将を射んとする者はまず馬を射よ
- 2022.06.30
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、ラブコメ
■キャスト
凌平(りょうへい)※子供
凌平(りょうへい)
麻美(まみ)※子供時代兼ね役
一翔(かずと)
母親
女の人
■台本
凌平「将を射んとする者はまず馬を射よ?」
麻美「しょ、将をいん……?」
一翔「「将を射んとする者はまず馬を射よ。つまり、敵の大将をやっつけるには、まずはその馬を倒せってことだね」
凌平「そんな遠回りなことして、何の意味があるの?」
一翔「例えば、鬼ごっこしてて、凄い足の速い子がいたとするだろ? 凌平がどんなに全力で走っても追いつけない奴だ。その場合どうする?」
凌平「どうするって言われても……」
一翔「じゃあ、もし、その子が転んで膝を擦りむいて、走れなくなったらどうだ?」
凌平「……簡単に捕まえられる」
麻美「おおー」
一翔「そういうこと。遠回りに見えて、実は一番、効率がいいってことなんだよ。普通にやったら難しいことでも、工夫次第で出来るってことだよ」
麻美「へー。すごーい! 一翔くんは、ホント物知りだよね」
凌平「……」
一翔「麻美ちゃん、覚えておくと、絶対に得するから忘れないようにね」
麻美「うん! わかった!」
場面転換。
10年後。
凌平と麻美が並んで歩いている。
凌平「……」
麻美「ねえ、凌平。聞いてる? 夏休み、どうするのさ?」
凌平「どうするも何も、どうもしないって」
麻美「ええー。大学最後の夏休みなんだよ? なんか派手なことしようよ! 泊まりで温泉行くとかさ」
凌平「……地味じゃねーか。それに、大体、麻美んとこのおばさんが泊まりなんか、許してくれないだろ」
麻美「そんなことないよ。凌平や一翔くんと一緒なら、絶対、大丈夫だから」
凌平「……ったく、俺をダシに使うなよ。それに兄貴はバスケの合宿があるからって、夏休み中はずっといないって言ってたぞ」
麻美「ふーん。で、行くとしたら熱海と草津どっちがいいかな?」
凌平「人の話を聞けよ……」
そのとき、女の人がやってくる。
女の子1「あ、凌平くんだ。今、学校帰り?」
凌平「ん? ああ……はい」
麻美「……」
女の子1「ちょうど、今、そこのお店でケーキ買って来たんだけど、一緒に食べない?」
凌平「今日、兄貴は家にいないですよ」
女の子1「え? あ、そうなんだ……。じゃあ、これ渡しておくね。一翔さんと一緒に食べてね。……あ、私から貰ったって、言っておいてもらえるかな?」
凌平「はいはい……」
女の人1「じゃあね」
女の人が行ってしまう。
麻美「……誰?」
凌平「誰だっけな」
麻美「しらばっくれて。随分と仲良さそうだったじゃない」
凌平「……ホントにそう見えたか? あれはどう見ても、兄貴を狙ってるだけだろ。最近、そういうのすげー多いんだよ」
麻美「……ん? なんで、一翔くん狙いで、凌平と仲良くするのよ?」
凌平「あれだろ。将を射んとする者はまず馬を射よ、って奴だろ」
麻美「ああー、なるほど。でも、そんなの何か気分悪くない?」
凌平「お前も人のこと言えねーだろうが」
麻美「……あはは。まあ、そりゃそうなんだけどさ」
凌平「……ちっ」
麻美「あ、そうだ。これから買い物するから付き合ってよ」
凌平「何買うんだ?」
麻美「晩御飯の材料」
凌平「なんで、その買い物に俺が付き合わないとならねーんだよ?」
麻美「だって、凌平ん家の晩御飯だもん」
凌平「はあ?」
麻美「おばさん、最近、仕事忙しいって言ってたでしょ? だから、今度、晩御飯作りに行くって約束したのよ」
凌平「……なんでそこまですんだよ?」
麻美「ほら、あれだよ。将を射んとする者はまず馬を射よ、ってやつ」
凌平「……はあ」
場面転換。
凌平の家のキッチン。
母親「いやー。麻美ちゃん、美人で料理が上手くて、気が利いて、ホントいいお嫁さんになるわー」
凌平「……」
麻美「ありがとうございますー。でも、私なんてまだまだですよー」
母親「あらあら、謙遜しちゃって。あーあ。麻美ちゃん、うちにお嫁に来てくれないかしら」
麻美「えー。いいんですか? 来ちゃっても」
母親「もちろん! 大歓迎よ!」
麻美「ホントですか? 本気にしちゃいますよ」
母親「どうぞどうぞ。ぜひ、本気で考えてみて」
凌平「……ちっ!」
凌平が立ち上がる。
凌平「母さん。飯出来たら読んで。部屋にいるから」
母親「あんた、麻美ちゃんがせっかく、料理作りに来てくれたんだから、少しは手伝いなさいよ」
麻美「いいんですよ、別に」
凌平「俺が手伝ったら、返って邪魔になるだろ」
母親「……まあ、そうね」
凌平「……じゃあ、部屋にいるから」
ガチャリとドアを開け、凌平が出ていく。
場面転換。
バフッとベッドの上に寝転がる凌平。
凌平「ったく、どいつもこいつも兄貴ばっかり……。誰も俺のことなんか見やしねえ……」
コンコンとドアをノックする音。
麻美「……凌平、ちょっといい?」
凌平「ああ」
ガチャリとドアが開いて麻美が入って来る。
凌平「なんだ、もう飯出来たのか?」
麻美「もう煮込むだけだから、お義母さんに見て貰ってる」
凌平「お義母さんって、お前なぁ……」
麻美「それより、旅行、どこ行く?」
凌平「はあ?」
麻美「夏休みの話。忘れたの?」
凌平「だから、それはお前ん家のおばさんがオッケー出さないだろ」
麻美「ううん。もう、貰ってるよ」
凌平「あー、あと、あれだ。兄貴は来れない……」
麻美「知ってる」
凌平「え?」
麻美「ちなみに、お義母さんのオッケーもさっき、貰った」
凌平「へ?」
麻美「宿泊代も出してくれるって。だから、凌平が断る理由はないんだよ」
凌平「え? いや、でも。……え?」
麻美「行くの!? 行かないの!?」
凌平「い、行きます……」
麻美「よし! えへへ。将を射んとする者はまず馬を射よ、成功!」
凌平「……なあ?」
麻美「なに?」
凌平「……も、もしかして、狙ってた将は俺だったのか?」
麻美「え? うん。そうだけど……」
凌平「……それなら、直接、将を狙っても射れるだろ」
麻美「へ?」
終わり。