【声劇台本】白いキャンパス
- 2021.12.06
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
蒼(あお)
碧(みどり)
■台本
キャンパスに筆で色を塗る音。
蒼「……」
ガチャリとドアが開く。
碧「蒼くん、おはよー。お、今日もお絵描き、頑張ってるね」
蒼「あ……えっと、碧さん、おはようございます」
碧「あれえ? 今日は碧さん、なんだ? なんか余所余所しいなあ。いつも通り、碧、って呼んでよ」
蒼「え? 僕、呼び捨てで読んでたんですか? そ、そうなんだ……」
碧「うっそー」
蒼「もう、からかわないでください」
碧「……呼び捨ては嘘だけど、敬語は使ってなかったよ」
蒼「え? あ……そうですか……いや、そうか」
碧「……どのくらい残ってるの?」
蒼「……もう、ほとんど消えてる。残ってるのは顔と……名前くらい。それも、さっき、顔を見るまでは忘れてたくらい」
碧「そっかー……」
蒼「ねえ、碧さん」
碧「なに?」
蒼「もう、ここには来ないで欲しいんだ」
碧「どうして?」
蒼「明日は、もう覚えてられる自信がない。次、忘れたら、きっと思い出せないと思うから」
碧「いいよ。別に。忘れられてても」
蒼「……僕が嫌なんだ。碧さんのことを忘れているという事実を突きつけられるのが」
碧「蒼くん……」
蒼「碧さんは素敵な人だ。会った瞬間、そう感じた。3年前の僕は、きっと碧さんのことが好き……いや、愛してたと思う」
碧「もう……。この3年間、言ってくれなかったのに、なんでこのタイミングで言うかな」
蒼「……そっか。僕はこんなことさえも、言うのを怖がってたのか」
碧「でも、大丈夫だよ。ちゃんと好きでいてくれたこと、愛してくれてたことは感じてたよ」
蒼「……でも、もう碧さんを好きでいられない。知らない人になるから……」
碧「……蒼くん」
蒼「今日で最後にしてほしい。そして、できれば碧さんも、僕のことは忘れて欲しい」
碧「……わかった。じゃあさ、今日は、一緒に出掛けない? 最後の思い出に、さ」
蒼「ごめん。今日中にこの絵を完成させたいんだ」
碧「……蒼くん、最近、ずっと絵を描いてばかりだね」
蒼「……絵はさ、最初は真っ白なキャンパスなんだ。それに、自由に色を重ねていく。気持ちと想いをのせて……。これは、そう、思い出を描いているんだと思う」
碧「思い出を?」
蒼「うん。この絵には、碧さんへの思いが込められている。その思いも今日で消えてしまう。だから、どうしても、この絵を今日中に完成させたいんだ」
碧「……わかった」
蒼「この絵が完成したら……碧さん、貰ってくれるかな?」
碧「え? いいの?」
蒼「うん。碧さんに貰って欲しい」
碧「ありがとう」
キャンパスに筆を走らせる蒼。
蒼(N)「……キャンパスに色をのせて、完成に近づくたびに、僕の記憶というキャンパスは真っ白に塗りつぶされていく。碧さんと過ごした3年の記憶と共に……」
筆がピタリと止まる。
蒼「……できた」
碧「お疲れ様、蒼くん」
蒼「え? あ……ありがとうございます」
碧「……」
蒼「あ、あの。この絵、なんですけど……あなたに貰って欲しくて」
碧「う、うう……」
蒼「え? あ、ごめんなさい。……迷惑でしたか?」
碧「う、ううん……。違うの。ありがとう。……さようなら、蒼くん」
場面転換。
目覚まし時計が鳴る音。
蒼「う、うーん……」
ピッと目覚ましを切る音。
蒼(N)「……なんだろ。朝から凄く、体が重い……というより、心に何か大きな穴が開いたような、そんな感覚」
蒼「顔でも洗うか」
場面転換。
ジャーと蛇口から水が流れる音。
蒼(N)「……涙の跡。泣きすぎて目が腫れてる。そうか。また、誰かを忘れたんだ……。大切な……誰かを……」
場面転換。
蒼「さてと、何しようかな……。絵でも描こうかな……」
ピンポーンとインターフォンが鳴る。
蒼「……?」
ガチャリとドアを開ける音。
蒼「はい?」
碧「すいません。画材の商材なんですけど、今、お時間ありますか?」
蒼「すいません。興味ないです」
碧「今なら、話を聞いていただいたら、美術館の無料チケットをプレゼントしてるんですけど」
蒼「……話を聞くだけですよ」
碧「ありがとうございます。それじゃ、お邪魔しまーす」
蒼「え? あ、誰も部屋に入れるって言ってない……」
トトトと中に入る碧。
碧「ごめんなさい。喉が渇いちゃって。紅茶、いただけるかしら?」
蒼「……」
ガサガサと戸棚の中を漁る蒼。
蒼「僕、紅茶は好きじゃないんで、家にないと思う……あ、あった……。なんで?」
場面転換。
碧「へー。人の記憶が3年で消えちゃうんだ? 変わった病気ね」
蒼「全く原因がわかってないらしいです。そもそも、順番に物事を忘れていくんじゃなくて、その人に関わることをだけが、3年で消えていくって言うのが、医者の頭を悩ませているらしいです」
碧「じゃあ、例えば、私と一緒に見た映画も3年後には忘れてるから、3年後にはまた見て楽しめるってわけ?」
蒼「あはははは。なかなか変わった考え方をしますね。そんな風に考える人、初めてですよ」
碧「……蒼くんって、結構、ゲームするタイプだよね?」
蒼「え? あ、はい。まあ、人並みには」
碧「恋愛シミュレーションってあるでしょ?」
蒼「はい」
碧「あれってさ、一度クリアした後、もう一回最初からやった場合、相手の好きなことぜーんぶ、わかってるから有利なのよね。いわゆる、強くてニューゲームよ」
蒼「は、はあ……?」
碧「今度は最速でオトして見せるわ」
蒼「何の話ですか?」
碧「ううん、何でもない。じゃあ、また明日来るね」
蒼「え? あ、はい……」
碧「それじゃ、またね」
ドアを開けて出ていく碧。
蒼「……変な人だなぁ。……でも、なんか、素敵な人。……そうだ、絵を描こう。今なら、きっと素敵な絵が描けそうだ」
終わり。
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