【声劇台本】不思議な館のアリス 経験値

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「そろそろいらっしゃる頃だと思っていました」

アリス「おや? 今日は随分とお疲れのようですね」

アリス「さしずめ、上司に残業を押し付けられた挙句に、部下のストレス発散を兼ねて飲み会があった……というところでしょうか」

アリス「ふふふ。どうしてわかったのか、という顔ですね」

アリス「もちろんこれにはタネがある……わけではないです」

アリス「それなら、どうしてわかったのか、ですか?」

アリス「そうですね。簡単に言えば経験則です」

アリス「あなたとの付き合いも長いですかね」

アリス「あなたの仕事場での状況などは大体把握できてますよ」

アリス「え? 話してない?」

アリス「いけませんよ。今のような会話でも、あなたに関する情報はたくさんあるんですから」

アリス「……いえいえ、直接話さなくてもわかりますよ」

アリス「例えば、私が今、言った残業が多くて飲み会があったことに関して、確かにあなたは肯定はしませんでしたが、リアクションで合っていることを示しています。つまり、残業があって、飲み会があったことがわかるわけです」

アリス「逆に、違っていた場合は疲れている理由をお聞きするので、やはり、あなたの情報を得られるというわけですね」

アリス「安心してください。別に悪用しようというわけではありません。職業柄、どうしてもこのような形で会話を誘導する癖がついてしまっているのです。いわゆる職業病というものですね」

アリス「こうして考えると、経験というのも単純に積めばいいというわけでもなさそうですね」

アリス「少し話がそれますが、よく、苦労は若いうちに買ってでもしろ、と言いますよね?」

アリス「私は、あれは、苦労ではなく、経験のことを言っているのではないかと思うんです」

アリス「だって、身にも付かない苦労なんて、心身共にダメージを受けて終わりじゃないですか。そんなの意味ないと思いませんか?」

アリス「苦労の部分を経験に置き換えた方が、私的にはしっくりくるんですよね」

アリス「経験というのはその人を形成する要素の一つです。仕事に関して見れは、それはかなりの重要度じゃないですかね」

アリス「買ってでも経験を積んでおけば、後に倍になって返ってくることもあると思いますよ」

アリス「恐らく、経験をして、身に着くにはかなりの苦労が必要なのだと思います。だから、苦労は買ってでもしろ、というふうになったんじゃないですかね」

アリス「ただ、先ほどもいいましたが、経験を積むことが必ずしもいいとも限らないというのが私の意見です」

アリス「……ふふ。経験はあるに越したことはないという顔ですね」

アリス「確かに、経験がものを言うことが大半でしょう」

アリス「ですが、こういう話があります」

アリス「ある格闘技の選手がいました。その選手は生まれつき体格に恵まれ、そのため、子供の頃から喧嘩でも負けなしでした」

アリス「その腕っぷしを買われ、格闘技界にスカウトされたのです」

アリス「その選手は今まで格闘技を習っていませんでした。だから、試合でも喧嘩のようなスタイルで臨んだわけです」

アリス「多くの人は、この選手のデビュー戦は負けるだろうと思っていました。……いや、負けさせるつもりでした」

アリス「喧嘩上がりでは、格闘技の世界では通じないと知らしめ、この選手に格闘技の技術を学んでもらおうと言う意図ですね」

アリス「そのため、対戦相手は技巧派と呼ばれた選手があてがわれました」

アリス「ですが、試合の結果は多くの人の予想とは真逆になりました」

アリス「そうです。その選手の方が勝ってしまったのです」

アリス「ただ、そのことで、その選手は周りから大きな期待を向けられることになりました」

アリス「格闘技の技術が無い状態でも、これだけ強いのなら、技術を手に入れたら、最強なのではないか、と」

アリス「ですが、その結果も、裏切られることとなりました」

アリス「……いえ、もちろん、その選手は格闘技の技術を教わり、吸収していきました。決して、驕ることはなく、です」

アリス「ですが、技術を得れば得るほど、試合には勝てなくなっていったのです」

アリス「それはなぜでしょう?」

アリス「私が思うに、その選手の強さは喧嘩スタイルだったからではないでしょうか」

アリス「つまり、喧嘩に関しては他の選手よりもより多く経験してきたため、喧嘩としてなら誰にも負けなかったのが、格闘技という技術を学んでしまったがために、格闘技という中の試合では、他の選手と比べて経験がないということです」

アリス「喧嘩としては強かったが、格闘技としては弱かった、ということでしょうか」

アリス「ですから、私は無条件で、単に経験を積めばいいとは思わないのです」

アリス「その経験が、返ってマイナスになる可能性もあることを忘れてほしくありません」

アリス「ですので、経験は買ってでもするべきだとは思いますが、買う際はよく吟味する必要がある、ということですね」

アリス「苦労は若いうちに買ってでもしろ、と言われて、何も考えず苦労を引き受けてはいけません」

アリス「身にも付かない、苦労や経験は断った方が自分のためになります」

アリス「それともう一つ」

アリス「基本やセオリーは重要といいますよね?」

アリス「私もそれは同意します」

アリス「基本やセオリーを知ることは重要だと思います。ですが、基本やセオリーだからと言って、それが必ずしも正解だ、ということにもならないので注意が必要です」

アリス「先ほどの格闘の選手の例でもありましたように、試合で勝つために、必ずしも格闘技の基本が必要、というわけではないこともあります」

アリス「短距離走と長距離走の練習が違うように、それぞれに合った経験を積む必要があるということです」

アリス「なんでも他人の言う通りにするのではなく、自分に合っている経験を選んで行ってほしいですね」

アリス「……申し訳ありません。今回も不思議な話とは違った方向になってしまいましたね」

アリス「それでは、またのお越しをお待ちしております」

終わり。

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