【フリー台本】信頼の先に
- 2022.05.11
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:4人
時間:15分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
真下(ました)
木崎(きざき)
倖田(こうだ)
斎藤(さいとう)
■台本
部屋の一室。
倖田「本日、12:00(いちにいまるまる)にて、対象の護衛任務に入る。真下。お前は、今回が初任務で、肩に力が入ってしまうだろうが、訓練通りにやることを常に意識しろ」
真下「はい!」
斎藤「班長。今回の護衛対象ですが、詐欺師なんですよね? そんな小物相手に、なんで、わざわざうちに護衛依頼が?」
倖田「木崎はただの詐欺師ではない。バックにはかなり大きな組織が絡んでいるらしい。ようやく手に入れた闇を暴くチャンスに、公安も気合が入っている。ここで、うちのミスで木崎を死なせでもしたら、信用がガタ落ちだ」
斎藤「……なるほど。逆に言うと、組織からしたら木崎の口から情報が洩れることが怖い、ということですね」
倖田「そうだ。相手は手段を択ばずに木崎を狙ってくるはずだ」
真下「……」
倖田「真下。我々の任務で一番大事なことはなんだ?」
真下「え? あ、それは……護衛対象との信頼関係です」
斎藤「くくくく……」
倖田「それは対象を長期に渡って護衛するときかつ、対象が信頼に値する人物のときだけだ」
真下「え?」
斎藤「つまり、相手は騙しのプロだ。信頼なんてしてたら、仕事にならんってことだ」
倖田「斎藤の言う通りだ。真下は、木崎の言うことは基本、無視しろ。護衛対象を守り切る。それだけを考えて行動しろ」
真下「……」
場面転換。
ドアが開き、3人が部屋に入る。
木崎「あんたらが、護衛だな? しっかり守ってくれよ」
倖田「木崎さん。あなたのことに対しての権限は全て私達に委ねられています。くれぐれも勝手な行動はしないよう、お願いします」
木崎「はいはい。できるだけ協力するよ、できるだけ、ね」
斎藤「……」
真下「……」
倖田「16時間、8時間の交代でいく。真下は俺と組み、16時間だ。斎藤は一人で頼む」
斎藤「はい」
倖田「対象が起きている16時間は俺達が護衛をする。斎藤は対象が就寝の時間の警護だ。斎藤の護衛時間は一切、部屋から対象を出すな。もちろん、お前の外出も不可だ。対象の要望は全て無視していい」
斎藤「わかりました」
木崎「おいおい。今、俺は拘留中でもなんでもない。基本的な人権は保障されているはずだぜ?」
倖田「最初にも言いましたが、あなたの行動の権利は全て、私達に委任されています」
木崎「いいのか? そんなこと言っちゃって」
倖田「ええ。全く問題ありません。……斎藤、わかってるな」
斎藤「はい。会話もするな、ということですね」
倖田「よし。斎藤。お前は一旦、帰って体を休めておけ。真下は対象の周りを警護しろ。俺は外を警戒する」
真下「わかりました」
場面転換。
部屋の中。
木崎「……」
真下「……」
木崎「……なあ、お前には話しかけてもいいんだよな?」
真下「え? あ……いや、どうなんですかね? 班長に聞いてきますね」
木崎「おいおい。子供じゃないんだから、自分で判断しろよ」
真下「あ、えっと……」
木崎「いいか。あの斎藤って奴は、一人で俺の護衛をしなくちゃならないから、余計な雑音を避けるために話すなって言ってたんだよ。けど、お前の場合は、外で班長が警戒してくれている。つまりは余裕があるってことだ。それなら、護衛対象のストレスを軽減させるのも、お前の仕事だと思わないか?」
真下「そ、そうですよね。確かに」
木崎「真下って言ったっけ? あんたさ、今回、初任務だろ?」
真下「え? ど、どうしてわかったんですか?」
