たった一つの嘘

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
雄太(ゆうた)
律子(りつこ)
響平(きょうへい)

■台本

律子「いい? 雄太。私たちは二人きりの家族なの。だからね、絶対に嘘は付かないで。どんな言い辛いことでも、ちゃんと言って。お母さんは、雄太のこと、愛してるの。だから、どんなことだって許すわ。だから、絶対に、嘘だけは言わないで」

雄太(N)「小さい頃から、母さんにずっと言われてきたことだ。だから、テストでどんな悪い点を取ってきても、先生に怒られても、喧嘩しても、母さんには素直に話してきた」

場面転換。

リビング。

テレビでニュースが流れている。

アナウンサー「……3歳の宮部喜朗くんが以前、行方不明の事件ですが……」

雄太「……物騒だな」

律子「なにが?」

雄太「3歳児が行方不明だって。もしかしたら、誘拐かも」

律子「……ふーん。はい、できたよ。朝ご飯」

ことりとお皿を置く律子。

雄太「……また、食パンとスクランブルエッグ?」

律子「しょうがないでしょ。金欠なんだから」

雄太「……まあ、いいけど」

律子「ああ、そうだ。雄太。母さん、今日、たぶん、朝帰りになるから、先に寝ててね」

雄太「……なに? お得意様の予約でも入った?」

律子「まーね。そのお金で久々に美味しいものでも食べに行く?」

雄太「いーよ、別に」

律子「あら、そう」

雄太「それよりさ……」

律子「ん?」

雄太「そろそろ、その仕事……辞めたら? 母さんも、もう若くないんだからさ」

律子「ダメねぇ、雄太は。女に年齢の話をするのはタブーなんだから」

雄太「俺もさ、もう働けるんだから」

律子「あんたは、そんなこと心配しないで、ちゃんと大学の受験勉強してなさい」

雄太「……」

律子「あ、そろそろ、模試の結果出てるでしょ? 机の上に置いておいて。帰ったら見るから」

雄太「わかった。じゃあ、行ってきます」

律子「はい、行ってらっしゃい。……おやすみ」

雄太「……おやすみなさい」

ガチャリとドアを開けて、雄太が出ていく。

雄太(N)「嘘を付かないというのは、もちろん母さんにも当てはまる。だから、母さんが風俗店で働いていることも、聞いている。……正直、そういうのは秘密にしておいて欲しいんだけど」

場面転換。

学校の教室内の休み時間。

雄太が勉強している。

響平「よー、雄太、相変わらず、がり勉だな」

雄太「うっさいな。それより、お前は大丈夫なのか? もうすぐ、期末だぞ」

響平「げっ! そうだった! ……なあ、今日、お前ん家で、一緒に勉強しね?」

雄太「いいけど、母さんはいないぞ」

響平「なんだよ、じゃあ、行ったって意味ねーな」

雄太「お前さぁ。人の母親を露骨に狙うの、止めろよ。正直、引くから」

響平「あーあ。律子さん、ホント色っぽいよなー」

雄太「……人の母親を名前で呼ぶな」

響平「俺もなー、律子さんみたいな母親がよかったなー」

雄太「……リアルに想像しろ。どんなに美人でも、自分の親だぞ?」

響平「……すまん。ないな」

雄太「だろ?」

響平「にしても、お前と律子さん、ホントにてないよな。お前は全然、色っぽくねー」

雄太「男なら、色っぽくなくていいだろが。お前の発言、マジでこえーよ」

響平「少しくらいは似ててもよくねーか? お前と律子さん、並んだら親子っていうより、姉弟(きょうだい)だぞ」

雄太「……うっさいな。父親似なんじゃねーか?」

響平「そういや、お前の親父って、亡くなったんだっけ?」

雄太「……詮索はしないってルールだろ?」

響平「あー、すまん、そうだった」

雄太(N)「母さんの話では、俺の親父の顔も覚えてないそうだ。そういうところも、正直に話してくれる。……でもやっぱり、そこは死んだって嘘ついて欲しかった」

場面転換。

雄太の部屋。

勉強している雄太。

すると、お腹の音が鳴る。

雄太「……もう、こんな時間か。腹減ったな。休憩がてら、なんか食うかな」

場面転換。

ガチャリとドアを開け、リビングに入ってくる雄太。

雄太「母さん、なんか、食うもんない……って、そうだ、今日は遅くなるんだったな」

キッチンへと歩き、冷蔵庫を開ける雄太。

雄太「なんか、ねーかな? って、ケーキあるじゃん! ……いや、これ、母さんのかな?」

雄太(N)「だが、そのケーキには付箋が貼っていて、『雄太、勉強頑張って』と書かれていた。普段はズボラな母さんだが、こういう部分では妙に気が利く」

雄太「じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

ケーキを食べる雄太。

雄太「うおお、うめえ!」

雄太(N)「ケーキを食べていると、ふと、誕生日のことを思い出す。俺の誕生日はどんなことがあっても、必ず、母さんが祝ってくれた。その日だけは、仕事を休んで、母さんが手作りのケーキを作ってくれる。……そのケーキだけあれば、俺は満足だった。誕生日プレゼントもいらないし、豪華なご馳走だっていらない。手作りのケーキで、母さんが祝ってくれる。それだけでいいのだ。だから、父親がいて欲しいと思ったことは一度もない」

そのとき、ポケットの中のスマホが鳴る。

雄太「ん? なんだ? 知らない番号だな」

通話ボタンを押す、雄太。

雄太「もしもし……。え!? すぐ行きます!」

場面転換。

救急治療室に飛び込んでくる雄太。

雄太「母さん! 母さん!」

律子「……雄太」

雄太(N)「血の気が引き、青白い顔をした母さん。……警察の話では、母さんは客と口論になり、刺されたのだという。……そして、その傷は深く、もう手の施しようがないのだと告げられた」

雄太「母さん! しっかりして!」

律子「……ごめんね、雄太。最後まで、育てられなくて」

雄太「何言ってんだよ! 十分、育ててもらったよ!」

律子「……あのね、雄太。嘘を付かないっていうのが、私達、家族の唯一のルールだったけど、一つだけ、嘘を付いてたの」

雄太「……」

律子「雄太はね、私の本当の子供じゃないの」

雄太「ごめん、母さん。俺も……母さんに一つだけ嘘ついてた」

律子「え?」

雄太「俺、知ってた。……母さんの本当の子供じゃないって」

律子「……そっか。これじゃ、お互い怒れないわね」

雄太「そうだね」

律子「……」

雄太「でもね、母さん。俺は母さんの子供だよ。血が繋がってなくたって、本当の母親だって思ってる」

律子「私もね、雄太のこと、愛してる。本当の子供だって思ってる」

雄太「母さん。俺をここまで育ててくれて、ありがとう。すごく、幸せだった」

律子「……ありがとう、雄太。私も……幸せだったわ」

雄太(N)「1時間後、母さんは息を引き取った。そのあと、母さんが、俺のために、多額の貯金を残してくれていることと、何かあったら、本当の両親のところに行くようにという、メモが見つかった。……でも、俺は行くつもりはない。だって、俺の母親は母さんだけだから」

終わり。

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