【フリー台本】不思議な館の亜梨珠 物の価値

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■概要
人数:1人
時間:5分程度

■ジャンル
ボイスドラマ、現代ファンタジー、シリアス

■キャスト
亜梨珠(ありす)

■台本

亜梨珠「いらっしゃい。亜梨珠の不思議な館へようこそ」

亜梨珠「……あら、今日は随分と汗だくだわね」

亜梨珠「最近は暑くなって来たから、外を歩くだけでそうなるのも仕方ないわよ」

亜梨珠「……え? ああ、なるほどね」

亜梨珠「こんな日にラーメンを食べたなら、汗をかくのは当然よ」

亜梨珠「でも、なぜなのかしらね。暑い日に熱いものを食べたくなるときがあるのは、わかるわ」

亜梨珠「私も時々、そういうことがあるから」

亜梨珠「後は、冬に部屋を暖かくしてアイスを食べる、とかもいいわね」

亜梨珠「……って、そんなことをしていると兄さんには不思議そうな顔をされるんだけれど」

亜梨珠「って、あ、ごめんなさい」

亜梨珠「……はい、タオル」

亜梨珠「……でも、よく考えてみると、物の価値というのはその時々で変わるものなよね」

亜梨珠「例えば、お水を飲むときでも、普通の時と喉が渇いた時に飲むのとでは、美味しさは違うわ」

亜梨珠「それがもし、極限状態の、砂漠の真ん中だったりした場合、1万円でも買う人は出てくるのよね」

亜梨珠「価値はその時々で変わる。考えてみると当たり前のことだけど、人は固執すると、そんなことも忘れてしむものよ」

亜梨珠「そうね。あなたが今日、食べたラーメンも関連する、2人の男に関してのお話でもしようかしら」

亜梨珠「その二人を、Aさん、Bさんとするわね」

亜梨珠「AさんとBさんは、昔からラーメンが好きで、学生時代からよく食べ歩きをしていたらしいの」

亜梨珠「そして、大学卒業の年。2人はある約束をしたの」

亜梨珠「それは就職して、お金を貯めながら2人でラーメンの研究をするということ」

亜梨珠「だから、2人は給料が安くても、時間に余裕がある会社を選んだわ」

亜梨珠「約束通り、毎日のように仕事が終わってから、2人でラーメンの研究をしていたの」

亜梨珠「研究を続ける2人の目標はもちろん、自分たちでお店を持つこと」

亜梨珠「納得した形でお店を出したいと思い、実に10年という時間をかけて研究したらしいわ」

亜梨珠「ちゃんと売れるように、今のトレンドや人気店のラーメンも研究し、そして、ようやく、納得がいくラーメンを完成させたの」

亜梨珠「貯めていたお金と少しの借金をして、お店をオープンさせたわ」

亜梨珠「最初はなかなかお客さんが来なかったようだけれど、半年もしたら、口コミで広がり、一気に人気店になったの」

亜梨珠「ネットやマスコミにも取り上げられ、誰もが名前を聞いたことがあるようなほどになったわ」

亜梨珠「さらに番組でラーメン対決が行われ、そこで優勝することで、日本一のラーメンという名誉を得ることができたわ」

亜梨珠「そのことでさらに人気が上がり、お店は繁盛したの」

亜梨珠「だけど、それから5年が経った頃。Bさんはふと、売り上げが落ち始めたことが気になり始めたわ」

亜梨珠「Aさんは、そういう時期もあると言って、取り合わなかったの」

亜梨珠「でもBさんは、最近、味が落ちていると指摘したわ」

亜梨珠「Aさんは、レシピに忠実に作っている、味が変わるわけがないと反論したの」

亜梨珠「それでもBさんは、Aさんに、もう一度、研究をしないかと提案したわ」

亜梨珠「Aさんは冗談じゃないと断ったの。味を変えるということは、日本一という名誉を捨てることになる、と」

亜梨珠「Bさんはそれでも、やろうと言いましたが、Aさんは断固として首を縦に振らなかった」

亜梨珠「ついに、AさんとBさんは決裂し、Bさんがお店から出て、一人で研究することになったわ」

亜梨珠「Bさんは今までの売り上げで得たお金で生活をしつつ、再び研究に明け暮れたの」

亜梨珠「そして、それから10年が経ったわ」

亜梨珠「Bさんはついに、納得できるラーメンを完成させ、お店をオープンさせたの」

亜梨珠「その頃になると、Aさんのお店は全盛期の10分の1くらいの売り上げになっていたわ」

亜梨珠「そんなとき、2人の関係に注目した、あるテレビ局が再び、ラーメン対決の番組を立ち上げたの」

亜梨珠「今度は2人一緒ではなく、それぞれが作ったラーメンで対決するという展開ね」

亜梨珠「そして、その結果……」

亜梨珠「Bさんが優勝したわ」

亜梨珠「Aさんは悔しがり、日本一のラーメンという名誉を手放すのが辛いと言ったの」

亜梨珠「でも、Bさんは言ったわ。日本一のラーメンというのは、味ではなく、努力を続けて出来るものだと」

亜梨珠「もちろん、Bさんは日本一のラーメンという名誉を得ても、常に研究を続けているようね」

亜梨珠「どうかしら? 栄誉という価値も、その時々で変わるものということね」

亜梨珠「得たときの価値にとらわれ過ぎると、価値が変わるということに気づかなくなる……いえ、無意識に気付かないようにするのかもしれないわ」

亜梨珠「だから、あなたも、ものの価値というのは変わっていく、もしくは自分が変わっていかないと維持できないということを忘れないようにしてね」

亜梨珠「はい、これで、今回のお話は終わりよ」

亜梨珠「よかったら、また来てね。さよなら」

終わり。

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