいんだ。だから、僕はできるだけ、その期待に応えたい」

カイル「……ほどほどにしておけよ。寝不足だと、せっかく練習しても思ったように体が動かないぞ」

ギル「あ、その想定もあったか」

カイル「……寝ろ!」

ギル「……はーい」

場面転換。

ジャン「……そんなに不器用だったの?」

カイル「ああ。出会った頃のあいつは、新人のシーフが5分で開けられる錠に10分かかってたな」

ジャン「ギルはどうやって器用になったの?」

カイル「いや、あいつはずっと不器用だった。不器用だったから、とことん、体に覚え込ませたのさ。何度も何度も繰り返してな。それで、ようやく一人前くらいの早さだ」

ジャン「でも、そんなんで、どうして伝説と言われるくらいになったの?」

カイル「諦めなかったからだ。普通なら開かないと諦める錠でも、あいつは何日も、何十日もかけてでも開錠した。そして、その方法を体に叩きこんでいった。10年が経った頃、あいつが見たことのない錠の形状は無いくらいになった」

ジャン「へー」

カイル「そして、あいつはとんでもない物を作った」

ジャン「とんでもない物?」

カイル「どんな錠でも開けることができる、鍵さ」

ジャン「ええええ! そんな鍵があるの?」

カイル「ああ。あいつは、自分みたいな不器用な人間でも、苦労しないようにって作ったんだ」

ジャン「それって、どこにあるの?」

カイル「……儂が、ギルでも開けられない宝箱の中に封印した」

ジャン「ええ! どうして!?」

カイル「そんな鍵があったら、面白くないだろ? 錠は自分の力で開けないとな」

ジャン「……そっか。うん、そうだね。じゃあ、先生、僕は大シーフ、ギルを超えて、その宝箱を開けて、その鍵を手に入れるよ!」

カイル「ふふふ。期待しているぞ」

終わり。

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