【声劇台本】ルドベキア タイガーアイ

■概要
主要人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
柴田 孝文(27)
仙田 加奈子(27) 孝文の恋人
飼育員(45)

・こちらの作品はボイスドラマになっております。
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■台本

家族連れがおおい、ひまわりフェスタ会場。
柴田孝文(27)が畦道を歩く。
前にいる仙田加奈子(27)が手を振る。
加奈子「孝文くん、早く! こっちこっち!」

孝文(N)「久しぶりの大型連休。せっかくだから、どこか遠出でもしようと言うと、加奈子は意外なことに佐賀市の兵庫町を選んだ。どうしても、ひょうたん島公園のひまわり畑で開催される、ひまわりフェスタに来たかったらしい」

歩き続ける、孝文と加奈子。
加奈子「懐かしい。昔と全然変わってないね」
孝文「……前にも来たこと、あったの?」
加奈子「……やっぱり、覚えてないんだ」
孝文「え?」
加奈子「ううん。なんでもない。言ってなかったっけ? 私、出身はこの町なんだよ」
孝文「そうなんだ? だからか。佐賀市の兵庫町なんて、マニアックな場所をチョイスするから、おかしいと思ったんだ」
加奈子「……どうせ、マニアックな町の生まれですよーだ」
孝文「あ、ごめん。そういうことじゃなくて」
加奈子「あははは。冗談だよ。孝文くんはどこの生まれだっけ?」
孝文「生まれは福岡だけど、親の転勤が多くてさ、これといった故郷ってないかな」
加奈子「それって、辛くなかった?」
孝文「かえって、助かったかな」
加奈子「助かった?」
孝文「ほら、俺ってさ、目のことがあるから、小さいころから、イジメられたり、壁を作られたりしてたんだよ。でも辛いなって思う頃には転校するから、楽だったってわけ」
加奈子「……そうなんだ」

孝文(N)「先天性遺伝子疾患、虹彩異色症 。通称、オッドアイ。日本では一万人に一人の確立で現れるらしい。生まれつき、左右の目の色が違うというもの、で、別段、他に変わったところはない」

孝文「最初はさ、なんでイジメられるのか分からなかったし、オッドアイだって知った後も、それでイジメられる理由が理解できなかったな」
加奈子「他の人と同じじゃないといけない。日本だと、まだまだそういう考えをする人が多いからね」
孝文「子供だと特に、そういうとこ、敏感だからなあ」
加奈子「だから、いつも教室で一人だったんだ?」
孝文「距離を取ってれば、イジメられることも少なくなるんだよ。未知のものには近づかない。そういう部分も人間にはあるみたいだしね。……まあ、子供だと、好奇心の方が勝る場合もあったけど」
加奈子「……」
孝文「高校の時さ、格好いいって言って、近づいてきた奴がいたんだ。左右の目の色が違うなんて、まるで選ばれた人間みたいだって」
加奈子「……選ばれた人間?」
孝文「一万人に一人っていうのもあったと思う。きっと、特殊な能力に目覚めるはずだって言って、つきまとわれたよ」
加奈子「変わった人だね……」
孝文「そんなこと言われたの初めてだったからさ、何かうれしくなって、そいつとつるむようになったんだ。色々なアニメ見たり、変な能力を出す練習をしたり……。今考えてみれば、厨二病って奴かな。それはそれで、痛い思い出だけど、まあ、楽しかった」
加奈子「ふーん。今の孝文くんからは想像できないけど」
孝文「転校して、そいつと会わなくなったら、ピタリとアニメとか見なくなったからね」
加奈子「他には、何か思い出のある場所ってないの?」
孝文「ん? んー。そうだなあ。そいつのインパクトが強すぎて、他はあんまり覚えてないかな。あとは似たような感じだったし」
加奈子「……そっか」
孝文「どうかした?」
加奈子「ううん。随分と寂しい青春時代だったんだなーって思って」
孝文「うっ! 人が気にしてることを……」
加奈子「うふふ。さっきのおかえしだよ」
孝文「ふん。今が幸せだから、別にいいんだ」
加奈子「え?」
孝文「加奈子とこうして、一緒に過ごせてる。だから、過去が不幸だったとしても、気にはならない、かな」
加奈子「……それって、遠回しの、プロポーズ?」
孝文「どうだろうね?」
加奈子「帰りに、私の実家に寄ってく?」
孝文「あー、いや。まだ、その心の準備はできてない……」
加奈子「ふふっ。冗談だよ」

加奈子がピタリと立ち止まる。
つられて、孝文も止まる。

孝文「……加奈子?」
加奈子「実はね、この場所って、初恋の人との思い出の場所なんだ」
孝文「……このタイミングで、他の男の話?」
加奈子「……」

孝文(N)「加奈子は微笑んだ後、不意にしゃがみこんだ。その視線の先には、他のひまわりよりも一回り小さい花がある。……それは、ひまわりによく似ているが、違う花だった」

