俺の勲章
- 2022.07.09
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
仁田 仁志(にった ひとし)
国分(こくぶ)
幸田(こうだ)
専務
女子社員
部長
■台本
部長「仁田仁志くん」
仁志「はい!」
部長「チームリーダーへの昇格おめでとう。入社一年でリーダーになったのは君が始めてだ。これからも活躍を期待しているよ」
仁志「はい! ありがとうございます!」
場面転換。
幸田「仁田さん、見積書の確認お願いします」
仁志「ああ、そこに置いておいて。後で見る」
幸田「……なるべく早く見て貰えると助かるんですが」
仁志「はいはい。わかったわかった。後でちゃんと見るから」
幸田「……よろしくお願いいたします」
仁志「幸田さん」
幸田「はい?」
仁志「仁田さんじゃなくて、リーダーね。もしくは仁田リーダーって言って」
幸田「……はい。わかりました」
場面転換。
廊下を歩く仁志。
仁志「あー、疲れた。一服一服」
扉の外まで話し声が聞こえてくる。
幸田「はー、イラつく」
女子社員「なに? また、リーダーになんか言われた?」
仁志「……」
仁志が立ち止まる。
幸田「リーダーって呼べだって。うっざ!」
女子社員「プライド高いよねー」
幸田「てかさー。あいつ以外の同期って、みんな課長か部長とかでしょ? 10年経ってもまだチームリーダーって逆に恥ずかしいと思うんだけど」
女子社員「確かに。けど、あれでしょ? チームリーダーになれたのも、国分(こくぶ)部長の手柄取ったからでしょ?」
幸田「え? マジ? そうなの?」
女子社員「契約書の処理、やってやるって言われて任せたら、全部、あいつが契約取ってきたことになってたんだって」
幸田「うわー。やりそー!」
女子社員「で、そういうの色々なところでやってきたから、同期に敵が多いみたい。だから、出世できないらしいよ」
幸田「それもあると思うけど、あいつ仕事してないからね。ずーっと、他部署の成績見て、ケチ付けてんの」
女子社員「よくクビにならないよね」
幸田「アピールは上手いからね。ずっと一人で残業してるし」
女子社員「てか、あんた、あのチーム配属なんてババ引いたね」
幸田「ううん。逆にチャンス。今回の契約で今期の目標を大幅に超えたから、多分、チームリーダーに昇格できると思う」
女子社員「マジで? じゃあ、あいつの上になるの?」
幸田「うん。私、あいつに、幸田リーダーって呼ばせるんだ。そのために今まで頑張ってきたんだから」
仁志「……ふっ。馬鹿な奴だ」
仁志が再び歩き出す。
場面転換。
ツカツカツカと仁志の方へ歩いて来る幸田。
幸田「あの、これ、どういうことですか?」
仁志「なにが?」
幸田「契約書の担当欄のところ、私の名前が消えてるんですけど」
仁志「は? 何言ってんの?」
幸田「これ、昨日、私が渡した契約書ですよね? なんで、あんたの……仁田って書いてあるんですか?」
仁志「いや、俺が取ってきた契約なんだから、俺の名前を書くの、当然だろ」
幸田「……」
仁志「幸田さんさあ、人の手柄を取ることに躍起になってないで、ちゃんと自分で頑張れよ。今期の君の成績、ヤバいぞ。これじゃ、減給も考えないとならないな」
幸田「……何言って。あっ! まさか!」
走るように、机に向かう幸田。
仁志「さてと。これから昼に出るから、いない間の対応、頼んだぞ」
仁志が立ち上がり、歩き出す。
場面転換。
パソコンを打つ音。
そこに専務がやってくる。
専務「やあ、仁田くん。遅くまでご苦労様」
仁志「あ、専務、お疲れ様です」
専務「残ってるのは君だけかい?」
仁志「ええ、まあ。今の若い奴らは考え方がドライで、残業とかは全くしませんね」
専務「そうか……。それだと、チームの成績は危ないんじゃないのか?」
仁志「ええ。ですから、自分が他のチームメンバー分頑張るしかなくて」
専務「君は、本当に我が社に尽くしてくれるな。未だにチームリーダーという地位なのが不思議だ」
仁志「ははは……。まあ、メンバーに恵まれず……」
専務「そうか。だが、その懸念もなるなるはずだそ」
仁志「どういうことですか?」
専務「君の上に、国分くんをつける。君とは同期だから、何かとやりやすくなるだろ」
仁志「え? 国分ですか?」
専務「どうかしたかね?」
仁志「い、いえ……別に……」
場面転換。
社内。
国分が歩いて来る。
国分「仁田、ちょっといいか?」
仁志「今、忙しいんだ。後にしてくれないか?」
国分「……部長として、仕事の話だ。来てくれ」
仁志「……」
仁志が立ち上がる音。
場面転換。
会議室。
国分「幸田さん、休職に入ったよ」
仁志「……で?」
国分「仁田リーダー。これは仕事の話だと言っただろ?」
仁志「……それがどうかしましたか?」
国分「チームの今までの経緯を見せてもらったよ。随分と求職者や退職者を出してるな」
仁志「……人事がまともな人を入れてくれないからですよ。使えない奴らばかりで」
国分「お前のチームから移動したやつだが、他部署ではいい成績を残してるんだけどな」
仁志「何がいいたいんですか? 俺が何かやっているとでも言いたいんですか?」
国分「……」
仁志「証拠はあるんですよね?」
国分「……色々な人からの証言が」
仁志「憶測ですよね。契約書は正式に社長の認可も貰っています。不正を憶測で判断して、人を批判するなんて、部長職のやることじゃないと思うのですが?」
国分「……これは同期として、聞きたい。お前、何がしたいんだよ?」
仁志「……この地位は俺の全てだ。……入社して、初めて手にした勲章なんだ。これを守るためには、どんなことでもするさ」
国分「……不正をしても、か」
仁志「だから、それを言うなら証拠出せよ!」
国分「……」
仁志「言っとくけど、お前が俺のことを嫌いで、不当に降格したりしたら、俺は断固戦うからな」
国分「……わかった。もういい」
仁志「ふん」
場面転換。
国分「仁田。辞令だ」
仁志「……国分、お前、まさか……」
国分「大丈夫だ。降格なんかじゃない。……いや、逆に昇進だ」
仁志「ほ、ホントか!?」
国分「ああ。係長だ。やってくれるか?」
仁志「もちろんだ!」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
国分「ここが今日から、お前が担当する部署だ」
仁志「……おい」
国分「なんだ?」
仁志「誰もいないぞ」
国分「ああ。この部署はお前一人だ」
仁志「こんなのは不正だ! 俺を陥れるための」
国分「社長の認可をもらっている」
仁志「それでも不正だ!」
国分「証拠は?」
仁志「……」
国分「それにお前からもう、受諾の印をもらっている」
仁志「そ、そんな」
国分「あとは頼むぞ、窓際部係長」
仁志「うわあああああ!」
終わり。