【声劇台本】不思議な館のアリス 唯一無二の存在

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■概要
人数:1人
時間:5分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「おや? 服が汚れていますね。どうかされたのですか?」

アリス「……なるほど。車に泥を飛ばされたと。それは災難でしたね」

アリス「ですが、あまり気にされてませんね。寛大な心をお持ちのようで、素晴らしいです」

アリス「……そうですか。昔から、よくそういう不運がよくあったのですか」

アリス「もしかして、小さい頃から、自分は運がないと思っていませんでしたか?」

アリス「ふふふ。誰しも、よくあることだと思いますよ。自分は人よりも運がないと感じることは」

アリス「……え? 周りと比べてみても、自分ぐらい不運な人はいなかったのですか?」

アリス「……あなたは、自分が他人よりも不運だとわかったとき、どう思いましたか?」

アリス「……そうですか。とくに何も……ですか。あなたは強い心の持ち主のようですね」

アリス「では、本日は、ある不運な少女のお話をしましょう」

アリス「その少女は物心ついたときから、自分には運がないと感じていたそうです」

アリス「欲しい物があって、親を説得して買ってもらえることになっても、売り切れていたり、宿題を忘れたときに限って当てられてしまったり、歩いていれば、鳥のフンが落ちてきて、服にかかったりなど、小さいながらも数多くの不運が毎日、少女に降りかかったそうです」

アリス「最初はそのことに嘆き、占いや風水、おまじないなど、様々なことを試したようですが、まったく効果はなかったようですね」

アリス「いつしか、少女はその不運を受け入れるようになりました」

アリス「常に最悪のことを想定して動き、大体はその考えたような結果になっていったそうです」

アリス「そんな状態が続く中、いつしか、少女は自分の人生に対して諦め、無気力になっていきました」

アリス「そんな様子に、両親は心を砕き、ある心理学の教授に相談したそうです」

アリス「その教授は、さっそく少女に会い、説得を試みたそうです」

アリス「自分が不運だと感じるのは、良くないことは印象に残るから、最悪の結果が起こるのは、無意識にその結果に向かって行動しているからだ、と」

アリス「ですが、少女はその言葉を受け入れることはなったそうです」

アリス「この不運は自分にしかわからないと」

アリス「そこで、教授はあることを考え付きました」

アリス「それは、その少女と同じように自分が不運だと考えている子供たちを集め、会わせてみることにしたのです」

アリス「そして、そこで、様々な実験を行いました。三つの箱の中に、一つだけボールが入っている箱を当ててもらったり、コインの裏表を予想してもらったりなど、確率による実験です」

アリス「その実験を繰り返すうち、確かにその少女の成績は、他の子供と比べても極端に悪いという結果が出ました」

アリス「教授は確率論では説明ができないほどの不運である彼女に対し、かなり驚いたそうです」

アリス「そして、その少女は得意げに、自分の不運は他の人とは違うと言いました」

アリス「ですが、教授には一つだけ、希望がありました」

アリス「それはその少女と同様に、成績が悪い男の子がいたのです」

アリス「教授は成績表を持ち、少女とその男の子を会わせました」

アリス「そして、教授はこう言ったのです」

アリス「不運なのは自分だけではない。同じような人は、世界中にたくさんいるはずだ、と。だから、落ち込む必要はない、と」

アリス「その言葉を聞いた、少女はなんと答えたと思いますか?」

アリス「その少女は突然、男の子の頭を殴り、消えろ! と言い放ったそうです」

アリス「その行動と言動を聞いて、教授は驚きました。そして、少女に理由を聞いてみたのです」

アリス「すると少女は泣きながらこう言いました。こんなに不運なのは私だけだと思ってた。私だけが、特別だったと思ってたのに、と」

アリス「……つまり、少女は不運、であることが、特別だと信じていたようです。不運こそが自分のアイデンティティであり、特別な証明だったのだと」

アリス「……いかがでしょう?」

アリス「不運というマイナスなことを、特別ということに置き換え、ある意味プラスに考えると言う不思議な思考をした少女のお話です」

アリス「この考え方は、DVに耐える人が陥りやすい思考なのかもしれません」

アリス「自分が悲劇の主人公であるということで、耐えられ、そして、その状態の自分にある意味、酔っているという状態なのかもしれませんね」

アリス「この考え方が良いことなのか、悪いことなのかは、本人でないとわからないでしょう」

アリス「他人から見ると、顔をしかめるような不幸も、本人にとっては幸せに感じているのかもしれませんから」

アリス「多様性が受け入れられている現代であるからこそ、自分の中の常識だけではなく、他者の考え方にも目を向けるべきなのかもしれませんね」

アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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