【声劇台本】白いキャンパス

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■概要
人数:2人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
蒼(あお)
碧(みどり)

■台本

キャンパスに筆で色を塗る音。

蒼「……」

ガチャリとドアが開く。

碧「蒼くん、おはよー。お、今日もお絵描き、頑張ってるね」

蒼「あ……えっと、碧さん、おはようございます」

碧「あれえ? 今日は碧さん、なんだ? なんか余所余所しいなあ。いつも通り、碧、って呼んでよ」

蒼「え? 僕、呼び捨てで読んでたんですか? そ、そうなんだ……」

碧「うっそー」

蒼「もう、からかわないでください」

碧「……呼び捨ては嘘だけど、敬語は使ってなかったよ」

蒼「え? あ……そうですか……いや、そうか」

碧「……どのくらい残ってるの?」

蒼「……もう、ほとんど消えてる。残ってるのは顔と……名前くらい。それも、さっき、顔を見るまでは忘れてたくらい」

碧「そっかー……」

蒼「ねえ、碧さん」

碧「なに?」

蒼「もう、ここには来ないで欲しいんだ」

碧「どうして?」

蒼「明日は、もう覚えてられる自信がない。次、忘れたら、きっと思い出せないと思うから」

碧「いいよ。別に。忘れられてても」

蒼「……僕が嫌なんだ。碧さんのことを忘れているという事実を突きつけられるのが」

碧「蒼くん……」

蒼「碧さんは素敵な人だ。会った瞬間、そう感じた。3年前の僕は、きっと碧さんのことが好き……いや、愛してたと思う」

碧「もう……。この3年間、言ってくれなかったのに、なんでこのタイミングで言うかな」

蒼「……そっか。僕はこんなことさえも、言うのを怖がってたのか」

碧「でも、大丈夫だよ。ちゃんと好きでいてくれたこと、愛してくれてたことは感じてたよ」

蒼「……でも、もう碧さんを好きでいられない。知らない人になるから……」

碧「……蒼くん」

蒼「今日で最後にしてほしい。そして、できれば碧さんも、僕のことは忘れて欲しい」

碧「……わかった。じゃあさ、今日は、一緒に出掛けない? 最後の思い出に、さ」

蒼「ごめん。今日中にこの絵を完成させたいんだ」

碧「……蒼くん、最近、ずっと絵を描いてばかりだね」

蒼「……絵はさ、最初は真っ白なキャンパスなんだ。それに、自由に色を重ねていく。気持ちと想いをのせて……。これは、そう、思い出を描いているんだと思う」

碧「思い出を?」

蒼「うん。この絵には、碧さんへの思いが込められている。その思いも今日で消えてしまう。だから、どうしても、この絵を今日中に完成させたいんだ」

碧「……わかった」

蒼「この絵が完成したら……碧さん、貰ってくれるかな?」

碧「え? いいの?」

蒼「うん。碧さんに貰って欲しい」

碧「ありがとう」

キャンパスに筆を走らせる蒼。

蒼(N)「……キャンパスに色をのせて、完成に近づくたびに、僕の記憶というキャンパスは真っ白に塗りつぶされていく。碧さんと過ごした3年の記憶と共に……」

筆がピタリと止まる。

蒼「……できた」

碧「お疲れ様、蒼くん」

蒼「え? あ……ありがとうございます」

碧「……」

蒼「あ、あの。この絵、なんですけど……あなたに貰って欲しくて」

碧「う、うう……」

蒼「え? あ、ごめんなさい。……迷惑でしたか?」

碧「う、ううん……。違うの。ありがとう。……さようなら、蒼くん」

場面転換。

目覚まし時計が鳴る音。

蒼「う、うーん……」

ピッと目覚ましを切る音。

蒼(N)「……なんだろ。朝から凄く、体が重い……というより、心に何か大きな穴が開いたような、そんな感覚」

蒼「顔でも洗うか」

場面転換。

ジャーと蛇口から水が流れる音。

蒼(N)「……涙の跡。泣きすぎて目が腫れてる。そうか。また、誰かを忘れたんだ……。大切な……誰かを……」

場面転換。

蒼「さてと、何しようかな……。絵でも描こうかな……」

ピンポーンとインターフォンが鳴る。

蒼「……?」

ガチャリとドアを開ける音。

蒼「はい?」

碧「すいません。画材の商材なんですけど、今、お時間ありますか?」

蒼「すいません。興味ないです」

碧「今なら、話を聞いていただいたら、美術館の無料チケットをプレゼントしてるんですけど」

蒼「……話を聞くだけですよ」

碧「ありがとうございます。それじゃ、お邪魔しまーす」

蒼「え? あ、誰も部屋に入れるって言ってない……」

トトトと中に入る碧。

碧「ごめんなさい。喉が渇いちゃって。紅茶、いただけるかしら?」

蒼「……」

ガサガサと戸棚の中を漁る蒼。

蒼「僕、紅茶は好きじゃないんで、家にないと思う……あ、あった……。なんで?」

場面転換。

碧「へー。人の記憶が3年で消えちゃうんだ? 変わった病気ね」

蒼「全く原因がわかってないらしいです。そもそも、順番に物事を忘れていくんじゃなくて、その人に関わることをだけが、3年で消えていくって言うのが、医者の頭を悩ませているらしいです」

碧「じゃあ、例えば、私と一緒に見た映画も3年後には忘れてるから、3年後にはまた見て楽しめるってわけ?」

蒼「あはははは。なかなか変わった考え方をしますね。そんな風に考える人、初めてですよ」

碧「……蒼くんって、結構、ゲームするタイプだよね?」

蒼「え? あ、はい。まあ、人並みには」

碧「恋愛シミュレーションってあるでしょ?」

蒼「はい」

碧「あれってさ、一度クリアした後、もう一回最初からやった場合、相手の好きなことぜーんぶ、わかってるから有利なのよね。いわゆる、強くてニューゲームよ」

蒼「は、はあ……?」

碧「今度は最速でオトして見せるわ」

蒼「何の話ですか?」

碧「ううん、何でもない。じゃあ、また明日来るね」

蒼「え? あ、はい……」

碧「それじゃ、またね」

ドアを開けて出ていく碧。

蒼「……変な人だなぁ。……でも、なんか、素敵な人。……そうだ、絵を描こう。今なら、きっと素敵な絵が描けそうだ」

終わり。

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