最適解

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■概要
人数:3人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
暁(あきら)
遥香(はるか)
教師

■台本

暁(N)「世の中は理論で動いている。何気なく転がるボールにだって、物理法則という理論でなりたっている。それはこの人間の生活でも同じだ」

場面転換。

教室内の授業。

暁「5Aの2乗です」

教師「正解だ」

教室内から「おー」という歓声が上がる。

教師「ったく。お前は数学と物理だけは凄いな。もっと他の教科も頑張れば、もっと上の大学だって狙えるんじゃないか?」

暁「上の大学に行くことは、俺にとっての最適解じゃありません」

教師「はあ……」

場面転換。

通学路。

暁と遥香が歩いている。

遥香「ねえ、暁。今度の土曜日に、買い物付き合ってよ」

暁「無理だ」

遥香「えー。なんでよ?」

暁「土曜は18時までゲームをする予定だ」

遥香「ゲームなんていつでもいいじゃん」

暁「土曜にイベントをやるんだ。その日が一番効率がいい」

遥香「暁は相変わらず、効率廚だね」

暁「違う。最適解なだけだ」

遥香「はいはい。わかりましたよーだ」

暁「……遥香」

遥香「なによ?」

暁「日曜なら、一日、付き合ってやる」

遥香「……ホント!? じゃあ、日曜日で!」

場面転換。

店内。

遥香「ねえ、暁、これ、どっちがいいと思う?」

暁「その大きさのコップなら、あそこの店で、もっと安く手に入る」

遥香「えー。値段じゃないよー」

暁「ん? コップに値段以外の価値があるのか? 液体を入れれば、要件は満たせている」

遥香「もう! デザインも大事でしょ、デザインも」

暁「そうか? 家計のことを考えれば、安さを重視するのが当然だ」

遥香「限られたお小遣いだからこそ、少し高くても、気に入ったものを使いたいの!」

暁「……よくわからんな」

遥香「ったく、相変わらず効率厨なんだから」

暁「違う。最適解だ」

遥香「はいはい」

場面転換。

学校入り口前。

教師「うおおお! 先生はお前らの担任になってよかったぞ! 卒業、おめでとう!」

生徒たちの鳴き声と笑い声が入り混じる。

場面転換。

道を歩く暁と遥香。

遥香「あははは。先生、最後まで暑苦しかったねー」

暁「あそこまで感情を高ぶらせられる理由が理解できん。たかが、卒業式だろ」

遥香「……3年間、あっと言う間だったね」

暁「時間の概念はすべての人間が同じだ」

遥香「もう! そういうことじゃないってば! 色々、思い出とかないの?」

暁「あるぞ。だが、それと時間の概念がどう関係あるんだ?」

遥香「はあ……。暁に聞いた私がバカだった」

暁「……だが」

遥香「ん?」

暁「3年間は楽しかった」

遥香「もうー! それを最初に言いなさいよ! 少しは雰囲気を大事にしてよね!」

暁「雰囲気? 論理的ではないものに興味はない」

遥香「はあ……。相変わらず、効率厨なんだから」

暁「違う。最適解だ」

遥香「あっそう。暁が空気読まないなら、私も読まないからね」

暁「勝手にしろ」

遥香「ねえ、暁。結婚を前提に付き合ってよ」

暁「……は?」

遥香「だーかーら! 付き合ってって言ったの!」

暁「な、なぜ、このタイミングなんだ? もっと、こう、あるだろ。色々と」

遥香「暁が、その台詞言う?」

暁「……」

遥香「……で? どうなの?」

暁「……本気、なのか?」

遥香「冗談で言うほど、空気読めてないわけじゃないから」

暁「……では、俺も本気で答える」

遥香「う、うん……」

暁「俺はお前の最適解じゃない」

遥香「え? どういうこと?」

暁「……お前の家は、多額の借金がある」

遥香「……そうだよね。借金を背負うのは嫌だよね」

暁「そうじゃない」

遥香「……」

暁「俺が進学するのは2流大学だ。卒業しても、一般の平均値の給料しか稼げないだろう」

遥香「……」

暁「だが、遥香。お前は器量がいい。性格も人を惹きつけるものがある。つまり、モテるということだ」

遥香「……それがなによ?」

暁「つまり、俺なんかと結婚するよりも、もっと所得の高い、いわゆる富裕層と結婚した方がいいってことだ」

遥香「はあ……。結婚に関しても、効率厨かぁ」

暁「違う。最適解だ」

遥香「そんなことよりも、暁の気持ちが知りたいの! 私のこと好きなの? 嫌いなの?」

暁「その二択なら、好きだ」

遥香「なら!」

暁「しっかりしろ! これからのお前の人生なんだぞ! 一時の感情でものを決めるな! お前にとって、最適解を選べ!」

遥香「……わかった。最適解を選ぶよ」

暁「ああ。それでいい」

場面転換。

夜道を歩く暁。

暁「はあ……。今日も残業、疲れたな」

立ち止まり、鍵を開ける。

ガチャリとドアを開ける。

暁「……ただいま」

呟いて、家の中まで歩く暁。

ドサリと、椅子に座る。

暁「ふう……」

家の中はシーンとしている。

暁「……」

ガバッと後ろから抱き着かれる。

暁「うわっ!」

遥香「暁―!

暁「遥香、今日は遅くなるから、寝てろって言っただろ」

遥香「聞いてよー! 借金、返し終わったー!」

暁「ホントか?」

遥香「うん! 暁、ご苦労様でした。……ありがとうね」

暁「俺一人の力じゃない。遥香だって、働いてたし、俺を支えてくれてただろ? お前の方がよっぽど苦労しただろ」

遥香「うん……。でもね、私が頑張れたのは暁のおかげ」

暁「……そうか」

遥香「私ね、幸せだよ」

暁「……そうか」

遥香「暁は?」

暁「もちろん、幸せだ」

遥香「……ね? 言った通りでしょ?」

暁「何がだ?」

遥香「これが私の最適解」

暁「……そうだな」

終わり。

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