木崎「あははは。いけないなあ、真下。簡単に自分の情報をしゃべっちゃ」
真下「え? えっと……」
木崎「明らかに緊張しているからな。初じゃないにしても、2回目か3回目くらいだろうっていうのは、容易に想像はつく」
真下「へー。そうなんですか」
木崎「まあ、この辺がバレるのは仕方ない。けど、それを馬鹿正直に肯定してはダメだ。そんなんじゃ、簡単に足元をすくわれるぞ」
真下「そ、そんなことありません! 護衛はちゃんとやります」
木崎「そう。それならいいんだけど。あ、喉乾いたから、冷蔵庫からビール持ってきてくれない」
真下「え? あ、はい。わかりました」
真下が歩いて、冷蔵庫を開け、ビールを持って帰って来る。
真下「持って来ました……って、あれ? 木崎さん?」
後ろから、ポンと肩を叩かれる。
真下「ひやあっ!」
木崎「いかんなあ、真下。簡単に護衛対象から目を離したら」
真下「す、すみません……」
木崎「いいか? 俺は詐欺師だ。常に相手の隙を狙っている。そんな相手に、簡単に気を許してはダメだぞ。ましてや、自分の情報を言うなんて、もっての外だ」
真下「……俺は訓練所では、身体的能力はトップクラスでしたが、護衛の模擬試験ではいつも最下位でした。どうしてもトラップに引っかかちゃうんですよね」
木崎「……おいおい。今、俺が自分の情報を出すなと言ったばかりだぞ」
真下「きっと、隠そうとしてもバレますよ。俺、そういうの下手だから。だから、最初から言っておけば、気にしなくて済みますよね」
木崎「……お前は変わった考え方をする奴だな」
真下「はは。よく言われます。でも、俺の弱点は遅かれ早かれ言うつもりでした」
木崎「なぜだ?」
真下「だって、木崎さんに俺の弱点を知ってもらった方が、フォローしやすいですよね?」
木崎「……は? なんで、護衛対象の俺がお前のフォローしないとならないんだ?」
真下「え? フォローしてくれないと、罠にかかって死ぬ確率高いですよ?」
木崎「……」
真下「木崎さん、そういうの、俺よりも回避するの上手そうですから。協力して生き残りましょう」
木崎「……ぷっ! あはははははは!」
真下「木崎さん?」
木崎「あはははは……。おいおい。お前の仕事は俺を守ることだろ?」
真下「はい。だから、木崎さんのことは守ります。ただ、協力して欲しいだけです」
木崎「だけって……。いいのか? 俺は詐欺師だぞ?」
真下「え? それ、関係あります?」
木崎「いや、お前を騙すかもしれないだろ」
真下「……木崎さんは、死にたいんですか?」
木崎「は? んなわけねーだろ」
真下「なら、騙す意味、ないですよね?」
木崎「……お前、意外と、面倒くさい奴だな」
真下「……そ、そうなんですか?」
場面転換。
木崎「はー。ダルイ。少し、外の空気を吸いたいな」
真下「さすがに、外出は許可してくれないと思いますよ」
木崎「あれから1週間、外に出てないんだぞ。息も詰まるってもんだ」
真下「そうですよね。ちょっと、班長に相談してみます」
木崎「いや、いいよ。どうせ、お前が怒られるだけだ」
真下「ですが……」
木崎「それより、なにか楽しい話をしてくれよ」
真下「楽しい話……ですか? 何を話せばいいですかね?」
木崎「えっと、お前はどうしてこの職に就こうと思ったんだ?」
真下「大した理由じゃないですよ」
木崎「いいから話せよ」
真下「俺、小学生の頃、バスジャックに巻き込まれたんです」
木崎「いきなりディープな入りだな」
真下「人質になって、凄く怖くて、もう自分は死ぬって思ったんです」
木崎「……」
真下「でも、そんなとき、特殊部隊の人がバスに乗り込んできて、俺を助けてくれたんです。そして、もう、大丈夫だよ、と頭を撫でられたとき、本当に安心できたんです」
木崎「その話の流れなら、特殊部隊に入ろうとしないか?」
