【フリー台本】不思議な館の亜梨珠 本物

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■概要
人数:1人
時間:8分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃいませ。アリスの不思議な館へようこそ」

亜梨珠「……あら? どうかしたのかしら? 私の顔をジロジロ見て」

亜梨珠「え? 口元にホクロなんてなかったって?」

亜梨珠「そうかしら? 元々あったわよ。あなたの勘違いじゃない?」

亜梨珠「……ふふ。私の負けよ。そこまで自信満々で言われたら、認めるしかないわね」

亜梨珠「でも、こんな小さな変化によく気付けたわね、正直、凄いと思うわ」

亜梨珠「……いつも会っているのだから、わかるのは当然?」

亜梨珠「そうかしら? 気付かない人は気づかないわよ。現に、兄さんは気づかなかったわ。あなたよりも、一緒にいる時間がながいのに、ね」

亜梨珠「でも、逆にいつも一緒にいることで、返って、目が曇ってしまうこともあるわ」

亜梨珠「え? どういうことか、って?」

亜梨珠「例えば、このホクロだけど、無いのが本当じゃなくて、あるのが本当だったら、どうかしら?」

亜梨珠「つまり、いつもの私はホクロを隠していた、と考えたらどう?」

亜梨珠「いつも会っている、私の顔のホクロの部分は偽物、ということになるわ」

亜梨珠「何が言いたいかと言うと、いつも会っているからといって、それが本当のこととはかぎらないってことよ」

亜梨珠「ふふ。そんなに見なくても、このホクロは付けホクロよ」

亜梨珠「なんで、わざわざ、こんなことをしたのか、不思議かしら?」

亜梨珠「それは今日のお話に関係することなのよ」

亜梨珠「いつも見ているから、いつも一緒だからと言って、本物とは限らないという話よ」

亜梨珠「それはある、女性のお話……」

亜梨珠「その女性はごく一般的な人生を歩んでいたわ」

亜梨珠「普通に恋をして、結婚して、子供を産んだの」

亜梨珠「子供が5歳になった頃。その年は、とても物騒なことが多発していたの。子供の失踪や、見たことのないようなものの目撃談が数多く、報告されたわ」

亜梨珠「だから、その女性も、子供には気を付けるように言い聞かせていたの」

亜梨珠「でも、そんなある日、庭で遊んでいたはずの子供の姿がなかったの。女性は慌てて、辺りを探したのだけれど、見つからなかったわ」

亜梨珠「近所の人たちや、警察の捜索で、ようやく子供を見つけることができたの」

亜梨珠「子供は川のほとりで気絶していたのだけど、何があったのかは覚えていないようだったわ」

亜梨珠「それに、外で眠っていたことで、子供は酷い風邪をひいてしまったの」

亜梨珠「女性は何日も付きっ切りで看病したわ。その甲斐あって、子供は元気を取り戻したの」

亜梨珠「でも、そのときのショックが原因か、少しふさぎ込みがちになってしまったわ」

亜梨珠「女性は、外で遊んでいてあんな危険な目にあったのだからと、外に出たがらない子供に対して、無理して出ることは無いと言ったわ」

亜梨珠「子供は外で遊ばなくなった分、母親である女性に甘えるようになったの」

亜梨珠「前は逆に、甘えてこないような性格だったから、女性は子供が甘えてくることに喜んだみたい」

亜梨珠「それからは、子供はどんどん女性に甘えるようになり離れなくなったの」

亜梨珠「でも、女性はそのことに対して、嫌だと言う気持ちは微塵もなかったわ。逆に嬉しさを覚えることさえもあったそうよ」

亜梨珠「そんな状態のまま、3年の月日が経ったの」

亜梨珠「そんなある日。不思議なことが起こったわ」

亜梨珠「それは、見知らぬ男が自分の子供とうり二つの子供を引き連れてやってきたの」

亜梨珠「そして、その男はこう言ったわ。我々はいわゆる、宇宙人でこの星の生態を調べに来たのだと」

亜梨珠「その際に、あなたの子供を事故に巻き込んでしまったと言ったわ」

亜梨珠「子供の怪我は酷く、我々の技術でも、すぐには治すことができなかった。治療には時間がかかってしまう。その間、子供が失踪すると大騒ぎになるので、この子供治療している間は、ダミーに子供の穴埋めをさせようと考えたと話したわ」

亜梨珠「そのダミーは見た目を完全に一致させて、記憶や行動パターンを覚え込ませたのだけれど、少し性格の差は出てしまうが、バレていないようでホッとしたと、笑ったわ」

亜梨珠「そして、宇宙人と語った男は、今まで女生徒一緒にいた子供の方を呼び、首の後ろを強く押したわ」

亜梨珠「すると、その子供は倒れ込み、その衝撃で、顔の部分のパーツが取れてしまったの。中は機械のようなものがびっしり並んでいたそうよ」

亜梨珠「宇宙人は、本当のあなたの子供を治し終えたので、届けに来たと続けたわ」

亜梨珠「宇宙人と語った男は連れて来た子供を残し、今まで女生徒一緒にいた子供を連れて行ってしまったわ」

亜梨珠「それから、女性の生活はガラリと変わったわ。なぜなら、本当の子供の方は全く甘えて来ずに、いつも外で遊びまわっていたの」

亜梨珠「そんな女性は、あの子供の方が偽物ではないかと考えるようになったの。そして、今まで一緒にいた方の子供が本当の子供じゃないかってね」

亜梨珠「ふふ。でも、その女性は分かっていたはずだわ。なぜなら、女性が本物じゃないかと言った方の子供の中には、機械のようなものが並んでいるのを見ているのだから」

亜梨珠「それでも、女性は返して欲しいと思ったらしいわ。その偽物の、機械の子供を」

亜梨珠「つまり、本物よりも偽物の方を取り返したいと思ったわけよ」

亜梨珠「その女性は、それから暇があれば空を見上げて、子供を返して欲しいと叫んでいたそうね」

亜梨珠「どうかしら? いつも見ていることが本物であるとは限らないというお話よ」

亜梨珠「もしくは、偽物でも、本人が本物だと思えば、それは本物になってしまう、という話にもなるわね」

亜梨珠「……え? 結局、その女性と子供はどうなったか、ですって?」

亜梨珠「ふふ。どうなったかなんて、どうでもいいじゃない。話の本質とは関係ないんだもの」

亜梨珠「だから、ご想像にお任せするわ」

亜梨珠「それに、私が話したことが、本当であるという保証もないわよ?」

亜梨珠「……いえ、あなたが本当だと思えば、それは本当のことになるのかもしれないわね」

亜梨珠「それなら、尚更、あなたにとって都合のいい結果を思い浮かべればいいわ」

亜梨珠「それが、あなたにとっての本物にすればいいだけだわ」

亜梨珠「ふふっ。今日はこれで、お話は終わりよ」

亜梨珠「また来てね。さよなら」

終わり。

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