【フリー台本】不思議な館のアリス 雨と夜

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■概要
人数:1人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……大丈夫ですか? 随分と濡れていらっしゃいますが」

アリス「今、タオルを持ってまいりますので、少々お待ちください」

少しの間。

アリス「どうぞ。お使い下さい」

アリス「それにしても、災難でしたね。急に雨に降られてしまうと、どうしようもありませんからね」

アリス「最近は天気が悪いのに、これから梅雨に入ってくると思うと憂鬱になってしまいます」

アリス「……え? 梅雨の時の方が傘を持ち歩くからいい、ですか?」

アリス「ふふ。あなたらしい、実にポジティブな考え方です」

アリス「あなたは、そちらのタイプなのですね」

アリス「……ふふ。何の話だって顔ですね」

アリス「あなたは、明けない夜はない、という言葉を知っていますか?」

アリス「もしくは、止まない雨はない、ともいいますね」

アリス「この言葉を聞いてどう思いましたか?」

アリス「一般的には、つらいことがあっても、いつか必ず終わって、幸せになれる、という意味ですが、私としては違う解釈もあるのではないかと思いまして」

アリス「今日は、そのことに関してのお話をしましょう」

アリス「これはある惑星に不時着した2人の男のお話です」

アリス「男の住んでいた星の科学技術はかなり進んでいて、気軽に宇宙旅行を楽しめたそうです」

アリス「そんなある休みのこと。二人は軽い気持ちで辺境の星へと遊びに行ったそうです」

アリス「ですが、宇宙船の調子が悪く、墜落してしまいました」

アリス「二人は無事だったのですが、宇宙船は再び旅立てる状態ではなかったそうです」

アリス「不時着した星は、変わった星で、ずっと雨が降り続けていました」

アリス「それから数カ月が経ち、救援も来ないと悟ったとき、一方の男が宇宙船を放棄して旅立とうと言い出したのです」

アリス「宇宙船は、飛び立てはできなかったですが、内部の機能は活きていたため、生活にはあまり困らなかったそうです」

アリス「ですが、その男は、どうしても太陽の光を見たいと思ったのだそうです。だから、太陽が差す場所がないかを探す旅に出ようと提案したわけです」

アリス「その提案を聞いた、もう一方の男は冗談じゃないと断ったそうです」

アリス「今の快適な暮らしを捨ててまで、太陽が差す場所を探すなんて馬鹿げている、そもそも太陽が差す場所なんてないかもしれないと反論しました」

アリス「ですが、旅に出るといった男の決意を変えることはできなかったようです」

アリス「男は持ち運べる装備を持って、旅に出ました。雨が降り続ける中を、です」

アリス「残った男は呆れながらも、今まで通りの生活を送ったそうです」

アリス「旅に出た男の方は、十年以上もその世界を彷徨いました。太陽が差す場所がきっとあるはずだ、と」

アリス「そして、20年が経とうとしたときでした。その男はようやく見つけたのです。雨が止み、太陽が差し込むその場所を」

アリス「その場所は、今までの苦労に応えるほどの豊かさな場所だったそうです」

アリス「そして、その男はその太陽の光が差す場所で一生を過ごしました。達成感と満足感を胸に抱いて」

アリス「あなたは、この話を聞いてどう思いましたか?」

アリス「……そうですね。多くの人はあなたと同じように応えるでしょう。辛い状態でも、それはいつか必ず終わりをつげ、幸せが舞い込むはず。だから、行動をした方がいいと」

アリス「では、もう少しこの物語に補足を入れましょう」

アリス「一方、宇宙船に残った方の男ですが……」

アリス「宇宙船の中で快適に、何不自由なく、楽しく暮らしたそうです」

アリス「どうですか? これでも、必ず行動した方がいいと言えるでしょうか」

アリス「私は思うのです。世間では、行動しないで後悔するくらいなら行動しろと言われます」

アリス「行動すれば必ず報われる、と」

アリス「ですが、果たして本当にそうでしょうか?」

アリス「この話の太陽の光を求めた男は最終的に、その場所を見つけましたが、残った男が言うように、この世界では太陽の光が差す場所なんてなかったかもしれません」

アリス「その場合、旅に出た男は、雨の中、辛い状況のまま……絶望のままに死んでいったかもしれないのです」

アリス「先のことや未来のことなんてわからないのに、どうして、簡単に行動しろと言えるのでしょうか」

アリス「私はこの話から思うことは、行動が必ずしもいいこととは限らないということです」

アリス「それは本人が決めること……いえ、そもそも決断する必要さえないのではないでしょうか」

アリス「なぜなら、止まない雨も、明けない夜もあるかもしれないのですから」

アリス「……ふふ。あなたが雨に降られただけで、少し大げさな話でしたね」

アリス「今回のお話はこれで終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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