加奈子「ルドベキア、タイガーアイ……」
孝文「……あ、思い出した」
加奈子「え?」
孝文「小学校の頃さ、これと同じ悪戯をしたことがあるんだ」
加奈子「悪戯?」
孝文「さっきも言ったけどさ、目の色が違うってだけでイジメられるってことが不思議だったんだ。ちょっと違うってだけで、どうしてこんな風にされるだって」
加奈子「……」
孝文「だからさ、学校でひまわりフェスタに見学に行くって聞いて、ある実験をすることにしたんだ。あいつら、人の目の色が違うことを馬鹿にしてたけど、たくさんのひまわりの花の中に、似た花があっても馬鹿にするのかって。それで、花の飼育員をしてる人に頼んでみたんだ。ルドベキアタイガーアイを植えていいかって」
加奈子「なんて言われたの?」
孝文「笑って、面白い、やってみようって言ってくれたよ。次の日には花を取り寄せてくれて、一緒に植えたんだ」
加奈子「いい人だったんだね」
孝文「その人と、どうなるか楽しみにしてたんだけど、結局、誰もルドベキアタイガーアイに気づかなかった」
加奈子「……」
孝文「飼育員の人は、まあ、そんなもんだよ、って笑ってたけどね。で、そのとき、俺は言ったんだ。花の世界はいいねって。違う花があっても、誰もイジメない」
加奈子「ふふっ。孝文くんって、不機嫌そうな顔をしてた裏では、そんなロマンチックなこと考えてたんだ?」
孝文「うっ、うるさいなぁ。小学校の頃だったんだから、仕方ないって。そういう年頃だったんだよ。……それからは、毎日通ったなぁ。ひまわりフェスタ」
加奈子「……」
孝文「なんか、ルドベキアタイガーアイが、花の世界の俺みたい思えてさ、枯れてないか、仲良くやってるか、見に来てたよ」
加奈子「そのころに、一緒に来たかったな」
孝文「……そうだね。あ、そうだ。今度、一緒に行こうよ。……どこだったかな? あの場所」
加奈子「……」
孝文「……それにしても、加奈子は凄いな」
加奈子「え?」
孝文「だってさ、一面ひまわりの中から、この一輪のルドベキアタイガーアイを見つけたんだから」
加奈子「う、うん。……」
孝文「俺、何か嬉しいよ」
加奈子「嬉しい?」
孝文「花の世界での俺を見つけてくれたこと。……そして、現実世界で、他の人間と違う、俺を受け入れてくれたこと」
加奈子「私もね、嬉しかったよ。私を選んでくれたこと」
孝文「……加奈子」
加奈子「……孝文くん」
孝文「……おっと、そろそろ暗くなってきたな。帰ろっか」
加奈子「……このタイミングで、それ?」
孝文「はは。さっきのお返し」
加奈子「それじゃ、花の世界の孝文くん。これからも頑張って、咲き続けてね」
孝文「……その話題、引っ張らないでくれよ。結構、恥ずかしいんだからさ」
加奈子「ふふふ。行こっか」

孝文(N)「もしかしたら、あの花は、俺と同じ理由で植えられたのかもしれない。そう考えると、親近感が湧いてきた。声に出して言うのは恥ずかしいから、心の中で願う。頑張って咲き続けろよ。そして、周りと違うからって気にするな」

孝文と加奈子が並んで歩いている。
孝文「あ、加奈子、ごめん。ちょっとトイレ行ってくる」
加奈子「じゃあ、先に車で待ってるね」

孝文が駆け足で進む。

孝文「トイレ、トイレ……っと」

飼育員(45)を見つけて、駆け寄る。

孝文「すいません。トイレってどこですか?」

飼育員「ここを真っ直ぐ行って、突き当りを……あれ? 孝文くんかい?」
孝文「……え?」
飼育員「いやあ、懐かしいな」
孝文「えっと……」
飼育員「ん? 覚えてないかい? よく、ここに来てただろ?」
孝文「……」
飼育員「ほら、一緒にルドベキアタイガーアイを植えただろ? 覚えてないかい?」
孝文「……この場所だったんだ」
飼育員「結局、君が引っ越してからも、あの花に気づくお客さんはいなかったよ……」
孝文「あの……今もありますよね。ルドベキアタイガーアイ。もしかして、俺と同じような人がいたんですか?」
飼育員「あれはね。君が引っ越してから、毎年植えたいって人がいたんだよ」
孝文「……毎年、ですか?」
飼育員「なんでも、君がいる間に、話しかけることができなくて、後悔してたみたいなんだ」
孝文「……」
飼育員「あの花を見てると、君を見ているような気持になるって言ってね。まあ、こちらとしても、特に問題はないから、続けさせてあげてたんだよ」
孝文「……あの、その子の名前ってわかりますか?」
飼育員「加奈子。仙田加奈子ちゃんだ」
孝文「!」

孝文が車のドアを開け、入って来る。

加奈子「混んでたの?」
孝文「あー、いや、ちょっと知り合いに会ってさ」
加奈子「へー。そうなんだ?」
孝文「なあ、加奈子」
加奈子「ん? なに?」
孝文「その……ありがとう」
加奈子「え? どうしたの? 急に」
孝文「……なんとなく」
加奈子「(笑って)何それ」

孝文(N)「あの頃、俺はずっと一人だと思っていた。たった数人にイジメられていただけで、クラスの人間全員から嫌われていたと思い込んでいた。でも、それは違っていた。ちゃんとひまわりの中のルドベキアタイガーアイを見てくれている人もいたんだ。人と違うことを気にしていたのは、俺の方だったのかもしれない。……俺はこれからも、ひまわりの中のルドベキアタイガーアイを見守ってくれていた人と、寄り添って生きていきたいと思う」

終わり

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