【声劇台本】不思議な館の亜梨珠 知恵の輪

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。亜梨珠の館へようこそ」

亜梨珠「あら? なんだか、少し元気がないわね。どうかしたのかしら?」

亜梨珠「……ふーん。なるほどね。でも、それは正しいことだと思うわよ」

亜梨珠「絡まれている人を助けるなんて、なかなかできるものではないわ」

亜梨珠「まあ、でも絡んでくる人なんて、話が通じるような人じゃない場合も多いから、助けようとして標的がこっちになる可能性も高いわね」

亜梨珠「……ああ、そういうこと」

亜梨珠「確かに、君子危うきに近寄らずなんてことわざもあるくらいだもの。助けようとする行為自体、否定的に見られることもあるわ」

亜梨珠「私は立派なことをしたと思うし、その人が言うように、バカだとは思わないわよ」

亜梨珠「そもそも、バカなんて言葉は、常識から外れたことをする人の意味よね」

亜梨珠「でも、その常識なんてものは、人それぞれ違うものよ」

亜梨珠「だから、人を助けて、傷つけられたことに対して、バカだ、なんていう人の言葉なんて気にすることないわ」

亜梨珠「……ふふ。こんな慰めの言葉では納得できないかしら?」

亜梨珠「ほら、よく言うじゃない。バカと天才は紙一重だって」

亜梨珠「……え? フォローになってない?」

亜梨珠「そうね……。じゃあ、今日はバカと天才についてのお話でもしようかしら」

亜梨珠「あなたは知恵の輪っていうのを知っているかしら?」

亜梨珠「かなり昔に流行った玩具なんだけれど」

亜梨珠「知恵の輪は江戸時代に日本に漂着した中国人が伝えたもので……」

亜梨珠「……え? ああ、そうね。話がそれるところだったわ」

亜梨珠「えっと、知恵の輪というのは、複雑な形をした複数の輪を繋げ合わせたり、外したりする、パズルのようなものなの」

亜梨珠「これが、結構難しいのもあって、子供はもちろん、大人でも解くのが難しいものもあったのよ」

亜梨珠「でね、そんな知恵の輪を解いたというチンパンジーがいたの」

亜梨珠「その当時は、天才チンパンジーとして有名になったわ」

亜梨珠「それでも、やっぱりチンパンジーだから、人間の知能には勝てないと考える人が大半だったわ」

亜梨珠「まあ、それは当然のことだと思うわ」

亜梨珠「そこで、娯楽感覚で、知恵の輪の名人とそのチンパンジーを勝負させる、というものがあったの」

亜梨珠「それは、人間がどれだけ優れているか、天才だと言われるチンパンジーでも、人間の足元にも及ばないという証明でもあった実験だったわ」

亜梨珠「そして、様々な知恵の輪を用意して、名人とそのチンパンジーに、同時に解かせてみたのよ」

亜梨珠「もちろん、名人が圧勝したわ」

亜梨珠「でもね、最後に物凄く難しい知恵の輪を出題したの」

亜梨珠「最初は名人もチンパンジーもなかなか解けずに戸惑っていたわ」

亜梨珠「ああ、結果を言う前に少し補足させてもらうわね」

亜梨珠「その最後の知恵の輪は、後で検証したところ、出題側のミスで解くことはできない……つまり、外せないようになっていたのよ」

亜梨珠「それで、対決はどうなったかというと、1時間後に、なんとチンパンジーが見事外してしまったの」

亜梨珠「名人はそのことを知って、ショックを受けたようね。実験は終わったのに、意地でも解いてみせるといって、挑戦し続けたわ」

亜梨珠「でも、一週間、一ヶ月、一年と外そうと頑張っていたけど、結局、外せなかったわ」

亜梨珠「それはそうよね。だって、そもそもミスで外れないようになっていたのだもの」

亜梨珠「……それなら、どうして、チンパンジーは外すことができたのか」

亜梨珠「それは、無理やり力で引きちぎったのよ」

亜梨珠「ふふふふ。そうよね。これは当然、ルール違反よ。でもね、そのチンパンジーは『外して』みせたのよ」

亜梨珠「知恵の輪は複数の絡まった輪を外すもの。その観点で見ると、外してみせたチンパンジーはどういった解釈をすればいいのかしら」

亜梨珠「でも、私は思うの。対応能力としては、このチンパンジーの勝ちじゃないかって」

亜梨珠「もちろん、否定する人も多いでしょうけど」

亜梨珠「ただ、考えてほしいの。常識やルールなんてものに囚われて、外せない知恵の輪に一年以上も四苦八苦していた人間と、出来ないなら、できる方法でやってしまうという対応力をみせたチンパンジー」

亜梨珠「私はチンパンジーがバカだとは思わないわ」

亜梨珠「つまり、何が言いたいかというと、常識やルールに縛られて、そんなものに勝手に人を当てはめて、バカだという人のほうこそ、頭がいいとは思えない、ということね」

亜梨珠「……え? チンパンジーと比較されると褒められた気がしない?」

亜梨珠「ふふふ。あら、ごめんなさい」

亜梨珠「とにかく、私はあなたのしたことは立派なことで、あなたのことをバカだとは思えないってことよ」

亜梨珠「ああ、でも、一つだけ忠告させて」

亜梨珠「人を助けるということは立派でも、その解決方法を取った場合、どうなるかは考えて行動した方がいいわよ」

亜梨珠「警察に連絡したり、誰かと一緒に止めたり、色々と方法はあると思うの」

亜梨珠「まあ、それも応用力ということね」

亜梨珠「それじゃ、今回のお話は終わりよ。また来てね。さよなら」

終わり。

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