母の願い

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■概要
人数:4人
時間:10分

■ジャンル
ボイスドラマ、現代、シリアス

■キャスト
正弘(まさひろ)
由紀恵(ゆきえ)
渡瀬 双葉(わたせ ふたば)
配達員

■台本

正弘(N)「由紀恵さんには感謝している。それはもう、一生かかっても返しきれないほどの恩がある。でも……だからと言って、俺は由紀恵さんを家族として受け入れることはできないのだ」

場面転換。

正弘の部屋。

ガチャリとドアが開いて、由紀恵が顔を出す。

由紀恵「正弘、洗濯ものある? あるなら、一緒に洗っちゃうけど」

正弘「いいよ、別に。後で自分で洗うから」

由紀恵「なによ? お年頃ってわけ? 恥ずかしがることないじゃない。家族なんだし」

正弘「そんなんじゃないよ。……それに、家族でもないから」

由紀恵「正弘……」

正弘「もう、俺に構わないで」

由紀恵「……」

場面転換。

リビング。

由紀恵「……正弘、ちょっとここに座りなさい」

正弘「……明日にしてくれない? 今日は疲れたんだ」

由紀恵「ダメ! 早く座りなさい!」

正弘「……」

渋々椅子に座る正弘。

由紀恵「これ、先生から送られて来たんだけど、どういうこと?」

正弘「書いてあるままだよ」

由紀恵「大学に行かないで、就職希望ってどういうことよ!」

正弘「だから、そのままだって。卒業したら就職する」

由紀恵「なんでよ? お金なら何とかするって……」

正弘「そこまでしてもらう義理はないよ」

由紀恵「義理って……私はあなたの母親よ。大学に出すのに義理もなにもないでしょ」

正弘「母親じゃないでしょ」

由紀恵「……正弘」

正弘「由紀恵さんには感謝してる。この恩は一生かかっても絶対に返すつもりだよ」

由紀恵「恩だなんて……」

正弘「お願いだ。……これ以上、俺のせいで不幸にならないでほしい」

由紀恵「言ってるでしょ! 正弘を引き取ってから、一度も不幸だなんて思ったことない!」

正弘「自分ではそう思ってなくても、傍から見たら、十分不幸だよ」

由紀恵「……そんなこと」

正弘「俺がいるから、結婚でもできないし」

由紀恵「別に結婚したいだなんて思ってないわ」

正弘「俺のせいで色々とお金だってかかってる」

由紀恵「自分の子供を育てるのにお金がかかるのは当たり前よ」

正弘「そもそも、仕事だって、俺のせいでキャリアを捨てることになったんでしょ?」

由紀恵「そ、それは誤解よ!」

正弘「俺がいなかったら、由紀恵さんはもっと幸せになれたんだ」

由紀恵「違う!」

正弘が立ち上がる。

正弘「とにかく、高校卒業したら、就職して、ここを出てくから」

由紀恵「え? ここを出てくって、どういうこと?」

正弘「もう決めたから」

正弘が歩き出す。

由紀恵「ちょっと待ちなさい! 正弘!」

構わず歩き続ける正弘。

場面転換。

玄関。

靴を履いている正弘。

そこに由紀恵がやってくる。

由紀恵「ちょっと、正弘、どこに行くの?」

正弘「友達のところ」

由紀恵「……今日は誕生日会やるんだから、早く帰ってくるのよ」

正弘「はあ……。子供じゃないんだから、いいよ、誕生日会なんて」

由紀恵「ダメ! 絶対にやるんだから!」

正弘「……」

そのとき、インターフォンが鳴る。

由紀恵「はい?」

配達員「配達物です」

場面転換。

リビング。

正弘「……スーツとDVD? 俺宛で……誰だろう? 渡瀬双葉?」

由紀恵「っ!」

正弘「……知ってる人?」

由紀恵「あなたの……お母さん」

正弘「え?」

場面転換。

DVDの再生ボタンを押す正弘。

双葉「撮れてるかな? やっほー! まーくん、見てる? お母さんだよー! って、いきなりこんなこと言われても困るよね?」

正弘「どういうこと? 俺、捨て子だって……」

由紀恵「……」

双葉「あ、由紀ちゃんのことは責めないで。私が捨て子だって言ってって頼んだんだ」

正弘「……どうして?」

双葉「そうしないと、まーくん、私のこと恨めないでしょ?」

正弘「……」

双葉「じゃあ、なんでこのタイミングで、これを送ったかと言うと、18歳ならそろそろ色々受け止められるかなって思ってさ。ホントは二十歳の誕生日にしようかと思ったんだけど、まーくんが気を使って大学に行かないーなんて我儘言いそうだな―って思ってさ」

正弘「……」

双葉「じゃあ、改めて、まーくん……ううん。正弘、18歳の誕生日、おめでとう。これからは大人としてしっかりと生きるんだよ。で、スーツは私からの誕生日プレゼント。それ着て、大学の入学式に行ってね」

正弘「……」

双葉「あーあ。まーくんのスーツ姿見たかったなぁ。あ、そうだ。そのスーツは想像で作ったから、サイズ合わなかったら、直してもらってね」

正弘「こんなこと急に言われても……」

双葉「ふふ。急にこんなこと言われてもって思ってるかな? いきなり知らない人からスーツを貰っても、なんか嫌だよね? だから、スーツを貰う代わりに私のお願いを聞いてくれない?」

正弘「……」

双葉「まず一つ目。この先もずーっと、元気で健康に暮らすこと。二つ目は逆境に負けず、胸を張っていきること」

正弘「……」

双葉「三つ目は由紀ちゃんを大事にすること。親友の子供を引き取るなんて、普通は出来ないことだよ。ホント、マジ天使だよね」

由紀恵「……もう、バカ」

双葉「で、最後のお願い。……由紀ちゃんをお母さんって呼んであげて」

正弘「っ!?」

双葉「どうせ、由紀恵さんとかって呼んでるんでしょ? わかるよ、わかる。なんてったって、私の子供だからね。変なところで意地張ってんでしょ?」

正弘「……」

双葉「私のことは恨んでもいい。……ううん、恨まれて当然だよね。だって、まーくんに何もしてあげられないから。……私は病気でもうすぐまーくんとお別れしなくっちゃならないけど、これだけは絶対に言えるよ。……まーくのことは今もずっと天国から見守ってるし、まーくんのことをずーっと愛してるから。これまでも、これからも。それじゃ、バイバイ。由紀ちゃんと仲良くね」

DVDの再生が停まる。

正弘「……」

由紀恵「正弘……」

正弘「いいかな?」

由紀恵「え?」

正弘「俺……母さんが2人いて、いいかな?」

由紀恵「正弘……。ありがとう」

終わり。

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