スクープ
- 2022.08.14
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:5人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
高倉(たかくら)
響子(きょうこ)
編集長
アナウンサー
コメンテータ
■台本
テレビのニュース。
アナウンサー「大臣に隠し子が3人いた問題で、総理は大臣の更迭を決めましたね」
コメンテータ「驚きましたね。この時期に、こんなスキャンダルが見つかるなんて。知ってますか? このスキャンダル、またも、噂の記者が書いたって話です」
アナウンサー「ええ。数々のスキャンダルをすっぱ抜いた記者は、名前だけしか公開されていませんが、ある意味、有名ですよね」
ピッとテレビを消す。
編集長「……というわけで、高倉が、またも大手柄だ」
数人の拍手の音。
編集長「みんなも、高倉を見習って、頑張ってくれ。じゃあ、高倉。お前から、みんなに一言頼む。……高倉?」
記者「……外に出てます」
編集長「はあ……。いつもいないな。本当にあいつが存在するのか、我が社でも都市伝説だよ」
一同がドッと笑う。
場面転換。
喫茶店。
コーヒーをすする高倉。
高倉「……ふう。上手い」
カランカランとドアの鈴が鳴り、ドアが開く。
響子が歩いて来る。
響子「高倉さん、お待たせしました」
高倉「悪いな、響子。急に呼び出して」
響子が椅子に座る。
響子「いえいえ。高倉さんの急な呼び出しはいつものことですから。……あ、私もコーヒーで」
高倉「どうだ? いいネタ追えてるか?」
響子「そんなネタあったら、来ませんよ」
高倉「まあ、そりゃ、そうだな」
響子「そういえば、大臣の記事、見ましたよ。総理も動きましたね」
高倉「あれだけ、大騒ぎになればな。……これで、大臣に食い物にされてたやつらも、少しは溜飲が下がるだろう」
響子「それで、今回は、どんな大物を狙ってるんですか?」
高倉「今回はモデルの男だ。無名のな」
響子「……地味ですね。そんなんじゃ、売れませんよ」
高倉「いいんだよ。今回ので、会社には大分稼いだだろうからな。元々、売り上げさえ担保できれば、自由にやらせてくれるって約束だ」
響子「……で、私を呼んだ理由はなんですか? その男にハニートラップでもしかけます?」
高倉「……響子」
響子「あー。ごめんなさい。冗談でも、もう言いません」
高倉「その男は大分、派手にやってるみたいでな。女をたらし込んでは、風俗に送り込んでるみたいだ」
響子「……高倉さんが一番嫌いなタイプですね」
高倉「カップルじゃないと入りづらいところもあるからな」
響子「なるほど。それで、私を恋人役として呼んだと?」
高倉「嫌なら帰ってもらって構わない」
響子「いえいえ。受けますよ。というか、光栄です。恋人相手に選んでくれて」
高倉「……嫌味か? 女の知り合いはお前しかいないって、知ってるだろ?」
響子「でも、新聞社の同僚とか、会社で探せばいくらでもいるんじゃないんですか?」
高倉「……そんなやつらじゃ、雰囲気でバレる」
響子「……ふふふ」
高倉「なんだ?」
響子「いや、光栄だなって思いまして」
高倉「?」
場面転換。
クラブ内。店内は賑わっていて、BGMが流れている。
響子「はい。飲み物。アルコール抜きでいいのよね?」
高倉「ああ、ありがとう」
ここからお互い、小声で。
響子「で、どうです?」
高倉「今のところ、動きはないな」
響子「……辛そうですけど、大丈夫です?」
高倉「こういう場所は、性に合わん」
響子「意外ですね。学生の頃は、こういうところに入り浸ってたって聞きましたけど」
高倉「情報を集めるために来てただけだ。好き好んできてたわけじゃないさ」
響子「……学生の頃から、そんなことしてたんですか?」
小声はここまで。
響子「そろそろ、踊ろう?」
高倉「お、おい!」
響子「こういう場所は、楽しむべきよ」
場面転換。
車内。
高倉「……」
響子「……真っ直ぐ、家に帰りましたね。特に女の子を誘うこともしてなかったようですし」
高倉「たまたま、好みの女がいなかっただけかもしれん」
響子「記者は忍耐が大事。……ですよね?」
高倉「ああ」
響子「あ、電気、消えました。疲れて、寝たみたいですね」
高倉「ありがとう。響子は帰っていいぞ。また明日、頼む」
響子「高倉さんはどうするんですか?」
高倉「このまま車で見張ってるよ」
響子「ダメですよ。長丁場になるんですから。車で一晩なんて、疲れが残りますよ」
高倉「……そう言われてもな」
響子「それに、シャワー浴びて、髭を剃らないと、目立ちますよ」
高倉「……んー」
響子「ってことで、一緒にあそこに泊まりましょう。あそこからなら、アパートも見えますし」
高倉「ばっ! おまっ! マズいだろ!」
響子「……高倉さん。ラブホじゃなくて、その隣のビジネスホテルです」
高倉「……」
響子「……一緒の部屋にします?」
高倉「怒るぞ」
場面転換。
レストラン。
響子「なかなか尻尾を出しませんね」
高倉「……若いやつにしては珍しく、慎重だな」
響子「……いつも一緒にいるのは同じ女の人ですしね」
高倉「……ふむ。これは本当に長丁場になりそうだな。響子には迷惑をかけるな」
響子「いえいえ。逆に役得ですよ」
高倉「役得?」
響子「ちゃんと日給出ますし、こうやって、高倉さんとレストランデートできますし」
高倉「……デートじゃない。取材だ」
響子「……高倉さんって、恋人いないんですか?」
高倉「いると思うか?」
響子「じゃあ、この際、私と付き合いませんか?」
高倉「……一人前じゃないやつとは付き合えん」
響子「一人前……ですか?」
高倉「なにか、大きなスキャンダルを出すことだな」
響子「じゃあ、大きなスキャンダルをゲットしたら、一人前って認めてくれるんですね?」
高倉「ああ」
響子「わかりました。約束ですからね。付き合ってくださいよ」
高倉「ああ……」
場面転換。
喫茶店。
響子「……ガセネタだったみたいですね」
高倉「まあ、こういうこともあるさ。おそらく、フラれた女が、そういう噂を流したんだろう」
響子「……あり得そうですね」
高倉「なんにしても、協力、ありがとう。また何かあったら頼むよ」
響子「ええ。じゃあ、近いうちに」
響子が行ってしまう。
高倉「……?」
場面転換。
テレビのニュース。
アナウンサー「驚きましたね。あの例のスクープを量産している記者の女性関連のスクープが出てきましたね」
コメンテータ「加工されていますが、音声と写真が出ましたからね。はは。噂だけの謎の記者でしたが、まさか、自分がスクープされる側になるとは思わなかったでしょうね。巷ではちょっとした話題ですよ」
プツっと、テレビを切る音。
編集長「あー、もう! どうせなら、ウチから出せばよかったのに! なんで、他社からすっぱ抜かれるんだよ! 高倉! ……って、高倉はどうした?」
記者「……外に出てます」
場面転換。
喫茶店。
高倉「……」
響子「スクープ、取りましたよ。約束、守ってくださいね」
高倉「……はあ」
終わり。