【フリー台本】不思議な館のアリス ルール

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■概要
人数:1人
時間:8分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
アリス

■台本

アリス「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

アリス「……おや? 今日は随分と暗い顔をしていますね。どうかされましたか?」

アリス「……なるほど。駐車違反ですか。それは災難でしたね」

アリス「……ええ。5分くらい多めに見て欲しいという気持ちはわかります。ですが、時間はルールに関係ありませんからね」

アリス「……ふふ。警察の人にも同じことを言われたんですね」

アリス「警察の人から見たらどのくらい、駐車していたのかは、わかりませんからね。やはり、見つけた時点で摘発しないといけません。それに、もし、見逃してしまうと、今度は公平性を担保できなくなります」

アリス「あいつは見逃して、俺は見逃してもらえないのか、という具合ですね」

アリス「そして、もし、そこも考慮し始めてしまうと、ルールはいつの日か、崩壊してしまいます」

アリス「ルールを守ること。これがルールを続けていくのに必要なことです」

アリス「そして、公正に裁いていくことが重要ですね」

アリス「では、そもそもルールとは何のためにあるのでしょうか?」

アリス「……そうですね。秩序を守るためです」

アリス「ですが、その秩序というのはなんなのでしょうか? 人間以外の動物は、ルールなんてものがなくても、秩序というものを保っていると思うのですが……」

アリス「そもそも、ルールなんてものは、人間にしかありません」

アリス「……私が思うに、秩序というのは、誰かが良いと思ったことなんだと思います」

アリス「誰かが、こうした方がいいと思ったことを定めたのがルールということです」

アリス「それは、もちろん、生き続けるためや争いを起こさないための良いものもあれば、単に、決めた人にとって都合が良いというだけのルールだって存在するわけです」

アリス「つまり、何がいいたいのかというと、ルールだからと言って、必ずしも正しいというわけではないということです」

アリス「あ、だからといって、破っていいといっているわけではありません。もちろん、ルールを破れば罰せられます」

アリス「ですが、ルールだからと言って、無条件に正しいと思い込んでしまうのは、どうかいう話です」

アリス「……では、今回は、そんなルールにまつわる、ある男性のお話を……」

アリス「その男性は、ごく普通の家庭に生まれました。裕福でも貧乏でもなく、ごく平均な家庭です」

アリス「両親も、特に厳しいというわけでもなく、そして、甘やかすというわけでもない、一般的な両親でした」

アリス「ただ、少しだけ、世間と言うものに対して、敏感なところがありました」

アリス「両親は、普通……つまり、世間から外れることがどれだけ生きることを困難にさせるかを知っていて、子供に苦労をさせないように、一般的とされるものを教え込みました」

アリス「平均的な学力、平均的な運動能力、常識的な考えなどなど、教えていきます」

アリス「普通から外れることは、その男性がどんなに嫌がっても、上手くできなくても、諦めることなく、しっかりとできるようになるまで教えて込んでいったのです」

アリス「箸やペンの持ち方などの生活に関わることはもちろん、キャッチボールやドリブルといった、運動に関しても一般的な平均になるくらいまで練習を続けさせました」

アリス「その甲斐あってか、その男性はイジメられることもなく、普通の生活を送っていきました」

アリス「そんなある時、ふとしたきっかけで、ダーツをやったのです」

アリス「その男性には新鮮で、とても面白く感じました」

アリス「男性は、ダーツにハマり、虜になってしまいます。毎日毎日、誰よりも練習を重ねて、随分と上達しました」

アリス「大会でも勝てるようになり、男性はダーツのプロを目指し始めます」

アリス「……ですが、一定以上、上手くなったときに大きな壁に当たってしまいました」

アリス「どんなに練習しても、それ以上、上手くならなかったようです」

アリス「人の2倍、いえ、3倍の練習をしても、ドンドンと抜かれていってしまいます」

アリス「そこで、男性はこう思いました。自分には才能がないのだと」

アリス「……あなたは、この話を聞いてどう思いましたか? この男性には才能がないのだと思いましたか?」

アリス「ですが、それは全く的外れな考えでした」

アリス「あるきっかけを得て、その男性はみるみるうちにうまくなり、やがて、世界チャンピオンにまで上りつめました」

アリス「……その、あるきっかけというのは、なんだと思いますか?」

アリス「それは……左手で投げる、ということでした」

アリス「そうなのです。その男性は、元々左利きだったのです」

アリス「ですが、普通を望む両親によって、利き腕を右に矯正されていたというわけですね」

アリス「別に右利きにしなくてはならないルールというものはありません。ですが、普通という枠にとらわれてしまい、普通は右利きという自分の中の思い込み……ルールに従って、子供の利き腕を無意識に、右に矯正していたというわけですね」

アリス「いかがでしょうか? 世の中にはなんのためにあるかわからないようなルールもたくさんあります。時代が変わってしまったことで、逆に不便となってしまうルールや、意味をなさないルールも、たくさんあります」

アリス「ルールだからと言って、無条件に従うのではなく、そもそも、このルールは正しいことなんだろうかと、思考することも大切だと思いますよ」

アリス「もしかすると、あなたのその声がきっかけで、そのルールは変えられることができるかもしれませんよ」

アリス「これで、今回のお話は終わりです」

アリス「それではまたのお越しをお待ちしております」

終わり。

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