異世界に行く方法
- 2022.07.02
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人以上
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
慎吾(しんご)子供
慎吾(しんご)大人
正樹(まさき)子供
正樹(まさき)大人
子供・男
■台本
慎吾「……ホントに行くの?」
正樹「慎吾が言いだしたんだろ。肝試し」
慎吾「そうだけどさあ。まさか、ここまでヤバい雰囲気だと思わなくてさ」
正樹「でも、ここで帰ったら意味ないじゃん。心霊写真撮って、クラスでヒーローになるんだろ?」
慎吾「……」
正樹「それに、せっかくカメラ買ったんだからさ」
慎吾「……わかったよ。行って来る。けど、写真、2、3枚撮ったらすぐに戻ってくるからな」
正樹「うん。それでいいよ」
慎吾「……和美ちゃんには、ちゃんと俺が一人で行ったって言ってくれよ」
正樹「わかってるわかってる。きっと、お前の凄さに、和美ちゃんも興味津々になってくれるはずさ」
慎吾「……よし! じゃあ、行って来る」
歩き出す慎吾。
場面転換。
建物の中を歩く慎吾。
慎吾「うう……。こ、怖い。とりあえず、この辺で……」
カシャカシャとカメラのシャッター音。
慎吾「よし、あと一枚撮ったら帰ろう」
そのとき、足音が聞こえてくる。
謎の声「……のか?」
慎吾「だ、誰!?」
ピピっという音が聞こえる。
慎吾「ひいっ!」
謎の声「……だろ? ……こい……」
慎吾「あわわわ……(歯がカチカチと鳴る)」
ピピっと音が鳴る。
慎吾「うわあ! ひ、光った? うわああああああ!」
パシャパシャパシャとシャッターを押す慎吾。
謎の声「……やっと見つけたぞ」
慎吾「うわあああああああああ!」
慎吾が走り出す。
場面転換。
教室内。休み時間。
男の子「嘘だー」
慎吾「ホントだって! 声が聞こえたし、何か光ったんだよ!」
男の子「お前は何か見たのか?」
正樹「いや、慎吾が一人で行ったから」
男の子「じゃあ、なんか証拠あるのかよ?」
慎吾「いや、その……。カメラ、落としちゃったし」
男の子「じゃあ、そのカメラ取って来いよ」
慎吾「……朝に行ったら、無くなってたんだ」
男の子「やっぱり嘘だろ。幽霊見たなんて」
慎吾「ホントだって! 絶対、あれは幽霊だった!」
男の子「お前、そんなこと言って、和美ちゃんに良い所見せようとしただけだろ。和美ちゃん、嘘付く奴は嫌いって言ってたぞ」
慎吾「だから、ホントだってば!」
場面転換。
それから15年後。
慎吾(N)「あの年は心霊ブームで、各所で不可思議な現象や幽霊が出るという噂が絶えなかった。だから、俺はほんの出来心で、ブームに乗って心霊写真を撮ろうとしたのだ。そして、あの日、俺はクラスの全員から嘘つき扱いされた。当時、好きだった和美ちゃんも、俺と話してくれなくなった。それだけならまだしも、その一件から、俺は何かと嘘つきとからかわれるようになる。……そう。俺の人生はあそこから狂ったと言ってもいい。……あれから20年。未だに俺はあの時のことを引きずっていた」
場面転換。
カチャカチャと機械を弄っている音。
正樹「なあ、慎吾。お前の人生だから、あんまりこういうこと言いたくないんだけど、もう諦めたらどうだ?」
慎吾「……」
正樹「過去に戻って、確かめたところで何か変わるわけでもないだろ」
慎吾「これは俺のケジメだよ。あのとき、あそこで何が起こったのか。それを確かめるまで、俺は死んでも死にきれない」
正樹「幽霊がいたってことでいいじゃないか。俺は信じてるぜ」
慎吾「……証拠が欲しい。どうしても確かめたいんだ」
正樹「だからって、タイムマシンなんて、絶対無理だって。個人で作れるもんじゃねーだろ」
慎吾「……もう少しだと思うんだ」
正樹「ったく、その情熱を違うところへ向ければ、もしかしたら、今は、大金持ちになってたかもしれないのにな」
慎吾「うるさいな……」
正樹「そういえばさ、最近、異世界に行く方法っていうのが流行ってるんだけど、知ってるか?」
慎吾「……異世界には興味ない」
正樹「いや、異世界に行けるならさ、過去にも戻る手掛かりとかあるんじゃないか?」
慎吾「……そんな非科学的な」
正樹「今のお前の科学力じゃどうにもならないんだから、こういうオカルト的なものも取り入れてみてもいいんじゃないか?」
慎吾「……なるほどな。確かに。試すだけ試してもいいか」
場面転換。
正樹「じゃあ、頑張れよ」
慎吾「……あまり期待できないけど、行って来るよ」
エレベーターの扉が閉まる音。
慎吾「えーっと、このあと、5階で女性が乗って来ると……」
ガタンとエレベーターが止まる音。
そして、ドアが開く。
慎吾「……っ!」
人がエレベーターに入って来る音。
慎吾「こ、ここで1階のボタンを押す……」
ドアが閉まり、エレベーターが動く音。
慎吾「……上がっていく」
ガタンとエレベーターが停まり、ドアが開く。
慎吾「……なんだ、ここは?」
外に出る音。
慎吾「……なんか変だ。これじゃ、異世界っていうより……過去だ」
場面転換。
慎吾が走る音。
慎吾(N)「あの後、色々と調べたら、俺は過去の世界に戻っていたことがわかる。……20年前。今まで試した奴は、あまりにも違う世界だから、異世界と勘違いしたのだろう。けど、今はそんなことはどうでもいい。俺は確かめなくてはならない。……そう。20年前。俺が見た、幽霊の姿を」
場面転換。
慎吾「……よく子供一人で、こんなところに行けたよな、実際……」
そのとき、足音が聞こえてくる。
慎吾「来たか。……来るぞ」
足音が遠ざかっていく。
慎吾「おいおい。帰るなよ。くそ、どうなってるんだ……? よ、よし。仕方ない。気を引くか」
息を大きく吸う。
慎吾「帰るのか?」
ピタリと足音が止まる。
慎吾「よしよし。戻って来い……」
もう一度息を吸う。
慎吾「お前、慎吾だろ? 早くこっち来いよ」
足音が近づいて来る。
慎吾「よし。ここで幽霊が現れるはずだ」
ガサガサとスマホを出す音。
慎吾「……スマホに写るといいんだが……」
ピピっというスマホのシャッター音。
慎吾「……フラッシュはたかない方がいいか?」
カシャという音。
慎吾「怪奇音……光った! 幽霊の光りか?」
カシャっという音。
慎吾「やっとだ……やっと見つけたぞ」
慎吾・子供「うわあああああああああ!」
慎吾・子供が走って行く。
慎吾「……子供の幽霊か? まあいい。しっかりとスマホにも写したし。……ん?」
慎吾がカメラを拾い上げる。
慎吾「うわー。懐かしいな。インスタントカメラだ。……記念に持って帰ろう」
場面転換。
エレベーターが開く音。
正樹「どうだった?」
慎吾「ふふふ。収穫アリだ」
正樹「異世界に行けたのか?」
慎吾「過去に行って、あのとき、俺に何があったのか……。確かめてきたぜ」
終わり。