真下「特殊部隊の場合、相手を制圧するというのが主な任務ですから」
木崎「なるほど。確かに、人を助けたり守なんてことは少ないのかもな」
真下「はい。だから、この仕事に就いたんです」
木崎「……最初はさ、ほんの小遣い稼ぎだったんだ」
真下「……?」
木崎「ほんの数千円を簡単に騙し取れたんだ。最初に上手くいったから、ドンドン調子に乗っちまったんだよな」
真下「……」
木崎「それからは、俺の中で人を騙すのがゲームになっていった。どれだけ、完璧に、多くの金を取れるかだけを考えるようになったんだ。まあ、罪悪感を誤魔化すということもあったんだろうな」
真下「……」
木崎「気づいたら、俺の周りには色々な人間が集まるようになっていたんだ。それこそ、誰もが知るような有名人も、な。いつしか、自分の意思で動けないほどに、大きな組織になっていたんだ」
真下「じゃあ、木崎さんは巻き込まれたってことなんですね」
木崎「はは。んなわけねーだろ。俺が始めたんだ。被害者なんかじゃねー。加害者だよ」
真下「……そ、そうですよね」
木崎「けどさ……俺。娘が生まれたんだ」
真下「……」
木崎「それで……俺、このままじゃ胸を張れない……。娘が大きくなったとき、俺は娘に自分がしてきたことをずっと隠して生きていかなきゃならないのかって思ったら、怖くなったんだ」
真下「……もしかして、わざと捕まったんですか?」
木崎「はは……。これも逃げなんだよな。単に俺は娘に顔を合わせるのが怖かったんだ。だから、塀の中なら顔を合わせることもないって思ったんだよ」
真下「……」
木崎「最低だよな。親として、人間として」
真下「……木崎さん、行きましょう」
木崎「え?」
真下「娘さんに会いに行きましょう」
場面転換。
車内。
木崎「お、おい。ホントにいいのか? 外に出て。命令違反じゃないのか?」
真下「大丈夫です。俺の任務は木崎さんを守ることですから」
木崎「……いや、外に出すなって、あの班長に言われてただろ」
真下「班長は、木崎さんの行動の権限は、私『達』にあると言ってました。それって、俺にもあるってことですよね?」
木崎「……知らんぞ。クビになっても」
真下「え!? 俺、クビになるんですか?」
木崎「……はあ。お前は頭がいいのか悪いのか、よくわからん奴だな」
場面転換。
赤ちゃんの泣き声。
木崎「……志桜里。父さんな、お前に胸を張って会えるように頑張るよ。だから、しばらくお前には会えなくなる。ごめんな。でも……次に会う時は、ちゃんとお前の父親だって胸を張って言えるようになるからな」
真下「……」
場面転換。
倖田「……真下」
真下「はい」
倖田「辞表を書いておけ」
真下「ええっ! ど、どうしてですか?」
倖田「……」
木崎「待てよ。今回のことは多めに見てやってくれないか?」
倖田「あなたには関係のないことだ」
木崎「いいや。そんなことはない。真下を不問にしてくれれば、俺は全てを話す。……そうすれば、あんたの手柄だ」
倖田「……」
木崎「真下をクビにすりゃ、俺は口を開かない。それよりも、真下を見逃せば、あんたは公安に大きな貸しができるし、優秀な部下を失うこともない。……どっちがよい選択か、あんたならわかるだろ?」
倖田「……真下」
真下「は、はい」
倖田「次はないぞ」
倖田が行ってしまう。
真下「あ、あの……木崎さん」
木崎「気にするな。俺がしたいようにしただけさ」
真下「……ありがとうございました」
木崎「礼を言うのはこっちさ。おかげで真っ当に戻れる」
真下「俺、初任務の対象が木崎さんで良かったです」
木崎「真下。これからも、多くの人間を守って行けよ」
真下「はい!」
終わり。
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