【フリー台本】透明人間
- 2022.04.23
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
平助(へいすけ)
謎の女性
その他
■台本
平助(N)「世の中は不公平だ。生まれた瞬間、人生が決まることも珍しくない。本人の努力なんて一切意味をなさない。ただ単に、金持ちの家に生まれただけ。それだけで、勝ち組になる。逆に、貧乏の家に生まれた人間は、それでもう、負け組だ。もちろん、俺は後者。それもとんでもなく、極貧の家に生まれてしまった。自分は負け組だと理解はしても、受け入れられるほど、俺は人間ができていない。なら、どうするか? どうせ、終わっている人生。失うものなんてなにもない。だから、俺は考えた。勝ち組の奴から奪い取る。これこそが、俺の人生を救う、唯一の手立てだと」
場面転換。
ドスっと、刺す音。
男1「うっ!」
平助「ははっ。あんたみたいな金持ちがこんな時間にこんな場所をウロウロしてるなんて、襲ってくれっていってるもんだぜ」
男1「うう……。わ、私になんの恨みが……」
平助「恨み? 恨みなんてねえよ。まあ、強いて言えば、お前が金持ちの家に生まれた。だからかな」
男1「……」
平助「なんだよ。もう死んじまったのか。さてと……こいつの家に忍び込んで、根こそぎもらうとするか」
場面転換。
歩いている平助。
平助「……確か、この辺だよな」
警察1「すみません。警察1ですけど、ちょっといいですか?」
平助「え? な、なんですか?」
警察1「身分証明書を見せてもらえますか?」
平助「なんでですか?」
警察1「……身長170センチ前後、年齢30ぐらい。痩せ型で、首元に傷がある男性……」
平助「……」
警察1「……強盗殺人犯の特徴です」
平助「……」
ダッと逃げ出す平助。
警察1「待て!」
平助「くそ、くそっ!」
走り抜けていく。
場面転換。
パトカーのサイレンの音がそこら中から響いている。
平助「はあ、はあ、はあ、はあ……」
平助(N)「完全に囲まれたか……。くそっ! まだだ! まだ、俺は気が済んでいない! もっともっともっと! 奪い取らないと、俺の人生は負け組のままだ!」
平助「透明人間にでもなれれば、こんな包囲網突破できるのにな」
謎の女性「……その願い、叶えてあげましょう」
平助「なっ! なんだ、お前! どこから現れた」
謎の女性「いいじゃないですか。細かいことは。それよりも、あなたをこの状況から救う方法があります」
平助「なんだと?」
謎の女性「……いえ、この状況だけではなく、今後の人生そのものを救って差し上げます」
平助「……どうやってだ?」
謎の女性「この薬を使います」
平助「……」
謎の女性「この薬を飲めば、あなたは透明人間になれます」
平助「は? 透明人間? バカかよ! そんなこと、あるわけねーじゃねーか」
謎の女性「あなたが言ったことじゃないですか。透明人間になりたいって。まあ、信じないのであれば、いいです。このまま、捕まってください」
平助「まあ、いいや。今は藁にもすがりたい気分だ。くれよ、その薬」
謎の女性「はい。ただし、条件があります」
平助「金か?」
謎の女性「あなたが2年前に殺害した、男性……。その人に対して、心からの謝罪をしてください」
平助「……そんなことでいいのか?」
謎の女性「はい。私の希望はそれだけです」
平助「……悪かった。これでいいか?」
謎の女性「……無駄足でした。まさか、微塵も悪いことをしたと思っていなかっとは……」
平助「……」
謎の女性「それでは失礼します。どうか、残りの余生は塀の中で過ごしてください」
平助「……」
ドスと刺す音。
謎の女性「あ、う……」
平助「悪いな。くれないっていうなら、奪うまでだ。お前が金持ちかどうかしらんが、こんなところに来たのが運の尽きだ」
ガサガサと漁る音。
平助「……これか? よし、飲んでみるか」
ゴクゴクと飲み干す音。
平助「……なんにも起こらないな。やっぱり、ガセ……うっ! うああああああ!」
ばたりと倒れる音。
場面転換。
平助「……ん? 気絶してたのか、俺。けど、まだ捕まらなかったようだな。とにかく、ここから抜け出そう」
平助が歩く音。
警察1「おい! 来てくれ!」
平助「げっ! 見つかった……」
警察2「どうした?」
警察1「女性の遺体だ。奴の仕業と見ていいだろう」
平助「……」
警察2「すぐに応援を呼ぼう」
平助(N)「すごい。あの女の言ったことは本当だった。俺は周りから、全く見えない存在になった……」
場面転換。
街中のガヤ。
平助(N)「誰も、俺の姿が見えない。これで、俺は色々な奴から奪いたい放題だ。……よし、あいつを、家までついて行って、そこで全部奪ってやる」
場面転換。
男がドサッとソファーに座る。
男2「ふう。今日も疲れたな。さてと、一杯、やるか」
平助「へへ。その晩餐も、今日で最後だ。いや、人生最後だ! おらあ! 死にな!」
男2「……」
空を切るような音。
平助「あれ? くそ! なんだ? どうなっている?」
場面転換。
平助(N)「あれから、色々と検証してみたが、どうやら、俺は誰にも見えない代わりに、物にも触れなくなってしまった。しかも、全然、腹も減らない。……一体、どうなっているんだろうか」
謎の女性「どうですか? 透明人間になれて、人生を謳歌していますか?」
平助「なっ! お前! 確かに俺が……」
謎の女性「ええ。確かに、私はあなたの手によって、命を奪われました」
平助「……ど、どういうことだ? なら、なんで俺の目の前にいる」
謎の女性「ふふふ。あなたが、私を殺したからです」
平助「ま、まさか……。じゃあ、透明人間というのは……」
謎の女性「ええ。その、まさかです。さあ、たっぷり、透明人間を堪能してくださいね」
平助「うわああああああああ!」
終わり。
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