【フリー台本】町の風景
- 2022.03.28
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:2人
時間:5分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
徹也(てつや)
亮(りょう)
■台本
ドンとサッカーボールを蹴る音。
そして、ゴールにボールが突き刺さり、審判の笛が鳴り響く。
歓声が巻き起こる。
徹也「ゴーーーール!」
亮「やったな、徹也! 全国だ! 全国だぞ!」
徹也「バカ、亮! 全国行けるくらいで喜ぶな! 全国制覇が俺達の夢だろ?」
亮「あ、ああ。そうだったな」
徹也「見てろよ! 俺達の名前を全国に轟かせてやる!」
場面転換。
高台。
徹也「……」
そこに亮がやってくる。
亮「よお、徹也」
徹也「……亮。久しぶりだな」
亮「おいおい。帰ってきてるなら、連絡くらいよこせよ。それとも何か? プロになっちまったら、高校のチームメンバーなんか眼中にない、ってか?」
徹也「……からかうなよ。そんなんじゃないって」
亮「……思ったより、凹んでやがるな」
徹也「……」
亮「お前は、俺たちの代表みたいなもんなんだ。しっかりしてくれよ」
徹也「なあ、亮。覚えてるか? 昔はここから町を見下ろして夢を語ったよな」
亮「ああ。お前は全国制覇、ばっかり言ってたよな」
徹也「……こうやってさ、町を見下ろしてると、町で一番になった気がしたんだ」
亮「実際、一番だったんじゃないか? この町の人間でプロに行ったのはお前だけだしさ」
徹也「……俺さ、全国大会進出を決めた時、ここに来て、こうやって町を見下ろしたんだよ。いつか、全国も、こうやって見下ろしてやるって。俺が一番になるって……」
亮「……」
徹也「それが、一回戦で、6対1のボロ負けだ」
亮「相手は優勝候補だったんだ。しょうがないさ」
徹也「……なんで、お前じゃなくて、俺だったんだろうな?」
亮「俺は、スカウトの目は確かだったと思うぜ」
徹也「……小さい男だよ、俺は。この町を見下ろしながら、町で一番になったって調子づいていたんだ」
亮「……」
徹也「当たり前だよな。この町しか見てなかった……見えてなかったんだ。小さな町で一番なだけ。この町の風景は俺そのものだよ」
亮「なら、引き上げてくれよ」
徹也「え?」
亮「お前が、日本で一番になればこの町が……この町の風景は日本一ってことになる」
徹也「……」
亮「諦めんな。代表落ちがなんだ。次があるだろ」
徹也「……亮」
亮「俺は……俺たちはこの町が好きだ。この町の代表がお前だからこそ、俺はプロを諦めることができた。お前は、この町の誇りだ」
徹也「……」
亮「大丈夫だ。お前ならやれる。お前なら、この風景を……この町を日本一の風景にできる。俺はそう信じてる」
徹也「……はあ。勝手だな。勝手に期待して、勝手に押し付けんじゃねえよ……」
亮「この町で一番になったお前が悪い」
徹也「ぷっ! なんだよ、それ」
亮「お前はこうやって、町を見下ろしてるくらいがいいんだよ。見上げるな。そのまま進め」
徹也「ったく。……しゃーねーな。俺がこの町を日本一にしてやるよ」
亮「ああ。そうすれば、この町で二番目の俺は、日本二位ってことになるからな」
徹也「いやいや、お前、もうこの町で二番目じゃねーだろ」
亮「はあ? なめんなよ。あれからも練習続けてるんだぞ」
徹也「だとしても、二番目はないだろ」
亮「お前な―、そういうところはいつまでたっても変わらねーな……」
徹也「あははははは」
終わり。
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