平穏な家庭
- 2022.08.22
- ボイスドラマ(10分)
■概要
人数:3人
時間:10分
■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス
■キャスト
慎吾(しんご)
恭弥(きょうや)
真希(まき)
■台本
朝のリビング。バタバタしている。
恭弥「母さん、俺のジャージは?」
真希「洗濯して、畳んで、部屋に置いてあるわよ」
恭弥「え? マジ?」
バタバタと階段を上っていく音。
慎吾「それじゃ、行ってきます!」
真希「あっ、お父さん! お弁当!」
慎吾「ありがとう! 行って来る!」
真希「行ってらっしゃい、気を付けてね」
慎吾が慌ててドアを開けて出ていく。
同時に恭弥が降りて来る。
恭弥「行ってきまーす!」
真希「恭弥、朝ご飯は?」
恭弥「売店でなんか食うからいい!」
真希「まったく……。お小遣い無くなっても知らないわよ」
恭弥「やべー! 遅刻する!」
真希「行ってらっしゃい、気を付けてね」
恭弥が慌ててドアを開けて出ていく。
急に家の中がシーンと静かになる。
真希「……さてと。パートの時間まで、お掃除しないと」
場面転換。
家の中。食卓を真希、恭弥、慎吾が囲っている。
恭弥「(がっついている)んぐ! んぐ!」
真希「恭弥。いっぱいあるんだから、がっつかないの」
慎吾「……母さんも少しは急がないと、唐揚げ、全部、恭弥に食べられるぞ」
真希「いいのよ。私は別に」
慎吾「あっ、恭弥! おまっ! ホント、食いすぎだって! 父さんのなくなるだろ!」
恭弥「早い者勝ちだって」
真希「ふふっ」
場面転換
リビング。
ソファーに座ってテレビを見ている慎吾。
真希「はい、コーヒー」
慎吾「お、ありがとう」
横に真希が座る。
真希「ねえ、あなた」
慎吾「ん? どうした?」
真希「私ね、今、凄く幸せよ」
慎吾「なんだよ、急に? なんかいいことでもあったのか?」
真希「ううん。何もない。……何もないから幸せだなーって」
慎吾「なんだそりゃ? そんなの刺激がなくてつまらないだろ」
真希「結婚前……。あなた、言ってくれたわよね。僕は平穏な家庭しか築けない。でも、その平穏は絶対に壊さないって」
慎吾「はは……。プロポーズの言葉、まだ覚えてるのか? 恥ずかしいな」
真希「ありがとう、あなた。私にとって、この平穏が何よりの幸せよ」
慎吾「(咳払いして)改めて誓うよ、真希。俺はこれからもこの平穏を守ってみせる」
真希「……うん、約束よ」
場面転換。
ガチャリとドアが開く音。
慎吾が家に入って来る。
慎吾「ただいまー。今日は早く上がれたから、寿司買って来た……って、母さん!
おい! 大丈夫か!」
恭弥が階段から降りてくる音。
恭弥「うるさいなぁ……って、母さん!? 母さん!?」
場面転換。
仏壇の前。
チーンというりんが鳴る音。
慎吾「真希。フルーツ買って来たんだ。……メロンが安くてさ……」
沈黙が続く。
慎吾「う、うう……」
場面転換。
朝のリビング。
恭弥「……行ってきます」
慎吾「あ、恭弥、お弁当」
恭弥「あ、うん。ありがとう」
弁当を受け取る恭弥。
恭弥「父さん、無理しなくていいから」
慎吾「え?」
恭弥「昼は売店で買うからさ」
慎吾「けど……」
恭弥「父さんだって、朝は忙しいだろ? それに……父さんの弁当、あんま美味しくないから」
慎吾「……」
恭弥「じゃあ、行ってきます」
慎吾「……」
場面転換。
ガチャリとドアが開いて慎吾が家に入って来る。
慎吾「おーい、恭弥! 弁当買ってきたぞ」
階段から降りて来る恭弥。
恭弥「食ったからいいよ」
慎吾「え? そうなのか?」
恭弥「もう10時だし」
慎吾「……すまん」
恭弥「それに、そこの弁当、もう飽きた」
慎吾「……この時間に開いてるのあそこしかないんだ」
恭弥「そういえば、トイレットペーパーなくなってる」
慎吾「え? この前、買ったばかりなんだけどな。どこに置いたっけ?」
恭弥「知らないよ」
場面転換。
洗面台。
歯を磨いている慎吾。
口をすすいで、水を吐き出す。
慎吾「ふう。……あれ? なんだ、この黒いの? ……うわ、カビだ。こんなところにカビなんて生えたことなかったのにな」
場面転換。
朝のリビング。
階段から恭弥が降りて来る。
恭弥「父さん。俺のジャージ、汗くせーんだけど」
慎吾「洗濯機に入れておいてくれ。週末に洗うから」
恭弥「……母さんは汗臭くなる前に洗ってくれたんだけど」
慎吾「……っ!? 母さんはもういないんだ! そんなことはわかってるだろ!」
恭弥「……わかってるよ! それくらい!」
慎吾「じゃあ、グダグダとくだらないこと言うなよ!」
恭弥「わかったよ! もう二度と言わねーよ!」
ズカズカと歩いてドアを開けて出ていく恭弥。
バタンと勢いよくドアを閉めていく。
慎吾「……」
部屋の中が静まり返る。
慎吾「……真希」
回想。
真希「結婚前……。あなた、言ってくれたわよね。僕は平穏な家庭しか築けない。でも、その平穏は絶対に壊さないって」
慎吾「はは……。プロポーズの言葉、まだ覚えてるのか? 恥ずかしいな」
真希「ありがとう、あなた。私にとって、この平穏が何よりの幸せよ」
回想終わり。
慎吾「う、うう……。真希。平穏な家庭を守ってくれてたのは、お前だったんだな。毎日が大変だったのに、いつも笑顔で……俺たちに平穏な家庭をくれたんだ……。ごめん、ごめん……真希」
回想。
慎吾「(咳払いして)改めて誓うよ、真希。俺はこれからもこの平穏を守ってみせる」
真希「……うん、約束よ」
回想終わり。
慎吾「そうだ……。約束……したんだっけ」
場面転換。
ガチャリとドアが開き、恭弥が家に入って来る。
部屋の中から掃除機の音がする。
慎吾「恭弥、お帰り」
掃除機を止める慎吾。
恭弥「あれ? 父さん? 何やってんの?」
慎吾「掃除だ。ずっとしてなかったからな」
恭弥「いや、それもだけど仕事は?」
慎吾「上司に頼んで、少し休みを貰った。今までサボってた分、家のことやるためにな」
恭弥「ふーん。……って、晩飯も作ったの?」
慎吾「ネットのレシピ通りに作ったから、変な味にはなってないはずだ」
恭弥「……」
慎吾「ごめんな、恭弥。母さんがいなくなって、俺、ずっとお前と向き合うことから逃げてた。これからはちゃんと向き合う。この家の平穏は俺が守るから」
恭弥「貸して」
慎吾「え?」
恭弥「掃除機」
慎吾「あ、うん」
掃除機のスイッチを入れ、掃除を始める恭弥。
恭弥「ごめん、父さん。俺も家族なのにさ」
慎吾「……」
恭弥「この家の平穏は2人で守っていこうぜ」
慎吾「……ああ。そうだな」
終わり。