【声劇台本】恋の登坂
- 2021.12.30
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、恋愛
■キャスト
流士(りゅうじ)
実乃梨(みのり)
雅史(まさし)
香田 由紀(こうだ ゆき)
■台本
登坂を、自転車を漕ぐ流士。
流士「はあ、はあ、はあ……」
実乃梨「大丈夫、流士? 降りようか?」
流士「いや、実乃梨はそのまま乗っててくれ。意地でも、この坂を上りきる」
実乃梨「もう……。なんで、男って、変なところでプライド高いよね」
流士「男にとって、プライドは自信のようなものだからな」
実乃梨「自信ね……。あれ? そういえば、いつもの自転車と違わなくない?」
流士「ああ。電動自転車は貸してるんだ」
実乃梨「貸してる? 誰に? 雅史くん?」
流士「いや、幸田さん」
実乃梨「え? 由紀ちゃん? 流士と由紀ちゃんって知り合いだっけ?」
流士「いや……。昨日まで話したことなかったな」
実乃梨「……じゃあ、どういうこと?」
流士「ああ、それはな……」
場面転換。
流士「なあ、雅史。いい加減に諦めたらどうだ?」
雅史「そりゃ、俺には釣り合わないっていうのはわかってるよ! でも……好きなんだ。どうしても諦めきれない……」
流士「あ、いやいや。諦めろって言ったのは、香田さんのことじゃなくて、恋の上り坂の方だよ」
雅史「……」
流士「彼女を後ろにのせて、坂を上り切ったら、二人は付き合えるって都市伝説……信じてるんだろ?」
雅史「悪いかよ……」
流士「けど、あの坂はヤバいって。お前、何回か、失敗してるんだろ?」
雅史「しっかり特訓してきた。今度こそいける!」
流士「もし、失敗したらどうするんだ? もうすぐ卒業だ。別の大学になるだろうし、告白できるチャンスは少ないぞ」
雅史「……でも、俺、自信ないんだ。香田さんに相応しいかどうか……。だから、自信が欲しいんだ。それがくだらない都市伝説だったとしても」
流士「失敗したら、告白するチャンスが減るんだぞ」
雅史「……わかってる。だから、絶対に成功させる」
流士「まったく。知らないぞ」
場面転換。
廊下を歩く流士。
由紀「あ、あの……」
流士「え? あ、幸田さん。どうしたの?」
由紀「急にごめんなさい。お願いがあるんですけど……」
場面転換。
学校のチャイム。
由紀が走って来る。
由紀「雅史くん、お待たせ」
雅史「ううん。俺も丁度今、来たところだから」
歩き出す二人。
由紀「そういえば、今日は、特訓……だったっけ?」
雅史「ああ、うん。卒業式の日にさ、二人乗りで坂を自転車で、誰が一番早く登れるかっていう勝負があるんだ。それの特訓。……ごめんね。変なことに付き合ってもらっちゃって」
由紀「ううん。いいよ。でも、変な勝負だね」
雅史「ははは……。男って、そういうくだらない勝負をするもんなんだよ」
ピタリと立ち止まる雅史と由紀。
雅史「……あれ? 俺の自転車……」
由紀「パンクしてるね」
雅史「うわ……。どうしよう……」
由紀「ねえ、私の自転車使う?」
雅史「え? 香田さんって、自転車通学だったっけ?」
由紀「あ、ううん。違うんだけど、今日はたまたま自転車で来たの」
雅史「そうなんだ? じゃあ、その……借りてもいい?」
由紀「うん。いいよ」
場面転換。
自転車で坂を上る雅史。
雅史「はあ、はあ、はあ……」
由紀「頑張って、雅史くん」
雅史「く……。も、もう……」
由紀「諦めないで!」
ガバッと後ろから抱き着く由紀。
そして、カチリとスイッチが押される音。
由紀「大丈夫。雅史くんなら、できるよ。自信もって」
雅史「う、うん。うおおおお!」
由紀「もう少し! もう少しだよ!」
雅史「おおおおおおお!」
自転車を漕ぐ雅史。
由紀「やった! やったよ、雅史くん!」
雅史「はあ、はあ、はあ、はあ……」
由紀「雅史くん、頑張ったね」
雅史「はあ、はあ、はあ、はあ……。あ、あの……。香田さん」
由紀「は、はい……」
雅史「す、好き……です。付き合ってください」
由紀「……はい!」
場面転換。
自転車を漕ぐ流士。
流士「はあ、はあ、はあ……。ってなわけ」
実乃梨「ふーん。じゃあ、流士の自転車を由紀が借りて、途中で電動のスイッチを入れたってことか」
流士「そういうこと……。学校で電動のを持ってるの、俺くらい……だからな」
実乃梨「じゃあ、この自転車は? 誰の?」
流士「雅史の。……パンクじゃなくて、空気抜いただけだから……」
実乃梨「結局……由紀は、雅史くんのことが好きだったってことだね。それで、告白を待ってたってわけか」
流士「ああ。香田さんも、今回が最後のチャンスだと思ったから……俺に自転車を借りたってわけ……」
実乃梨「……ったく、まどろっこしいわね」
流士「ま、そんなまどろっこしいことも、恋愛の醍醐味って奴だろ?」
実乃梨「まあ……ね。女って、頑張ってる男の子を見ると胸がキュンとなるのよね。自分のことで頑張ってくれるなら、尚更ね」
流士「そうか……」
実乃梨「そう考えると、その、恋の登坂っていうのも、なんとなく気持ち、わかるかな。自分をのせて、登り切ったら、思わずOKしちゃいそう」
流士「……おおおお!」
自転車を思い切り漕ぐ、流士。
実乃梨「おお、ここで加速するんだ? すごいね、頑張れ、流士!」
流士「おおおおー!」
自転車を漕ぐ流士。
実乃梨「やったー! 登り切った! すごいね、流士」
流士「はあ、はあ、はあ、はあ」
実乃梨「お疲れ様、流士。少し、カッコよかったよ」
流士「なあ、実乃梨」
実乃梨「なに?」
流士「俺と付き合ってくれないか?」
実乃梨「へ? ……あ、この坂って……」
流士「……」
実乃梨「もう、ズルいなぁ。これじゃ、OKするしかないじゃん」
流士「はは。……都市伝説も案外、捨てたもんじゃないな」
終わり。
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